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「…わか、い、?」
目覚めた時、隣には若井が居た。
「おはよう、元貴。
先生から全部聞いた。」
…やっぱり。
「…そっか。ごめんね。嫌だよね」
今すぐにでもこの場から逃げ出したい。
これから先、なんて会話をすればいいか分からない
若井は静かに目を伏せて答える。
「元貴が嫌なら嫌だ。
元貴が選んでくれるなら、それだけで嬉しい」
「…ぇ、」
「俺は元貴の過去とか、
あんまり深くまで 知ってるわけじゃない。
理解してるつもりでも、
出来てないことの方が きっと多い。
でも、俺が元貴の力になれるんだとしたら、
なりたいと思うよ。」
若井の話を聞いている最中
僕の目からは涙が伝っていた。
僕は若井のことを全然知らなかったみたいだ。
ずっとそばにいて欲しかった。
だけど、僕がDomのことを嫌っているように
若井もSubである僕のことを
よく思っていないものだ、と 思っていた。
若井はずっと、性別関係なく
僕のことを見ていてくれてたみたいだ。
「ごめ…っ、若井のこと、全然知らなかった」
「ううん、いいんだよ
元貴に嫌われてないだけで俺は嬉しい。」
その後は、しばらく会話を続けた。
先生ともよく相談し、これからの事は
二人で話し合って決めることにした。
パートナーになるかどうかはまだ分からない
けれど、若井は僕の選択を待つと言った。
きっと、若井と目を合わせて
ちゃんと会話したのは、 初めてだ。
これだけで僕の心は、前とは少し違っていた
〜
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翌日、レコーディング後。
レコーディング後のスタジオは、
いつもより静かだった。
涼ちゃんは用事があると言って先に帰り、
残ったのは僕と若井だけだった。
沈黙は重くない。
以前なら、僕はそれだけで身構えていた
だけど、 今は違う。
若井は楽器を片付けながら
僕の様子を” 見ないように “見ていた。
無理に視線を向けないことが
今も僕にとって安全だと知っているから。
「…今日の、良かったよ」
それだけを、若井は言った。
評価でも、指示でもない。
事実の共有だった。
僕は少し驚いてから、うなずいた。
「うん。…それに、怖くなかった」
その言葉に、若井の指が一瞬止まった。
「そっか、よかったよ。」
簡単に返す若井に
勇気を出して僕は続ける。
「…昨日さ、話してたこと。
あの続き、今夜話さない?」
ひどく驚いた顔をする若井が
少しおかしくて、思わず笑みを零した。
すると若井もつられて笑い、了承した。
少しずつ、僕と若井の距離が
以前とは変わっていくのを感じる。
〜
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帰り道、二人は並んで歩いた。
肩が触れそうで、触れない距離。
僕はふと気づいた。
若井は、自分から距離を縮めない。
それは拒絶ではなく、配慮だった。
「若井」
名前を呼ぶと、若井は立ち止まった。
すぐに振り返らない。
僕が話すのを待つ。
「…近くにいても、いい?」
その問いは、勇気の塊だった。
若井は一拍置いてから、答えた。
「元貴が決めるなら」
それ以上、何も足さなかった。
だけど、心做しか嬉しそうな顔をしていた。
僕は半歩、近づいた。
若井は動かない。
触れないまま、同じ距離を保つ。
近くにいること。
僕にとっては、それだけで十分だった。
コメント
1件
距離近くなってるぅぅぅぅ