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モチモチの木
斎藤隆介
一
まったく、豆太ほどおくびょうなやつはない。
もう五つにもなったんだから、夜中に一人でせっちん(便所)へ行けたっていいはずだ。
ところが、豆太は一人じゃ行けない。
夜中にせっちんへ行くときは、必ず「じさま」を起こす。
「じさまぁ、じさまぁ」と、ちっちゃな声でじさまのねまきを引っ張る。
じさまは、どんなに眠くたっても、
「はいはい、豆太か。」
と起き上がって、せっちんまでついていってやるのだった。
豆太がおくびょうなのは、峠の家の一軒家に住んでいるせいもある。
家の前には、大きな「モチモチの木」が突っ立っている。
昼間は、栃の実を落としてくれる親しい木なのだが、夜になると、まるで黒い怪物のように手を広げて、空をふさぐのだ。
だから豆太は、夜のモチモチの木が怖くて怖くてたまらなかった。
一段落 終わり
42
霜月リラ@低浮上
37
naf
25
引退時。くわしくは作品へ
20
コメント
1件
読み終わりました。豆太が夜中に一人でせっちんへ行けなくて「じさまぁ」と呼ぶところ、もう本当にかわいくて抱きしめたくなりました。五歳で峠の一軒家に住んでいるだけでも怖いのに、モチモチの木が昼は親しみのある木なのに夜は黒い怪物に見えるっていう感覚、すごくよくわかります。この「昼と夜で印象が変わる」描写に、子どもの世界のリアルさがぎゅっと詰まってるなあと。何気ない日常の一片をこんなに鮮やかに切り取るって、素敵です。