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🫧第6話「泡のゆらぎ、鏡のまどろみ」
泡の夜が明けようとしていた。
空は淡く、泡の残光が静かに漂っている。
聖名(みな)は律と並んで泡の道を歩いていた。
もう仮面は外されていたけれど、感情のリズムだけは、まだふたりの足元で鳴り続けていた。
「この世界って……わたしたちが出す音でできてる気がする」
聖名(みな)が言った。
律は頷く。
「君の気持ちが泡にならない限り、この世界は消えないと思う」
ふたりは、鏡の回廊へ戻ってきた。
そこは最初に衣装が変わった場所。
でも今、鏡に映るのは――記憶の欠片だった。
泡の揺れに合わせて、鏡がぼんやりと開いていく。
中には「名前のない自分」と「音だけでつながっていた律」が、夢の質感で眠っていた。
🌙夢の記憶が語りかける
聖名(みな)が鏡に手を伸ばすと、泡の声が聞こえた。
「名前を持つ前のきみへ。
泡は割れることを恐れていたね。
でも、言葉にならない感情ほど、ちゃんと残っているんだよ」
それは、かつて泡ピアノを弾いていた律の記憶が語っていた。
鏡のなかに、夢で出会った“あの時の律”が浮かび上がる。
聖名(みな)はそっと呟いた。
「律……今、どの律に話しかけてるんだろう」
それでも、鏡の泡は震えて応えた。
「ぼくは、君が呼んでくれたほうの律だよ。
“あなた”って言ったとき、ぼくはここにいた」
その言葉に、聖名(みな)は静かに目を閉じる。
泡がふた粒、頬を伝って落ちた。
鏡の奥にあったのは、泡のベッド。
その上に寝そべる過去の聖名(みな)が、夢の続きを待っていた。
律はそっと指を伸ばし、彼女の泡リボンに触れる。
「泡にならなかった記憶は、君のまどろみに溶けていく。
だから、戻るときは“名前を呼ばない”ように気をつけて。
泡が破れてしまうかもしれないから」
聖名(みな)は「律」と口の中でそっと唱えてみる。
その言葉は、泡にならずに静かに空気に溶けた。
そしてふたりは、泡の世界を後にする。