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mtk side
今日も夜が来る。
だけど、いつもとは違う、過去を共有する夜
「…元貴、無理に話さなくていいから」
場所は、涼ちゃんのいないリビング。
僕は、自分の過去を断片的に話した。
倒れたこと。
支配的な空気に反応してしまうこと。
自分がSubであるという自覚。
医師からの話。
そして、
若井にパートナーになって欲しい、ということ。
若井は一度も遮らなかった。
眉をひそめることも、怒ることもない。
話し終えたあと、若井は静かに言った。
「俺はDomだよ
でも、 人にコマンドを出すのは慣れてない
それでも本当に、俺を選ぶの?」
元貴は、少しだけ目を伏せた。
それでも、逃げなかった。
「…怖くならないように、できる?」
若井は即答しなかった。
その代わり、こう言った。
「怖くなったら、やめる。
続けるかどうかは、元貴が決める。
いいね?」
それは、支配とは真逆の言葉だった。
僕は若井に了承し、次の一歩へ進もうと
小さな声で頼んでみた。
「…コマンド、だして、」
初めは軽いケア程度のコマンドを頼んだ。
セーフワードは『Red』
赤信号で止まれという意味。
Playの際に最も使われるセーフワードらしい。
『…元貴、Look(目を見て)』
コマンドを使われるのは初めてではない。
けれど、胸の奥が熱くなり、むず痒い
この感覚は、初めてだった。
「っぁ…、ん、ぅん、、」
拒絶しない。
従順に若井と目を合わせ、次の指示を待つ
『Come(おいで)』
少し低く、暖かい声が、耳に響く。
僕はゆっくり、無意識に、若井の方へ近付く。
『Good boy(いい子)』
「…っ、!」
褒められた。
その瞬間、感じたことの無い幸福感に包まれる。
頭はふわふわと何も考えられない状態で
体は自然と軽かった。
初めて、コマンドを受けてよかったと感じる
Subである本能が
自分を呑み込んでいきそうだった。
「ゎか…っ、、ぼく、じょうず、、?」
僕の問い掛けに対し若井は
柔らかく微笑んで
ふわりと、僕を包むように抱き締めた。
そして、頭の上に暖かい手が乗り
髪の毛をそっと撫でた。
『上手だよ。Good boy(いい子)』
「んぁ、ゎか、っ…もっと、ほめて」
普段なら絶対に晒すことのない姿を
こんなにも簡単に晒してしまう
その日は、しばらくコマンドを使ってもらい
目がとろりと落ちてきたあたりで
褒めてもらいながら眠りに落ちた。
不思議と恐さはどこにもなかった。
暖かくて、幸福感に包まれていた。
体を使う無理なコマンドは一切無く、
僕のことを十分に配慮してくれていた。
〜
mtk side
それから少しずつ、変化があった。
若井は僕の隣に座るようになった。
触れない。
ただ、そこにいる。
僕は、若井の存在を
“ 警戒しながら受け入れる ” 状態から
“ 意識して選ぶ “状態へ移っていった。
ある日、若井に言った。
「…若井が近くにいると、落ち着く」
若井は驚いた顔をしてから、視線を逸らした。
感情を抑える癖は、まだ抜けていない。
「それは、俺にとって都合が良すぎる」
少し不安そうな若井がそこに居る。
けれど、不安になることはもうない。
「でも、事実だよ」
僕の声は、揺れていなかった。
〜
wki side
俺は、自分の中の衝動をよく知っている。
導きたい
決めたい
守りたい。
だが元貴に対しては、
” しないこと “を選び続ける覚悟が必要だった。
ある瞬間、俺は気付いた。
____元貴が弱っている時ほど、手を出したくなる。
だからこそ
一歩引く。
言葉を選ぶ。
触れない。
それは苦しい選択だったが、
同時に、初めて「対等な関係」を
作れている実感でもあった。