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闇のゲーム……千年アイテムに選ばれし神官達による“裁きの鉄槌”が静かに、密に密に下されるー不思議なジグソーパズル、金色に耀(輝)く“ソレ”は少年の瞳をきらめかせては高校の青春白書に友情の証を刻み込む。
「おはよう遊戯! まだ完成しないの? 貸して」
杏子が短髪を追風に揺らしながら僕の鞄を弄る! 痛いってば。
「出来上がったら【夢】が何でも一つ叶うんだ。最高な人生を歩めますように、神様~~」
通学路は寝癖の早朝の朝活“イチオシ”!! 最近流行りのカード・ゲーム『DM(デュエル・モンスターズ)』がクラスでも大バズリ。隣の席の海馬瀬人君も興奮気味に皆のバトルに見入っている、他意味無き若気の至りの攻防ー同級生が肩を掴み話し掛けて来た!
「遊戯ん家ってカードショップだろ? 放課後行くわ」
「お小遣いの全部賭けてレアカードGetしてェ」
「あんた達子供ね! 勉強と腹の足しになりゃしない」
「何の集まり!? 入れて入れて~」
遊戯は一人離れて席に着くなり鞄のパズル解きに夢中に成っていた……その後ろ姿を杏子が眺めながら瀬人に耳打ちする。
「頭の良いアンタなら出来るんじゃないの? 飽き性なのが偶にキズね」
「俺は「青眼の白龍」が欲しい。その為に親父の会社のマネージメントの手伝いをして社長の座を引き継ぐ仕事を勤しんでいる」
気障な奴!! トランプじゃ駄目なの?? 近頃の男子調子に乗り過ぎ!! チャイムが鳴って授業が始まる……海馬には勝てないわね、受験何てうざったい。
「遊戯! パズルは?」
「難しいよ。神社やお寺、パワースポットに行って願掛けしようかな」
杏子はご機嫌そうにスマホの地図アプリを起動した。一先ず……ガラスの靴を探しに星の王子様は南瓜の馬車をプレゼントする、何てね。
「最近女子友が詩人気取りで。良いよね~印税生活って♡」
「はぁ、小説でも書いて一発逆転の余生……じーちゃんに説教されるかも」
他愛も無い話をする内に、もう着いた。カードショップ『武藤家の宝物』!! あれ? CLOSED……まさか。
「おかえり遊戯。今日は早いとこ店仕舞いじゃよ、ホレ」
DMの未開封のパックがズラリ!! レアカードがショーケースに飾られてる、圧巻の一言!!
「じーちゃん。杏子にも教えてあげて、「青眼の白龍」」
出入り口のベルが鳴り、客が来店したー海馬君!?
「すまないね。ナイター見るために一足早く、お開きさ」
「何だ、遊戯の店か」
杏子がぽかんと、口を開けた。アンタ何様!? 遊戯は二人を仲介して必死に宥める……次の瞬間、瀬人の視界に究極のカードが光るー
「じじい! 幾らだ!? オークションなら1000千万でも費やすぞ!!」
「残念、非売品じゃよ」
「……」
バーカ、良い気味ね。勝気な女の子……じーちゃんが視線で訴える。遊戯は瀬人の胸の高ぶりと鼓動を聞き、片手を差し出した。
「海馬君。良かったら2階に上がってお茶しない? バトルでもしながらゆっくり」
「俺には社長業の勉強会が有る。一秒たりとも時間は無駄には出来ない」
「遊戯のお友達とやら。このカードが羨ましいんじゃろ? 決闘者のはしくれなら分かるね、ワシの目を見ろ」
「見たぞ、売るのか売らないのかはっきりしろ」
レジ前での立ち話が夕時を刻みオレンジ色に染め上げ往くー会話に飽きた杏子は横の自販機でジュースを買いに行った。
「遊戯。何が良い? 奢りたい気分なの」
「サンキュー! 僕コーラ」
店長のじーちゃんこと武藤双六は熱弁を始めた。カード一枚にも持ち主の愛情が宿る、金勘定では背に腹は代えられない【もう一人の自分】……思い出補正もご愛敬ってな!
「分かりました……せめてもの憂いです、手に取って拝む事ぐらい?」
「自分の友を大切に出来るかい??」
武藤遊戯。真崎杏子。瀬人は即答する!
