テラーノベル
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お正月明けてすぐに、僕達は会議の為に事務所で集まっていた。
「今回の衣装のコンセプトは、『光の三原色』にしようと思って。」
元貴が、七月に行う十周年ライブの資料の隅に、『赤』『緑』『青』と、それぞれを丸に囲んで、三角形に配置して殴り書きする。そして、三つの丸が重なった部分に、『光(白)』と書いた。
僕と若井は、両脇からそのメモを覗き込みつつ、元貴の話に耳を傾ける。
「俺たち3人が、一緒にいる意味。俺たち3人が合わさって、『光』になる。この『光』が、俺たちの『楽曲』だったり、『存在』だったり。俺たち3人の『光』をどういう形で受け取るかは、ファンによってそれぞれ違って良いし、敢えて明言はしないけど、この三原色で、このライブは表現したいと思ってる。」
うんうん、と僕たちは頷いて、同意を示した。元貴は、色々と殴り書きをしたメモに、トントンとペンを打ち付けて、しばし思案を巡らせる。
「誰が、何を着るかだなー。」
「はい、俺、青がいい。」
元貴が呟くと、若井が手を挙げて自薦した。
「んー、まあそうなるよな。メンカラだから?」
「うん、青は俺しかないでしょ。」
「うん、若井は青だよね、やっぱ。」
若井の提案に、僕と元貴もすんなり納得する。青を手に入れて、若井も満足そうだ。
「…涼ちゃんは?どっちが良いとかある?」
元貴が、僕に意見を求めた。僕は、ゆっくりと元貴のメモを指差す。
「「…赤?」」
元貴と若井が、同時に声を上げた。僕は黙って頷く。
「…緑は、元貴に着てもらいたい。だって…。」
僕が先を言い淀むと、元貴も若井も僕の顔をじっと見つめた。
「…やっぱ、ミセスの色だと思うから。これは、元貴が必死で、人生全てを懸けて創り上げてきた色だから。」
「…赤は、消去法?」
元貴が、静かに訊いてくる。僕は首を横に振った。
「そんな訳ないでしょ、僕は、元貴には緑を着てほしいし、僕が赤が良いの。」
「…そっか。」
元貴が、優しく笑った。若井も頷いてくれて、それぞれの今回担当する色が決まった。
そのまま、衣装さんとどんな生地でどんな形の物にするか相談したり、アクセサリーからメイクやそれぞれの髪色まで、会議を続けた。
一月下旬のアメリカのディズニー訪問の後、少しだけ時間がもらえて、制作の合間を縫って僕はお正月休みから久々に元貴の家へ遊びに来ていた。
部屋へ入るなり、元貴は僕をソファーへ呼んで、膝に乗って抱きついてきた。
「あー、めっちゃ久しぶり…。」
「会えない訳じゃないけど、なかなかゆっくり時間取れなかったね。」
僕も、ぎゅっと抱きしめて、久しぶりの元貴の暖かさと、間近で嗅ぐ匂いを存分に味わう。元貴が、僕の肩に顔を埋めたまま、話しかけてきた。
「…ねえ、ずっと訊きたかったんだけどさ。」
「ん?」
「フィヨルドの衣装、赤が良いって言ったでしょ?」
「うん。」
「なんで?」
「え?」
「緑を俺に、ってのは分かるけど、消去法じゃないって言ってたし、理由はそれだけじゃないでしょ?」
「うーん…。」
僕は、上を向いて、少し考える。
「…フィヨルド終わるまで、内緒にしてても良い?」
「…なんで?」
「…照れちゃうから。」
元貴が僕の肩から顔を離して、顔が向き合う形で首に腕を回してきた。
「ふーん、照れることなんだ。」
「まあね。」
「…もうなんとなくわかるけど。いいよ、終わるまで待ってやろう。」
「ふふ、ありがとう。」
元貴がゆっくりと顔を近づけて、僕の唇にキスを落とした。
後日、衣装が出来上がったと連絡が入り、衣装合わせやメイク合わせをする事になった。
それぞれが衣装チームと着替えに入る。
「これ、インナー見えない方が良いですね、アクセもその方が映えるし。」
スタッフが、襟ぐりの広いシャツを僕に渡す。
「…シャツ無しで着てみてもいい?」
「シャツ無しですか?結構肌に当たると思いますけど…。」
「うん、大丈夫。」
赤いジャケットを羽織り、大きめの赤いズボンを履く。その状態で、スタッフさんがベルトを付けたり、衣装を整えたり、アクセも付けてくれた。
「…シャツ無しも、いいですね。赤が映えますよ。」
スタッフの女の子が、ニコッと笑う。
「ありがとう。」
僕が、姿見の前に立って、あれこれと角度を変えて見ていると、元貴が横に来た。緑の衣装に身を包んでいる。ズボンの丈が短く、膝が出ていて可愛い。
「元貴、やっぱ緑も似合うね。」
「ありがと。涼ちゃんも、赤いいね。」
「ありがとう。なんか見慣れないけど、結構いいよね。」
クスッと笑う僕を、元貴が見つめる。
「なに?」
「ううん、…下にシャツ着ないの?」
「うん。」
「なんで?結構これ無いと痒く無い?」
元貴が、自分の下に来ているシャツを触る。
「…この方が、僕自身を包んでもらってるような感じだから。」
僕が鏡に向かってポツリと溢すと、鏡越しの元貴の真顔がピクリと動いた。
「…フィヨルドって、長い時間氷河に削られて出来るんでしょ?僕らも、自分たちで形造っているようでも、やっぱり色んな人に、色んなモノに触れて、触れられて、形造られてる、って事なのかなって。…改めてさ、僕もそうだなぁ、って思ったんだ。」
僕が元貴に向かって話すと、元貴が真剣な顔で僕を見つめている。
元貴がチラ、と他のスタッフに目を遣る。みんな、若井のところに集まってあーだこーだと衣装をやりながら談笑しているのを確認して、 元貴が、僕の肩に手を置いて、耳に顔を寄せた。
「…俺の中には、別の意味もあるけどね。フィヨルド。」
「え?」
僕が訊き返すと、元貴が妖艶な顔でニヤリと笑う。そして、キスでもされそうなくらいに、顔が近い。周りに人がいるのに、と僕は少し焦った。
「なに?別のって。」
「…俺も、全部終わったら教えるよ。」
肩をポンポンと叩いて、元貴は若井の方へ行ってしまった。
僕は、まだメイクもしていないのに、少し赤くなってしまった頬を落ち着かせるように、姿見の前で呼吸を整えて熱を冷ましてから、みんなのところへ向かった。
コメント
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FJORDのお衣装のお話が、 十連歌の世界で語られるなんて…✨😭 ありがとうございます! 会話とかが、自然な流れになってて、 ほんとすごいです✨ちょっとした触れ合いのシーンでもキュンてしてしまうの、最高です💕 FJORDの時の💛ちゃん、 全てが最高にに素敵でしたもんね❤️💛💛🫠
十連歌の世界線だなんて、更に嬉しすぎます🤭💕 私もまだまだフィヨってるので、このお話で更に浸らせて下さい🏔️♥️💛
あとがき(改) fjord衣装の解釈を少し変えたので、内容がだいぶ変わっています💦 そして、私がしっかり『十連歌』を引きずってしまっているので、その世界線の話にしました🤭💦 ただただ、この二人のラブラブを、fjordを絡めて書けたらなーと、考えています❤️💛