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#溺愛
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【王都・バキ・ラカン】
バキ・ラカン郊外に姿を現した魔人族軍は、やすやすと正面から侵入を果たしていた。
「ま、魔人族だ!」
朝早くても爆音が響けば街は目覚める。
様子を見にきた王民は、魔人族を見て震え上がり、パニック寸前だ。
「我々はミラードに用事があるだけだ。王民には攻撃は加えない」
「本当なのか、じゃ俺は城外へ逃げてもいいんだな」
「ああ、俺たちを攻撃しなければ逃げてもいいぞ」
混乱するのは目に見えていた。なので魔王軍は、拡声器のような魔法を使い、「東西の門から逃げれば攻撃はしない」と繰り返し流し、大半の王民は戦火を避け、城下町を後にしていた。
そして、街の入り口付近には――。
【バキ・ラカン・郊外】
「ポーションだ、もっと大量のポーションを持ってこい」
匠は魔力を補給するため、高価なハイポーションを何本も飲み干していく。身体に制限が掛けられていても、失った魔力を補うこと自体は可能だった。
しかし、魂を削るほどの魔力消費が身体に残した負担は隠せない。顔色は悪く、呼吸も浅い。それでも彼の瞳に宿る炎が消えることはなかった。
復讐劇は、まだ幕を開けたばかりなのだから。
「匠様、フィルモア普通科連隊と交戦状態に入りました」
「作戦通り、無理せずガンガン交代しながら現状を維持しろ。無闇な殺し合いは控えろ」
正門から雪崩れ込んだ魔王軍と普通科連隊が戦い始める。
レベルを比べると魔人族の方が圧倒的に優位なのだが、近衛が出ないように押しては引きを繰り返させる。
「さてそろそろ、真打を出して近衛を確実に足止めをしなきゃな」
「匠様、命令があれば我の部隊が足止めして参ります」
匠の前で片膝をつくのは
七魔人のメディシスとバルームだ。
メディシスは剣術と、石化魔法に優れ、バルームは文字通り物理攻撃の一切を無効化する。特殊な身体能力の持ち主だ。
「君たちは西と東にわかれ、近衛の足止めを頼む」
「「御意!」」
メディシスは不適な笑みをこぼし、バルームはニヤリと笑い、大きな黒い翼をはためかせ、各々の戦場へと飛んでいった。
そして次に戦況を確認していた策略の悪魔、フォルカスが入れ違うように現れた――。
「匠様、そろそろミラードが新兵器を使って反撃してくる頃かと――」
「ああ、膠着状態を作れば、必ずあいつは人形《ゴーレム》を出してくるはずだ」
「素晴らしい読みと、采配。レオン様が認めるだけあります」
的確に指示を出し、ミラードに最終兵器を使わせ、被害を最小限に食い止めながら、追い詰めるつもりだ。
「——確認出来たら俺が前に出て潰す」
「ご武運をお祈りします」
指示を出し終えた匠が、愛刀を腰に差した、その瞬間だった。禍々しい気配が周囲を包み込む――。
「誰だ、殺気を放っているのは!」
「タクちゃん、久しぶりだな。君はミラードの暴走を止めに来たんだろ?」
聞き覚えのある声に、匠の表情が凍りつく。
そいつはまごう事なきアングィスだった――。
「アングィスッ!! 貴様のせいで俺は……!ぶっ殺してやる!!」
今のレベルは1。しかし、魂を削れば、この駄女神を斬り伏せることくらい造作もない。
左手にはめられた蘇りの指輪が、微かに熱を帯びる。
魂を削れば――。再びあの力を解放すれば、この駄目神を斬り伏せることくらい造作もない。
玉鋼の刀身がゆっくりと鞘から抜かれる。
シャリン……。
その音は硬く、静かに響いたその瞬間——
先ほどまで余裕の表情を浮かべていたアングィスの顔から、笑みが消える。
「ちょ、ちょっと待て! 待たんか!君は無意味な殺戮をしないと判断した。だからこそ、私は制限を外しに来たんだ!」
慌てた声には悲壮感が漂い、アングィスは両手を広げながら、必死に匠を制止する。
――しかし、匠の瞳に宿る怒りは消えない。刀を構えたまま、静かに問いかける。
「……俺に逆恨みするな、とでも言いたいのか」
「違う!君の力が……この世界ではあまりにも強大だからだ――それは神殺しなのだ」
「命を繋ぎ止めてくれたことには感謝している。お前が黙っていたことに怒りを覚えているだけだ」