「ちょっとだけヨ♡ なんてね」
「じーちゃん面白~!! ハハハ」
瀬人は胸ポケットのホログラムのコピーカードと本物をすり替えた、手際の良い荒業……馬鹿共、誰も俺の真意に気付かないまま終える天命!!「青眼の白龍」は彼の手に落ちた。遊戯は見て見ぬふりをする。
「御爺様、光栄です……親の死に目を見たように」
「遊戯! 何ボーっとしてるの!?」
杏子が缶ジュースを渡す、冷たい感触。双六は後ろをずっと向いていた、ショーケースの鍵を掛けているー瀬人は足早に去ってゆく。
「僕も心変わりしました、一人前の決闘者としての血が騒ぎます。それじゃ帰って宿題があるので……」
双六はそのコピーカードを気付かぬまま大切に保管する、遊戯の目が泳ぐ。
「? どうしたの、お腹でも痛い??」
「杏子! 2階でYouTube見ようよ、プロの試合動画!! イケメン君の一流バトル見たくない!?」
杏子は瞳を輝かせて即答する。PM4:44……不吉な嵐が吹き荒れていた、今夜は雨? 鞄の千年パズルが妖しく鼓動を刻むー彼の愚業は遊戯以外知る由も無かった。
「おはよう海馬君」
いつもの何ら変哲も無い昼休み。弁当を食べ終えクラスメイトの級友はDMのバトルに無我夢中だった。遊戯は慎重に言葉を選ぶ。
「昨日はどうも。最高なゲームだよね? みんなが楽しく明るくなって一つになれる」
「ああ。僕も同じ決闘者‐デュエリスト‐としてまだまだ精進さ」
「……」
胸が痛い。パズルが哭いていた。いつまでたっても完成しない偽りの友情……僕は息苦しくなってその場を後にする。あっという間に授業が終わり放課後、杏子はバイトの時間だった。
「最近、店長私の事やらしい目で見るのよね~制服がミニスカートだからしら。それでもマックのレジと清算なんて楽な仕事よ」
「頑張ってね。僕も夢の実現の為に完成させなきゃ、今日も徹夜かな」
「行けないッ、遅刻しちゃう! また明日ね!」
遊戯は瀬人の犯罪を見て見ぬ振りできなかった……二人きりの放課後。教室は彼と僕だけだった。瀬人が足早に去る。
「遊戯君。この前はありがとう、おかげで目が覚めたよ……カード一枚にも魂の灯火が移るんだよね」
「あの……言いづらいんだけど」
「?」
瀬人は何かな? と平然さを装い仮面の表情を浮かべる。僕は弱々しい意志を杏子を思い強情な心意気で言い放つー
「すり替えたんでしょ? 事前に用意したコピーのカードを、じーちゃんの視線を盗んで」
「何を言ってるんだ!? そんな訳無いだろう、君のお爺さんの言葉に感動しただけさ!! 人聞きの悪い事言わないでくれ!!」
瀬人の面持ちが一変する……遊戯は高鳴る心臓を必死に落ち着かせながら友達の目を見る!
「分かってくれるよね!? あれはじーちゃんの大切なカードなんだよ、愛情を踏みにじってまで欲しかったのかい??」
「うるさいんだよ!!」
彼の高級な鞄が遊戯の頬を打つ! 張り詰めた不穏な空気がぴりりと遊戯の内心をボロボロに切り裂いた!
「カードに愛なんて宿らない! 欲しいモノの為ならどんな手段でも奪い去る、これが俺の社訓だ!! こいつもお金持ちで勝ち組の俺の手元で安心してるのさ、新しいご主人様のしもべになって良かったってな!!」
「!!」
「じじいに伝えとけ、騙されるお前が悪い! 世の中建て前だけじゃ生きれいけないってな!! アルバイトの清掃員として雇ってやるよ、シルバー人材にでも成り下がれ!!!」
「……」
変貌した彼の形相は醜かったー鞄の千年アイテムが叫ぶ!
「二度と俺に話しかけるな、最下層の愚民共は毎日傷の舐め合いして“青春ごっこ”演じてろ!! トモダチゲーム最高だろ!? なあ冷たい他人!!」
ハハハハ!!! 雨が降る。海馬君は去ってゆくー盗まれたカードがパズルの完成を待ち侘びていた……家路に着いた僕はボロボロな内情のまま机に一人座り宿題と淋しく一人の時間に没頭する。じーちゃんは1階でお客さんの対応の仕事をしている、全て吐き出したい気分だった。嗚咽が止まらなく泣き叫んでも現実は変わらなかった。そんな時ー
ナゾヲトケ、ユーギ
深夜4時19分……泣きべそを搔きながらピースの破片が完成してゆく。あと一つ、もう少しもう少し、そして。
「終わった、のか?」
別の人格が目覚めた! 千年アイテムの黄金の輝きがユーギを生んだ、確信の核心!!
