テラーノベル
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仕事終わりの控室は、いつもと同じように静かだった。
照明の白い光に照らされたソファの端に腰を下ろし、スマホをひらいたが指を止めた。
画面には、また同じ名前が表示されている。
【黒崎 恒一】
"今日は時間ある?少し話したい"
既読をつける前にため息が漏れた。
三回目だ。
いや、正確には三日連続だ。
最初はただの仕事の相談だった。
"演出のことで聞きたい"
"役作りの方向性を共有したい"
それ自体はおかしくなかったし、むしろ作品に対して真っ直ぐで、真面目な監督だと思っていた。
でもいつからだろう、内容が少しずつ変わっていったのは
スマホを伏せ額を指で押さえた。
「…気のせい、じゃないよなこれ…」
仕事を終えた仁人がインターホンを鳴らした。
長い撮影を終えたばかりなのに、俺の様子を見た瞬間、何かを察したようだった。
『なんかあった?顔暗いけど…』
一瞬だけ迷ったが、スマホを持ち上げて仁人の方へ差し出した。
「いや…なんか、、仕事の話って言えばそうなんだけどさ、これ…距離感がおかしくね?」
仁人は画面を覗き込み、既読の並びと送信時間、内容を一つずつ目で追っていく。
読んでいくうちに眉がほんの少しだけ寄った。
『…これ、仕事の連絡か?』
「だよな。俺もそう思ってるんだけど、監督だし、、強く出づらくてさ」
『確かに…断りづらい立場使われてんな笑』
「まぁでも、まだ被害ってほどじゃないし、気にしすぎかなぁって」
『気にしすぎで済むならいいけど、嫌だと思ってんなら、ちゃんと言った方がいいよ』
仁人は俺の正面に立ち、低く静かな声で続けた。
『勇斗が不安に感じてる時点でアウトだし。てか、俺も嫌だし…彼氏が嫌な思いしてんの、』
その言葉に一瞬だけ息を止めた。
付き合っていることをこうしてはっきり言葉にされるのは久しぶりだった。
仕事柄、外では距離を保つ癖がついていて、二人きりのときですらどこか抑えてしまう。
「…そんな真剣な顔しなくても、笑」
『真剣になるでしょ。勇斗のことだから』
その一言が思っていた以上に胸に重く落ちた。
別日の夜、家に帰ってもスマホは静かにならなかった。
【黒崎恒一】
"返事くれないと心配になるよ"
"君のことを一番理解してるのは僕だと思ってる"
指先が冷たくなる。
文から伝わる妙な気持ち悪さ。
するとインターホンが鳴った。
『勇斗?』
ドアを開けると、仁人が立っていた。
部屋着のまま、少し息が切れている様子だった。
「え、どうした?」
『…いや…やっぱ…放っておけなくて…』
そう言って中に入り、ドアを閉める。
『メッセージ全部見せて』
一瞬だけ躊躇ったが、スマホを差し出した。
仁人は無言で読み進め、最後の一文を見たところで表情が変わった。
『これ、もう訴えた方がいいだろ…』
「…やっぱそう思う?」
『うん。俺はね』
いつもはどこか受け身で俺に合わせてくれる仁人が、この瞬間だけは違って見えた。
『怖かったら言いなよ?迷惑だって思ってるなら、俺が前に出てやるから』
「…仁人が、前に?」
『恋人が嫌な思いしてんのに、動かないやつなんていないでしょ』
「はは笑今日はなんかいつもと逆だな笑」
to be continued…
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