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「黛、彼女は銃を置いた。それは俺に向け直してくれ。頼む。詩歌は恐怖で気が動転してるだけなんだ」

「ったく、油断も隙もねぇ女だな。夜永、女の傍にある銃を遠ざけろ。そうすればこれはお前に向け直してやる。銃を握ろうとすれば、女を撃つ」

「分かった」

詩歌に銃口を向け続ける黛の指示通り、郁斗は彼女の傍に向かうと置いてあった銃を黛の方へ寄せた。

「これでいいだろ? これで俺らの周りには何も無い。窓はあってもここは十階。飛び降りたところで助からねぇ。お前が入り口側に居るから、この部屋からも出れねぇ。完全に逃げる事は不可能だ」

「そうだな、その通りだ。お前、やっぱり何も考えてねぇじゃねぇか! はは、笑えるぜ」

それでも何故か落ち着いている郁斗を不思議に思った詩歌が彼の服を掴んだその時、再び部屋にインターホンの音が鳴り響いた。

「何なんだ? 今日はやけに来客があるなぁ……」

そうブツブツ口にしながらカメラで確認すると、黛の表情は一気に青ざめた。

尋ねてきたのは多々良会の会長、蒼龍そうりゅう 行成ゆきなり

まさか会長直々に出向いて来るとは予想外だったのか黛の動きは止まってしまい、その光景を見ていた郁斗の口角は微かに上がっていた。

そこで何かに気付いた黛が郁斗へ視線を向ける。

「夜永、テメェまさか……」

「ようやく気付いたか? 俺は言ったはずだぜ? 策も無しに乗り込んできたりしねぇって。お前はもう、詰んでんだよ。黛」

「なっ――」

郁斗がそう言い放ち、黛が何が言いかけたのとほぼ同時に、鍵の開いている玄関から人がなだれ込んで来る。

「黛、お前の処分が決まった。これまでの行いの数々、きっちり落とし前つけてもらうからな。覚悟しておけ」

その先頭には蒼龍と恭輔が居て黛を取り抑えようとするも、

「……クソっ……クソがぁ!!」

自暴自棄になった黛は銃を構えていない方の手でナイフを取り出すと、近付こうとする組員たちに振り回して威嚇する。

「近付くんじゃねぇ! それ以上近付いてみろよ? この銃で、夜永たちを撃つ」

この騒ぎの中でも黛の構えた銃の銃口は郁斗たちに向いていて、誰かが近付こうものならすぐに引き金を引くと言う。

「郁斗さん……っ」

「大丈夫だよ、絶対、守るから」

郁斗は怯える詩歌を背に庇うと、窓から見えない位置に詩歌を立たせ、黛に声を掛ける。

「黛、もう諦めろよ。お前に逃げ場はねぇんだから」

「うるせぇんだよ! それならお前らも道ずれに死んでやる!!」

逃げ場も無いならいっそ、郁斗たちを道ずれに死ぬと彼らに近付いた、その時、

「うっ…………」

外から窓ガラスを突き破った弾が黛の右腕に命中して、彼は呻き声を上げながらその場に倒れ込む。

「今だ!」

そして、恭輔のその声と共に人々が黛を押さえつけ、彼は確保された。

「…………助かった……の?」

その光景を呆然と見つめていた詩歌がポツリと呟くと、

「ああ、助かった。もう大丈夫だよ。ごめんね、詩歌ちゃん。沢山辛い目に遭わせて」

そんな彼女の身体を抱き締めながら、郁斗は言った。

「……っ、そんなこと、ない……元はと言えば、私が……悪いの……っ、ごめん、なさいっ」

そんな郁斗の優しさに触れた詩歌は安堵した事から大粒の涙を瞳に溜めて、首を横に振りながら自分が悪かったと謝った。

「詩歌ちゃんのせいじゃないよ。だから、泣かないでよ」

「……だって、私のせいで、郁斗さん、撃たれて……私、死んじゃったかと思って……っ、美澄さんや、小竹さんにも、迷惑かけて……っ」

「俺も、美澄も小竹も無事だったんだから、心配無いよ。さ、もう帰ろう」

「うっ、ひっく……」

泣きじゃくる詩歌を郁斗が宥めていると、恭輔と共に美澄と小竹がやって来た。

「郁斗、無事だったか」

「はい、お陰様で」

「郁斗さん、詩歌さん!」

「無事で良かったです!」

「……っ、皆さん、ごめんなさい、私のせいで……」

「いや、寧ろ俺たちこそすんません、詩歌さんを守りきれなくて」

「不甲斐ないです、すみませんでした」

お互いに悪かったと言い合っている中、

「ひとまずここから出るぞ。話は戻ってからにしろ」

恭輔の一声で部屋を出る事になった一同。

恭輔、美澄、小竹に続いて詩歌と共に出ようとした郁斗だったが突然苦痛に顔を歪めると、

「郁斗さん?」

その場に崩れ落ちるようにしゃがみ込んでしまった。

優しい彼の裏の顔は、、、。【完】

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