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「なあ、それでさ。今度の日曜日にカラオケに行くんだが、お前さん来るか。俺の美声をたっぷりと聞かせてやるからさ」
作業中。大量のペットボトルをリサイクル機に入れながら、中村が上村に話している。
私は田戸葉はどこへと消えたのだろうと考えている最中だった。
「赤羽くんも来るか。カラオケでもしよう」
中村がこちらに話を向けてきた。
「ちんちんぷんぷん……。は?」
私は仕事から別の世界へと旅立っていたが、元の世界へと戻る。
「カラオケに行こうよ」
上村も私を誘った。私はカラオケに行ったことがないが、これ以上田戸葉やセレスのことを考えても無駄だろうと重い頭を振って頷いた。そして、今の混乱する頭が少しはよくなり、少しはスッキリするだろう。希望的観察だけれど…。
「女性を連れて行ってもいいですか」
私は安浦も連れて行ってあげようと思った。何故だか頬が熱くなった。
私たちは足台に乗って、早くなったベルトコンベアーからペットボトルを洗浄機に入れる作業になった。
中村・上村が驚いて、
「ふえ。彼女いたのか」
二人が異口同音する。
「ええ。何故か……。でも、可愛いっスよ」
私はとぼけた口調で言ったが、本当のことだ。
「じゃあ、日曜日の午後2時ね」
中村は不思議がった口調になる。
「場所はいつも中村さんと行っているところ。土浦のカラオケの『にゃんこにゃんこ』で……」
上村は何故かにこにこしていた。
私は安浦とこうして、生まれて初めてのカラオケに行くことになった。度重なる夢の侵食のせいで、頭が混乱して不安定な精神の気分転換は一つの安定剤となるはず。安浦は来るのかな。いや、きっと来てくれるはず。そして、これよりも悪い夢の侵食がなければと、私は心より願う。
翌日、土浦の改札口には、緑のフリフリフリルの服装の安浦が喜び勇んで来てくれた。
ラクダ色のシャツと黒のジーンズの私は多少ウキウキしている自分に驚いている。もうそろそろ2時。上村がやって来くる時間だ。中村は自動車で駅に向かっているはず。
「お待たせー」
ジャージ姿の上村が駅の階段からやって来た。
「中村さんの車で送ってもらったんだ。お、可愛い彼女だね」
上村は禿頭を安浦にぺこりと下げた。
「こんにちは。今日もいい天気」