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世界観がよく分かりません。考えるな、感じろとはこのこと。


文才なんかありません。

案の定駄文。駄文。

cpはどこかに記載してます。

主はにわかです。解釈違いがあると思います。

※ご本人様には関係ありません。
















おいでよ。

呼びかけてもこちらに来ようとしない凪ちゃんに、俺は笑いかけた。それでも凪ちゃんは中々こちらに踏み出そうとはしない。

それにしても、なんだか足が重くて上手く動かせない。何故だろうか。

ああ、そっか。膝から下の半分くらいが水の中に入っているのか。道理でズボンと靴が濡れているわけだ。

黙りこくった俺を不思議に思ったのか、凪ちゃんが首を傾げる。

「早くおいでよ」

もう一度言ってみたが、凪ちゃんはやっぱり立ち止まったままだった。

入ったら濡れるでしょう、とでも言いたげに目を細める凪ちゃんは、きっといくら言っても来ないんだろうね。

パシャ、と足元の水を跳ねさせながら、凪ちゃんの方へと歩み寄る。

遠慮も無しに凪ちゃんの左腕を掴んで引き寄せれば、凪ちゃんはバランスを崩してバシャンッと片足を水の中に突っ込んだ。

眉を顰めて嫌そうな顔をした凪ちゃんは、もうこうなったら濡れても構わないと思い直したのか、無事だった片足でこちらに踏み出した。

その様子にけらけら笑えば、訝しげに見上げられる。

「何笑ってるんですか」

「んーん、何でもないよ。笑いたかったから、笑ったの」

納得がいったのか、いってないのか、どちらともとれない顔で凪ちゃんは頷いた。

振りほどかれることのない左腕を伝って手を握る。多分許されるだろう、このくらい。だってほら、なんの疑問も抱かずに握り返してくれるんだから。

ふんふん、鼻歌交じりで歩き出す。凪ちゃんは俺を見てくすりと笑った。

足元の水の上に色とりどりの花が浮かんでいる。

ゆらゆら。ぷかぷか。くるくる。

あれはガーベラ。あれはストック。あれはサンザシ。あれは…バラかな。青のバラなんて珍しい。あっちの白いのは……忘れちゃった。

凪ちゃんも物珍しそうに周囲を見回しながら、俺の隣を歩いている。

それに少し優越感を覚えたのは内緒。

しばらく景色を堪能しながら歩けば、目的の場所に着く。

一面の水面の中、ぽつんと存在する小さい島のような場所。白いエーデルワイスが咲き乱れていた。

ぱしゃ、と水に波紋を作りながら島に足を踏み入れる。

島の中心には、エーデルワイスの咲いていない、ぽっかりと何も無い場所があった。花を踏まないようにしながら歩み寄る。

ぐわん。

着いた途端に襲う浮遊感。それに驚いたのか凪ちゃんが身じろいだ。離さないように、繋いでいた手をしっかりと握り、そのまま流れに身を任せた。

落ちた先の眩い光に目を閉じて。再び開けた時には、落下速度は大分緩やかだった。

「わ…」

凪ちゃんの声が少し上から聞こえてくる。見上げれば、穏やかな表情で微笑んで、周りを眺めている凪ちゃんの姿。

辺りを見回せば沢山の光と、それに包まれた沢山の記憶があった。

耳を澄ませば、波の音が聞こえてくる。

目を開けば、夜空に花が咲く。

鼻をすんと鳴らせば、シチューの匂いが漂ってくる。

ふと、誰かに頬を撫でられる感覚がする。

これはきっと、俺たち以外の誰かの想い出。綺麗で、優しい記憶。

春の木洩れ日の暖かさ。赤ん坊の掌握反射で遊ぶ子供たちの笑い声。金木犀の花の香り。切れかけの街灯が照らす夜道。手のひらから伝わる冷えきった缶ジュースの冷たさ。教室で入り交じる制汗剤の匂い。煩いほどに鳴り響くエレキギター。目にも眩しい太陽と入道雲。

全部、鮮明に感じ取れる。

「綺麗」

「そうだね」

別の方向を見ている凪ちゃんの言葉に相槌を打って、またお互い黙ってそれらを眺めた。

「…….あ」

誰かの啜り泣く声。冷たい身体。黒い服を着た大人たち。人が焼けた、火葬場の匂い。

ああ、これは。

凪ちゃんと繋いでいた手を離す。

「ダメですよ、セラ夫」

伸ばしかけていた手をぴたりと止めて凪ちゃんを見た。

「なんで」

「触りすぎると枯れるでしょ」

「…..なんで」

「なんで、とは」

「だって、」

だってこんなに悲しい記憶なんだから。

真剣に言う俺とは対照的に、凪ちゃんは優しく微笑んだ。

「それなら、きっと良い思い出だ」

「…….なにそれ」

なにそれ。全然わかんないよ。

「いつか、きっと分かるよ、お前にも」

ぎゅっと目をつむった。幼い子供が、母親の説教を逃れようとするみたいに。

暖かい手に頭を撫でられる。それが誰かの記憶なのか、今凪ちゃんにされているのか、区別はつかなかった。

ふと、どこかで聞いたことがある音が鼓膜を揺らした。

すごく、懐かしい音。

ぱち。目を開けば、あの日の光景が広がった。

歪で、下手くそな、バイオリンの音。凪ちゃんの音色。素直に下手だと告げれば、若干むきになって言い返してくる。それが心底楽しくて、思わず吹き出して、二人で笑ったんだっけ。