「カイバ君。君とは雌雄を決する定めだ……じーちゃんの魂の友情のカードは必ずオレが取り戻す」
スマホの連絡帳にて彼の名前を探し、タップする。
「オレとゲームをしようぜ」
闇が来る……ユーギが創った亜空間での決闘場にて二人は相対する! 瀬人は40枚のデッキをシャッフルしてゆくー暗黙の了解。
「遊戯。貴様とは引導を渡し合う宿命のライバル……特別な戦いを夢見てるよ、俺の切り札に勝てるかな?」
「青眼の白龍」
「これは俺だけのしもべ。もっとも、貧乏くさい主人には愛想尽きた浮気性の気分屋の性分をにわかに感じるよ」
「いつまで御託を並べている。カードを出すんだ」
決闘‐デュエル!! 瀬人はミノタウロスを召喚した、攻撃力1700! ユーギは実体化するモンスターに怯むことなく手札を確認しては机の上に一枚の相棒を呼び起こした!!
「オレはデーモンの召喚」
魔降雷!! 濃霧を浴びて眼前のCGでも無い本物の勇者達が滅びゆくーこれが究極のDM! 瀬人は高笑いしては興奮してゆく……。
「敗者には罰が待っているよ。オレトタタカエ」
「面白い、闇のゲームか!! 相手になってやるよ遊戯!! 今日の昼休みの汚名返上だ、俺が勝つ!!」
「さあ、次のカードを」
ククク。気付かないものだな、ちょっと雰囲気を変えたからって怯むと思うか。ナメルナヨ……いざという時の最強のしもべは胸ポケットに忍んである! 全て俺の支配下における、金も地位も品性もこの世の負け組の慟哭の叫びすらも【夢】の為の尊き犠牲!!
「オレは「光の護封剣」の魔法カード、君のモンスターは攻撃不能」
「……」
「どうした。おじけついたのかい」
遊戯のフィールドにはモンスターが数体、瀬人が押され気味……台本通りの展開! お涙頂戴の情けの“寸劇”はここで終い!!
「「魔法除去」! 手札を使い貴様の罠すらも解く!! そして俺のターンー」
「!」
「「青眼の白龍」の切り札だ!! 弱小モンスターなど消し飛べ!!」
それはオレのじーちゃんのたった一つの相棒!! 何故心の叫び声が聞こえない!? カイバ君……
「行けー、倒せ殺せ踏みにじれ!! 俺が最強なんだよ、バースト・ストリーム!!」
遊戯のライフはあと僅か。息の根を止めてやる、最後の友情ごっこのトモダチゲームのお開きだ! 俺の圧勝ー
「消え失せろ遊戯!!!」
……
あれ? 何故だー攻撃しない。
「どうした、時でも止まったのか!?」
「キミは分かっていない、このカードの感情が。じーちゃんの魂の鼓動は讃えらえてオレの心を何度も奮い立たす……モンスターにも心が宿るもの」
「ばかばかしい! カードなんてただの紙切れだ!! 奇跡なぞ俺だけに起きればいい……!?」
消えてゆく光ーやがてその龍は自ら消滅した。
「じーちゃんへの最愛が自害という唯一の方法を選択したの、かも」
「ふざけるな! そんなオカルトまがいな話信じられる訳……」
「次のオレのターン。この魔法を使う」
“死者蘇生”!! 敵味方問わず墓場のモンスターを復活させるカード……対象となるのは、もちろん!!
「そんな……」
青眼の白龍はじーちゃんと孫のオレの意志を継ぎ戦いの場に戻って来た。カイバ君、裁きの時だ……覚悟はいいか?
「バースト・ストリーム!!!」
俺の負け!? ライフが完全に尽きたー0。机の上には敗れ去られた札の山……全滅、ここで終わり!!
「そして、罰ゲーム。準備はいいか……?」
精神の崩壊、マインドブレーカー!! 一晩だけの悪い夢さ。キミには反省してもらう、本当の決闘者‐デュエリストの強さとカードとの愛のしらべを。
「じーちゃん。取り戻したよ、このドラゴンにも帰る場所がある」
瀬人の意識が途絶えた、闇の力。亜空間の遊戯場もお終いだ。人格は元に戻りゆく……気付いたら僕はベッドに上にいた、机には完成した新品同様ピカピカの千年パズル! やったー!!
「じーちゃん! 出来たよ、夢が叶ったんだ!!」
「遊戯……不思議な夢を見たぞ。もう一人のお前があの少年とデュエルする明晰夢をな」
いつか本当のことを言うね。今日も杏子との登校デート!! もうこんな時間……行ってきまーす!!
「コレコレ、鞄と弁当忘れとるぞ~パンでも食べながら行け!」
「杏子にかっこ悪いところ見せれないだろ~!?」
「おはよー遊戯、今日もDMの事いっぱい教えてネ」
「うん!!」
もう一人のユーギ。海馬瀬人との秘密のバトル・ファイト、取り戻した青眼の白龍……良かった。カードショップ『武藤家の宝物』は早朝の穏やかで優しい日差しを目一杯浴びながら僕等の通学路を明るく照らしていた、いつまでもいつまでも。