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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「花音。大丈夫?」



 私の顔を覗き込み、心配そうにそう訊ねる彩奈。

 酸欠で具合が悪くなったのと、恥ずかしくてあの場にいられなくなった私は、斗真くん達と別れると少し離れた場所へと移動した。


 花火会場からは少し離れてしまうけど、ここでも充分に花火は見えるはず。

 何より、人が少なくていい。実は穴場スポットだったのかもしれない。



「うん、もう大丈夫。ありがとう」


「動ける?」


「うん」



 ベンチに腰掛けて休んでいた私は、立ち上がるとお兄ちゃん達のいる方へと向かって足を進めた。

 目の前に見えるのは、場所取りをしてくれているお兄ちゃん達の姿。何やら、見覚えのない数人の男女と談笑している。



「誰だろ?」


「さぁ……?」



 私の隣を歩いている彩奈は、お兄ちゃん達の姿を眺めながら首を傾げる。



(学校の友達かな?)



 そんな考えを頭の中で思い浮かべた私は、そのままお兄ちゃんの背後まで着くとピタリと足を止めた。



「お兄ちゃん」



 私の声に振り返ったお兄ちゃんは、私を視界に捉えると優しく微笑む。



「具合良くなったか?」


「うん。もう大丈夫」



 そんな返事を返しながら、お兄ちゃんの背後へとチラリと視線を移す。すると、それに気付いたお兄ちゃんは口を開いた。



「学校の奴ら。今さっきそこで偶然会ったんだよ」



 チラリと背後に視線を送ったお兄ちゃんは、そう告げると私と彩奈を皆に紹介してくれる。



「妹の花音と、その友達の望月彩奈さん」


「あー、知ってる知ってる! 噂の妹ちゃん!」


「誰と付き合っても妹優先するからフラれるって噂の? あー……。まぁ、こりゃ確かに優先したくもなるわ」



 そう言って、ジロジロと私を見てくる先輩達。



(ていうか……お兄ちゃんて彼女いたんだ。全然知らなかったよ)


 

「可愛いね〜。俺と付き合わない?」



 私の顔を覗き込む先輩は、そう告げるとニッコリと笑った。



(えっ? 私……今、告白されたの? 生まれて初めてだよ、告白なんてされたの……)



 人生初の告白に感動で小さく震えていると、突然横からグイッと肩を抱き寄せられる。



「手、出したら殺すよ?」



 その声に頭上を見上げてみると、ニッコリと微笑むお兄ちゃんがいる。

 笑ってはいるけど……その顔は完全に鬼だ。背後には、なにやらどす黒いオーラまで放っている。



「お友達も可愛いね〜。俺と付き合わない?」



 今度は彩奈に告白する先輩。



(なんて変わり身の早い人なんだろう……。私の感動を返してもらいたい)



「この子もダメだから」



 お兄ちゃんは空いていた左手で彩奈の肩を抱き寄せると、そう言って先輩から遠ざける。

 お兄ちゃんの腕に抱かれて少し俯き加減の彩奈は、何だか微妙に顔が赤い気がする。



(どうしたんだろ? ……あっ。鬼が怖いのね)



 チラリとお兄ちゃんを見上げると、そこにはやっぱり鬼がいた。



(怖いよね……私も怖いもん。ごめんね、彩奈)



「──花音」



 突然呼ばれたその声に視線を向けてみると、そこにはニコニコと微笑むひぃくんがいる。その腕には、何故か見知らぬ女の人が絡みついている。



(……何、してるの……?)



 ニコニコと微笑みながら、私達の方へと向かって来ようとするひぃくん。それを必死に引っ張って止めている女の人。

 よく見てみると、とても可愛い人だ。



(……何だか……っ胸が、痛い)



 チクチクとしだした胸に、思わず顔を歪める。



(何っ、これ……。私、死ぬの……?)



