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カップに口をつけるととんでもなく苦くてわたしは思わず顔をしかめた。


「ああ、それ? コーヒーよ。さすがにアンタはまだブラックは飲めないか。しょうがないわねぇ」


ママは角砂糖を二つポチャンとカップに落とす。スプーンでぐるぐる混ぜながら、さらにミルクを追加した。真っ黒な色が淡いベージュに変わっていく。


「カフェオレよ」


「かふぇおれ?」


「いいから黙って飲みなさい」


先ほどとはうって変わって甘くてほろ苦い香りに変化している。恐る恐る口をつければじんわりとした甘さが体中に染み渡っていった。


「美味しい」


「そうでしょうとも」


ママは得意気に鼻を鳴らした。


ママのお店には異世界の食べ物しかないらしい。

ママ曰く、「アタシにとってはここが異世界なのよ。どう考えてもこの世界の食べ物はマズいわね」と容赦ない。


ママの言っている意味がよくわからないけれど、素直に受け取れば「ママは異世界人」だと言ってない?


普通異世界人だなんて聞いたら驚きもする気がするのだけど、ママの風貌からして「あ、うん、そうなんだ」と妙に納得してしまうわたしもいて――。


それに、ママの作り出す料理がどれも魅力的で興味深い。

見たことのない食材ばかり使うのだ。本気でこの世界の食べ物を使う気はなさそうな、そんな感じ。


「昨日包丁の使い方は教えたわよね。アタシはちょっと用事で出かけるから、下ごしらえしておいて頂戴。それが今日のアンタの仕事よ」


「どこ行くの?」


「アタシ、向こうにも店を持ってるわけ。ちょっと顔出してくるわ」


「向こう?」


「ポッと出のアンタに教える義理はないわね」


「ぐっ……!」


確かに!確かにそうだけども!

そりゃ昨日行き倒れて無理やり押しかけちゃったわたしに何でもかんでも教えるなんてことはないだろうけどさぁ、もうちょっと言い方ってものがあるじゃないの。


と、ぐぬぬとなっているうちに、ママはわたしに目もくれず「ついてくるんじゃないわよ」と言い残し、さっさと奥の扉へ消えていった。


ついてくるなと言われるとちょっぴり興味もわくわけで……。


わたしは奥の扉を凝視する。

何の変哲もない、普通の扉だ。きっと裏口だと思うけど、“向こうのお店”とは一体何のことだろう?近くにもうひとつお店を持っているのだろうか?


ママの存在が謎すぎる。


ひとまずわたしはキッチンを見回した。

キッチンには「じゃがいも」と「たまねぎ」と「にんじん」が置いてある。皮をむいて一口大に切っておくことが「下ごしらえ」らしい。どれも私にとっては初めての食材なんだけど。


「えっと、まずは皮をむけばいいのよね……」


わたしは包丁を手に取る。確かに勇者が持つ剣よりはずいぶん小さくて扱いやすいけれど、これはこれで難しいと思うの。それに「じゃがいも」はゴツゴツして皮が剥きにくいし、「にんじん」ってどこまでが皮なのかよくわからないし、「たまねぎ」はなんだか目がチクチクと痛い。


まさかママがわたしに仕掛けていったトラップだったりする?


へっぽこ勇者は伝説をつくる

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