匠はゆっくりと切先を向ける。
そしてアングィスは小さく目を伏せた。
「あの場ではあれが最善だった。そうするしか無かったのだよ。あの場で真実を告げれば、お前はどうした?」
「……」
「魔人族が何者かも知らず、ミラードの言葉を信じたお前は、怒りのまま力を振るっただろう」
「ああ、そうだな――」
もし、あの時アングィスが制限を掛けなければ――。
自分は彼らの顔を見ることもなく、ただ「魔人族」という理由だけで刃を向けていた。
レオンの言葉も。
シェラの想いも。
魔人族の人々が営む日常も。
何一つ知ろうともせずに。ただ、フィルモア王国から与えられた「敵」という情報だけを信じて。危うく、自分は守るべきではないものを守り、守るべき者を殺すところだった。
匠は静かに刀を鞘へ戻した。
シャリン――。
その音は、怒りではなく、長く抱えていた憎しみを手放す音だった。
「そう言うことだ。——だが、今のお前を縛る必要はないと判断したのだ」
神々の権限で今ここに、匠の力を解放する――。
スキルウィンドウが開き、全ての数値が上限とへと変化していく。
「まぁなんだ。迷惑料ではないが、削った分の魂は君に返した」
「ぜってい礼など言わんぞ!」
「ああ」
アングィスは匠の力と魂を元に戻すと、罰が悪そうに消えていくのだった。
※※※※※
【フィルモア城・飛空艇発着場】
ゴッゴーン――ズン!
格納庫の扉が開き、巨大な黒い影が次々と姿を現す。それはミラードが秘密裏に開発させた決戦兵器――ゴーレムだった。
<ククク、これで魔人族は終わりだ。おい、命令を下せ>
魔導士が首から下げている通信用の魔道具からミラードの命令が下される。
そして男は魔法の杖を掲げた。
「さあ、ゴーレムよ。魔人どもを駆逐するのだ!」
「イエス・マスター」
命令を受けたゴーレムの赤いレンズが光る。その視線の先にいるのは、正門付近に立つ匠だ。
ゆっくりと巨体が動き出すが、その動きは鈍い。
だが、その一撃だけは城壁すら砕くほどの破壊力を秘めていた。
「さて……これで遠慮なく戦えるな」
匠は迫り来る巨体を見上げ、小さく笑う。
ドシン、ドシン――。
巨大なハンマーが振り上げられる。
「グオォォォォ!」
振り下ろされた一撃は、大地を砕き巨大なクレーターが現れた。
――しかし、そこに匠の姿はない。
「な、何っ!?……」
次の瞬間、匠はゴーレムに指示を与えている魔導士を倒していた。
「悪いな。命令が必要な兵器なら、そいつを先に潰すのが定石だ」
近くに落ちていた剣を拾い、匠は巨体へ向かって歩く。
バキャァァァン!
一閃。
だが、狙ったのは胴体ではない。脚部だけを正確に切り裂いていく。
ドスン!
ドスン!
次々と膝をつくゴーレム。
「これで終わりだ」
最後の一撃で頭部を切り落とす。
ガキン――。
しかし、借り物の剣は耐えきれず砕け散った。
「やっぱり折れるか……愛刀を使わなくて正解だったな」
ミラードが誇った最終兵器は、戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的に破壊された――。
「ば、化け物……!」
気絶している魔導士を救助していた司令官は震えながら残骸を見る。
「おい」
匠は愛刀を抜き、冷たい視線を司令官へ向ける。
「ミラードに伝えろ。もう無駄な抵抗はやめろ、と」
「ひ、ひぃぃぃ……!」
目の前に広がるのは、誇り高き決戦兵器だったはずの残骸。
司令官は理解した。これは兵器同士の戦いではない。次元が違うのだ――。
恐怖に支配された男は、倒れた魔導士を助けることすら忘れ、城内へ向かって逃げ去っていった。
コメント
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第82話、めっちゃ熱かった…!匠の復讐と憎しみの矛先が、アングィスの言葉でちゃんと収まるところに収まった感じがして、読んでてホッとしたというか、グッときたよ。「あの時真実を告げられてたら」って匠自身が認めたシーン、すごく好き。 あとゴーレム戦、一撃で頭部落とすんじゃなくて脚部から正確に潰すのは匠らしい戦い方だなって思った。愛刀を温存する判断も含めて、冷静さが戻ってるのが伝わってきたわ。続きが気になる🔥