「お……っお兄ちゃん……。苦しっ……私、死ぬ……っ」


「えっ!?」



 お兄ちゃんの胸に顔をうずめて必死にそう訴えると、頭上からお兄ちゃんの焦ったような声が聞こえた。

 


 そして再び、ベンチへ逆戻りした私。

 そんな私の隣では、彩奈が心配そうな顔をして私を見ている。



「花音……大丈夫?」


「うん。何かもう治ったみたい」



 俯いていた顔を上げてお兄ちゃん達の方を見てみると、心配そうにチラチラとこっちを見ているお兄ちゃんがいる。一緒に付いてこようとしたお兄ちゃんを制すと、私は彩奈と二人でベンチへと戻って来た。

 せっかく友達と楽しそうにしているのに、何だか連れ出すのは申し訳なかったから。


 チラリとひぃくんに視線を移すと、相変わらずその腕には女の人がくっついている。

 その光景を目にした途端、何だかまた胸が苦しくなってくる。



「あ……っまた、胸が苦しくなってきた……。どうしよう……っ私、死ぬの……?」



 ひぃくんを見つめたままそう呟くと、私の視線を辿った彩奈が溜息を吐いた。



「ねぇ。それって、響さんを見ると苦しくなるんじゃない?」



(す、凄いっ。何でわかるの? その通りだよ)



「うん……。っ苦しい、助けて……っ」



 苦痛に顔を歪めたまま必死に懇願すると、彩奈はそんな私を見て溜息交じりに口を開いた。



「それは響さんのことが好きって事だよ。……花音のバカ」



 彩奈の言葉に、思わず顔が引きつる。



(そんな訳ないじゃん……。何言ってるの? 酷いなぁ……バカだなんて)



 引きつった顔でぎこちない笑顔を作ると、小さく笑い声を漏らす。



「あの女の先輩のことが気になるんでしょ? 」


「……っ、うん」


「可愛いもんね、あの先輩」


「うん」


「響さんの事好きだよ、あの人」


「……えっ」



 彩奈のその言葉に衝撃を受けた私は、ひぃくん達から視線を逸らせないままその場で固まってしまった。



(あんなに可愛い人が……ひぃくんを……好き、なの……?)



「あのまま二人が付き合ってもいいの?」



 ズキズキと胸が痛む。



(お願い……っやめて、彩奈)



「付き合っちゃうかもね? あの二人」


「やっ……、やだっ!」



 今にも泣き出しそうな顔をして大声を上げると、そんな私を見た彩奈はクスリと笑った。


 

「……好きなんだね、響さんの事」



 私を見つめる彩奈は、そう告げるととても優しく微笑んだ。



(そっか……私……ひぃくんの事が好きなんだ──)



 素直にそう認めてみると、何だか胸の中が少しだけ軽くなったような気がする。



「うん。……好き」



 そう小さく呟くと、私を見つめる彩奈はニッコリと微笑んだ。



「やっと自覚したね」



(でも……っ、自覚したからってどうすればいいの?)



 私は彩奈から視線を外すと、相変わらず女の人と一緒にいるひぃくんを見つめた。やっぱりズキズキと痛む胸に、ギュッとひよこを抱きしめる。

 とその時──女の人と連れ立って、何処かへ向かって歩き始めたひぃくん。そのまま皆のいる場所から、どんどん遠ざかってゆく二人。



(え……っ? 何処に行くの?)



「告白かもね」


「え……っ」



(あの人と付き合っちゃうの……? もう、ひぃくんと一緒にいられなくなっちゃうの? っ、……そんなの嫌。絶対に嫌……っ!)



 そう思った私は、気付けばその場から勢いよく走り出していた。

 後ろで彩奈が私を呼んでいる声が聞こえるけど、それでも私は止まる事なく走り続けた。



(どこ……っ? どこにいったの……っ、ひぃくんっ!)



