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「トラゾー殿」
「ダメです。絶ッ対ダメ」
そろそろ寝ましょうかと声をかけて、寝室に入ったはずだった。
なのに2人して入った部屋は全く知らない部屋で、ハッとした時にはここに閉じ込められていた。
ベッド横のチェストの上にあるメモを2人して見つけて内容を読む。
その内容に憤りを感じた。
「でも、食べないと出られないとメモにも書いてありますし…」
「だから、俺が食べます。イナリさんは食べちゃダメです」
こんなものを彼女に食べさせるわけにはいかない。
そして、イナリさんを困らせた輩はここから出た時、本気で肩パンをしてやる。
「トラゾー殿?顔が怖いですよ」
「イナリさんを困らせた奴を許さないって思っただけです」
優しい彼女を困らせた奴は草の根若手でも見つけてやる。
「とりあえず、こっちは俺が食べるので」
赤い箱を取ろうとして、イナリさんが手を重ねてきた。
「トラゾー殿はすぐ熱を出したりするんですから、駄目です。体弱いんだから無理しないでください」
「ぐっ…」
何度彼女に迷惑をかけただろうか。
心配もたくさんかけた。
「私が食べますから、トラゾー殿は普通の方を食べてください」
「そ、それでもイナリさんにそんなことさせたくない」
重ねられた白くて可愛らしい手を包む。
守ってあげたい、誰よりも。
大切にしたい、愛しているから。
お互い一歩も譲らない。
イナリさんも俺のことを心配してくれてるからこそ、俺もイナリさんに何かあってはいけないと思っているから。
「……では、半分にして一緒に食べましょう。それなら文句ないですね?」
突然の案に、目を丸くした。
が、片方が食べなくて済むのならと眉を下げた。
「……それなら…」
では、と赤い箱からチョコを1粒、青い箱からも1粒取り出すイナリさん。
「えい」
それを箱の底を使って上手に割った。
中身がないということは、チョコ自体に仕込んであるということか。
「はい、トラゾー殿」
可愛い手に乗る割られたチョコたち。
「ホントにいいんですか、イナリさん」
それを受け取る。
「私は貴方となら大丈夫です」
真っ直ぐ見つめられて、本気であることを察する。
「…俺も貴女なら」
同時に割られたチョコたちを口に入れる。
甘さと苦さが広がった。
媚薬なんか入ってなければ美味しいと思たのに。
次からチョコを見るたびに今日のことを思い出しそうだ。
ほんの数分。
おそらく五分ほど経ったくらいで体の変化に気付く。
内側が熱をもち、肌が火照り始めた。
「…っ」
隣に座るイナリさんを見れば顔を顰め、ふらふらと肩が揺れていた。
倒れないように肩をそっと支える。
ゆっくりベッドに2人で座った。
「ぅ、…っ…」
体格のある男の俺に比べ華奢で女性のイナリさんは薬の効き方が違うはずだ。
媚薬の周りが早いと思う。
「大丈夫、ですか?イナリさん」
「ッ、大丈夫、です」
かなりの即効性のものだ。
かく言う俺も汗が滲んできていた。
彼女の白い肌は赤く色づき、呼吸も少し荒い。
前言撤回。
輩はぶっ◯す。
「……ッ」
「トラゾー殿…」
掠れているイナリさんの可愛らしい声。
違う雰囲気にあてられる。
そう気を取られているうちに、彼女にそっと後ろへ倒された。
「ぇ、イナリさん…?」
「…ふふっ、トラゾー殿、とても可愛い顔してますよ」
ほっぺを撫でられてびくりと肩が跳ねる。
少しずつ、下へと降りていく白い手。
首筋の太い血管のところを撫でられた時に驚くほど自分じゃないような声が上がった。
「ぁ…っ⁈」
「!、…あらら、そんな声も出るんですね。流石、たくさんの人を演じていただけありますね」
「待っ、イナリさん…⁈」
顔の赤いイナリさんは聖母のように微笑んで、いつもの鈴のような声で囁いた。
「もっと、私にたくさんの声を聞かせて欲しいです♡」
媚薬のせいで呆けてきた頭で見たことない彼女の姿にあてられた俺はいつの間にか頷いてしまっていた。
「は、ぃ…♡」
ベッドに突っ伏し、顔を上げる元気もない。
「トラゾー殿、とっても可愛らしかったですよ?」
「こ、んな、はずじゃ…」
めちゃくちゃ喘がされて声はガサガサだ。
「ふふふっ、私だってトラゾー殿のこと可愛がりたいんですよ」
「ぉれ、可愛くないです…」
顔を上げるとイナリさんはニコニコ笑っていた。
「そういうとこが可愛いんですよ?無自覚なところとか、ちょっと抜けてて天然っぽいとことか」
「うぅ…」
彼女に言われても腹が立たないのは、俺の愛する人だからだろう。
ぺいんとやらっだぁさんに言われてムカつくのは揶揄いが入ってるせいだ。
クロノアさんやしにがみさんに言われるとリアクションに困るし。
「皆さんによく言われるでしょう?可愛いと」
「言われますけど…ムカつくというか、困るというか…」
だいぶ声が戻ってきた。
「んん゛、」
起き上がって座る。
「私はいいんですか?」
「イナリさんはいいの」
「ふふっ、嬉しいです」
可愛らしく笑う顔はさっきとは大違いだ。
「イナリさんは可愛いし綺麗だし俺の自慢の奥さんです。誰よりも愛してますもん」
「トラゾー殿もカッコいいし可愛くて私の自慢の旦那さんですよ。気持ちいいこと大好きなところとかも、とても愛らしくて。私も誰よりも愛してますよ」
「っっ!!」
思ってた以上の返しをされた。
俺の奥さん、可愛くて綺麗でカッコよくてイケメンがすぎる。
「ね?」
彼女の手が俺の手を握る。
「あら…?まだ熱い…。トラゾー殿、病院嫌いだから薬の耐性ないですもんね」
「ぁ…」
「可愛い」
イナリさんの柔らかい肌が触れる。
これはまずい、そう思った時には彼女がさっきのように妖しく笑った。
「もう少し、私にトラゾー殿を可愛がらせてくださいね」
彼女の小さく可愛い手を握り返す。
最初からイナリさんの手を振り払うなんて選択肢は俺にはない。
変な扉を開けてしまった気はするが、相手がイナリさんならいいやと思った。
「お手柔らかに、お願いします」
愛する人に触れてもらえるなら、嬉しいに決まってるのだから。
コメント
7件
…大好きです!!!!ほんとありがとうございます笑笑
うーん。 まだまだ変か…? 精進せねば…(´o`;