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プールサイドから子ども達に声をかける。
その声に応えようとして、必死に頑張る姿を見ていると、自分の子どもの頃を思い出す。
いつかは水泳のオリンピック選手になりたいと……
あの頃は本気で考えていた。
だけど、そんな夢が簡単に叶うはずもなく、気づいたら、あっけなく挫折していた。
「智(さとし)、いい感じだよ。タイムも良かった。この調子で頑張れ」
「はい! 涼平先生」
「良い返事だな。智ならきっと良い選手になれるから、しっかり練習していこう」
「あの、涼平先生……」
「どうした?」
中学2年の男子がこんな不安な顔をしていたら、親のような気持ちで心配になる。
「僕はオリンピック選手になりたいです。だけど……最近、好きな女の子ができて、集中できないっていうか」
まさかの告白にドキッとした。
「そ、そっか……。智は優しいから、好きな女の子もきっと良い子なんだろうな」
何を言えばいいか、一瞬迷った。
「はい、すごく」
「その子に好きだって言ったのか?」
「それは……まだ何も……きっと言えないです」
「いつか、好きだって言えたらいいな。人を好きになることは、スポーツする上でも悪いことじゃないんだ」
「本当ですか? 僕、ダメなことをしてるのかって悩んでて」
「人を好きになるのは仕方ないことだし、理由なく誰かを好きになることは……ごく普通のことだ」
僕が双葉さんを好きになったように。
「でも、集中できないのはどうすればいいんでしょうか?」
智は、誰よりも真面目だ。
この質問にどう答えればいい?
「先生も……人を好きになったことがあるんだ。その時、レッスンに集中できなかったこともあったし、生活の中でもいつも思い出したりしてた。でも、先生の場合はその人にフラれちゃったけどな」
「そうなんですか?」
「ああ、見事にフラれたよ。それでもさ、ずっと好きな人を想えるって、本当に幸せなことだとわかったから……。まあ、今は、好きな人を思う気持ちを、勝手に自分のエネルギーや喜びに変えてるんだ。あの人も頑張ってるから、僕も頑張ろうって。僕が元気でいれば、あの人も嬉しいだろうなって」
僕のこと、今も応援してくれてるかな?
僕は、勝手にそう信じて頑張ってますよ、双葉さん。
「だから、智も、好きな人を想う気持ちを力にして、前を向いて頑張ってみればいいんじゃないか? 集中できない……じゃなくて、その人に『いつか自分の頑張りを見てもらいたい!』、そう思って気持ちを集中させていくんだ。結果、フラれても、うまくいっても、告白できなくても、何でもいい。頑張ったことはムダにはならないから。とにかく今は、好きな人がいることを力にするんだ」
上手く伝わったかはわからない。
でも、きっと、智はもう「力」に変えることができているんだろう。
だって、今日の泳ぎは最高だったから。
人を好きになるってすごいことなんだ。
僕は、双葉さんのおかげで毎日が楽しい。
相変わらず、周りには心配されてるけど、僕には双葉さんしかいなくて。
いつか、TOKIWAスイミングスクールから、智や子ども達がオリンピック選手になった時、1番に双葉さんに報告ができるよう……
僕は、しっかりと未来に向かって進むつもりだ。