 人気のない場所で、必死にキョロキョロと辺りを見回す。



「ひぃくん……、どこにいるの……っ」



 中々見つけられないその姿に、心細さと悲しさで涙が出そうになる。

 今にも溢れ落ちてしまいそうな涙をグッと堪えると、私は胸元に抱きしめたひよこに顔をうずめた。



「──花音っ!」



 聞こえてきた声に反応して勢いよく顔を上げると、私の視界に飛び込んできたのは、必死に探し求めていたひぃくんの姿だった。

 とても焦った顔をみせるひぃくんは、すぐに私の元まで駆け寄ると心配そうに私の顔を覗き込んだ。



「こんなところで何してるの? 一人でいたら危ないよ?」


「ひぃくん、探してたのっ……。嫌……っ」



 小さく呟くようにして声を漏らすと、そのまま目の前のひぃくんにしがみつく。

 そんな私を優しく抱きとめてくれたひぃくんは、まるで私をあやすかのようにして優しく頭を撫でてくれる。



「花音、どうしたの? 嫌って何が嫌なの?」



 ついにグズグズと泣き始めてしまった私に、「泣かないで」と優しく声を掛けながら涙を拭ってくれるひぃくん。



「ひぃくん、いなくなっちゃ嫌ぁ……」


「大丈夫だよ、いなくならないよ?」


「私っ……、ひぃくんが好きなの……。ずっと一緒にいたい……っ」



 思いのままにそう伝えると、私の頭を撫でていたひぃくんの手がピタリと止まった。

 抱きしめられていた身体をゆっくりと離されると、私と目線を合わせたひぃくんがニッコリと微笑む。



「花音。もう一回言って?」



(……どこを?)



「一緒にいたい……」


「んー。違うよ、花音。そこじゃないよ?」



 小首を傾げてニコニコと微笑むひぃくん。



(もしかして……好きって……、ところ? むっ……ムリムリムリッ! 恥ずかしすぎるもんっ!)



 チラリとひぃくんを見てみると、ニコニコと微笑みながら私の言葉を待っている。



(どうしてまた言わなきゃいけないの……。何でちゃんと聞いててくれないのよ……、ひぃくんのバカっ)



「…………っ、好き……」



 真っ赤になりながらもポツリと小さな声を溢すと、とても嬉しそうな顔をしてフニャッと笑ったひぃくん。



「俺も花音のことが大好き〜」



 幸せそうに微笑むひぃくんにつられて、思わずクスリと笑みが漏れる。




 ────ドンッ!




 突然聞こえてきた大きな音につられるようにして、すぐ横へと視線を移してみる。

 すると、ヒュルヒュルと空高く打ち上がった光が、パッと綺麗な花火を咲かせた。



「花火……」


「始まっちゃったねー」



 木々の隙間から覗く花火を眺めながら、隣に並ぶひぃくんの浴衣の袖をキュッと掴む。



(花火……ひぃくんと一緒に見れて良かった)



 毎年一緒に見ているはずなのに、何故か今年の花火だけは特別に思える。



「花音は俺の大切なお嫁さんだからね?」



 花火から視線を移すと、とても優しい笑顔を向けるひぃくんと視線が絡まる。



「……うん」



 私の返事にフワリと優しく笑ったひぃくんは、私の頬に静かに両手を添えると、そのままゆっくりと唇を重ねた。

 私の腕の中にいるひよこが、地面へと向かってポトリと落ちてゆく。



(え────)



 そっと触れるだけのキスをしたひぃくんは、私から離れるとニッコリと優しく微笑んだ。



(私……今、ひぃくんとキス……。キス……、しちゃった……)



 そう認識した途端に、一気に熱の上がった私の顔。きっと、今の私の顔は真っ赤に違いない。

 恥ずかしさから顔を俯かせると、下に落ちたひよこを拾い上げたひぃくん。パンパンと軽くその場で汚れを落とすと、ひよこを差し出してニッコリと微笑む。



「はい。おっぱい落ちたよ?」



(…………。……クッションだよ)



 こんな時でさえ、いつもと変わらないひぃくん。

 すっかりと“おっぱい”が名前みたいになってしまったひよこを受け取ると、私はニコニコと微笑むひぃくんを見つめた。


 ちょっぴり変なひぃくん。

 きっと、これからもそれは変わらない。



 ──だけど、そんな君が大好きです。







◆◆◆



次ページより

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ぱぴLove〜私の幼なじみはちょっと変〜

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