一つ思い出せば、また一つ。まるで小説のページを丁寧に捲るみたいに。

確か、俺がバイオリンを弾いているのを見て、凪ちゃんがやってみたいって言ったんだ。持ち方を教えて。姿勢を正させて。力み過ぎだってからかって。とりあえず好きに鳴らしてみなって、ようやく聞こえた音はあまりにも下手くそで。

でも。でも。

「…….優しいね、凪ちゃんの音は」

下手くそだけど。そう、強がるように付け足した。

優しくて、暖かくて。鮮明に思い出されるあの日の光景が、音色が、温もりが、どうにも手離したくないほど幸せで。

何かが込み上げてきそうで、ぐっと瞼を下ろしたとき、控えめな笑い声が上から落ちてきた。

「そりゃあ貴方からすれば下手くそでしょうよ。私にしては頑張った方だ」

そこで一度言葉を切った凪ちゃんが、次に紡ぐ音は、酷く慈愛に満ちていた。

「…セラ夫の音は綺麗だ。嘘みたいに。…..でも、それが、私には少し、寂しそうに聞こえる」

凪ちゃんもまた、あの日を眺めているのだろうか。何を、思ったのだろうか。

交わした言葉から全てを知ろうとするには、あまりにも言葉が足りなかった。

けど、それでいい。それがいいから。

だって、その足りない部分が、ただただ心地よい。

きっと、欠けたそれを、胸の中の大事な部分にしまい込んで、またいつか、こうやってそっと思い出すんだろう。

だから。

「また来たいね、凪ちゃん」

多分きょとんとしているのであろう彼の顔を見ずに、ただ返事を待った。

「…またっていつの話ですか」

「…..そこは何も聞かずに『ええ、そうですね』とか言うんじゃないの」

「えぇ…めんどくさいこと言ってんなぁ…」

「それを君が言うか」

楽しくなってきて、また少し笑う。

または、まただよ。そう言ってから、根拠も証明のしようもない言葉を口にする。

「エーデルワイスが咲いたなら。きっと。また来れるよ」

多分、確実に、恐らく。そう続けてみた。

「えぇ…どっち…」

ほら、そうやって戸惑う貴方がいる。

手を少し上に伸ばしてみた。

「来れるよ、確証ないけど」

ほら、何も言わずに手を握ってくれる貴方がいる。

この温もりは、想い出じゃなくて、確かに貴方だったから。

「セラ夫はもう大分信用ならないが…..次はいつ咲くんですか、エーデルワイス」

「さあ、どうだろ。真冬かもしれないし、春かもしれないね」

「どっちだよ」

「わかんない」

ここのは特殊だしね、と。間髪入れずにそう返せば、呆れた声が降ってきた。

「でも、俺は見たいよ、ここの景色。勿論凪ちゃんと」

目は閉じたまま、握られた手をキュッと握り返す。見ていなくても、確かにそこにいるんだと、同じくらいの力で握り返された手の感覚が教えてくれる。

「また来ましょうか、絶対に」

「うーん、流石に絶対は重いわ、なぎなぎなぎら」

「なんでだよ」

凪ちゃんの言葉に、ふは、と笑った。

「だって、来れなかったら嘘になるでしょ」

「生きてるうちはいつか来れる」

「どっちかが死んだらどうするのさ」

「死ぬ時は一緒だろ、私が死のうがセラ夫が死のうが」

「道連れ、の間違いじゃないの」

「お前がどれだけ嫌がろうと無理心中してやるからな」

「んは、なぎらこわぁ」

俺が笑って、凪ちゃんも笑う。くだらなくて、愛おしい。

そうしているうちに、目を閉じているはずなのに、視界が白んで行くような感覚に襲われた。

ああ、もう帰る時間なんだ。

「…寝て、起きたら、今のことは全部忘れるんですか」

「…..さあね、わかんない」

けどね、と続けた。

「きっと、また来れるから、大丈夫」

そう、と。納得がいったのか、いってないのか、どちらともとれない声色で凪ちゃんが言った。そしてまた、やけにしんみりと、言うんだ。

「お前と来てよかったよ、私は」

「なーに、今生の別れみたいなこと言ってるの。明日収録でしょ 」

「まあ、それはそう」

雰囲気ぶち壊し、と笑う凪ちゃんにつられて、俺も口元が緩む。段々と口数が減ってきて、きっともうすぐ寝ちゃうんだろうな、凪ちゃんは。

俺も同じように眠くなってきて、既に半分手放しかけていた意識をぎりぎりで繋ぎ止めて、囁くように口にした。

もうきっと、凪ちゃんは聞いてないんだろうけど。


「また来ようね、凪ちゃん」 





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