(ラウール)「……」
桜が舞うこの道は幼い頃から千衣沙と一緒に歩いた。毎年この春が来ると、千衣沙は必ずこの言葉を言う。
(帰郷千衣沙)「儚いね……」
千衣沙は綺麗じゃなく、儚いと言う。隣にいる俺はなんにも気にしてなかった。今となってはあの言葉の裏には何かあったんだ。
(ラウール)「あ、花びら……」
(ラウール)「……」
千衣沙にとっての春は好きじゃない。俺の頭の片隅にそう言ったのを覚えてる。
(ラウール)「隣にはいない……」
いつも悲しげな顔にして桜を見ていた。そんな千衣沙の顔を見れるのは春だけ。たったそれだけで他には見かけてない。
(ラウール)「撮ろう。」
千衣沙が帰ってきたら見せるつもりだ。桜にはまだ見てないだろう。
パシャ……
(ラウール)「……綺麗だな……」
真都……
(ラウール)「!?」
振り返るとそこには誰にもいない。
ただ風の音だけ。
(ラウール)「気のせいか」
ぽろ……
(ラウール)「あ、涙が……」
千衣沙がいなくなってからどれほどの涙を流したんだろう。数え切れないほどの涙を……
(ラウール)「千衣沙……」
千衣沙が隣にいない、そんな現実を受け入れられなかった。
(ラウール)「……頑張らないと」
再びに会えるその日までに俺は一所懸命にやっていくつもりだ。
(ラウール)「……行こう。」
(ラウール)「……あ、ここ」
(ラウール)「千衣沙の家だ」
(ラウール)「そういえば中学生になってから千衣沙の家に遊びに行かなくなったよな……」
(ラウール)「……」
ガチャ
(???)「お母さん、行ってきます」
(???)「ってあれ?」
(ラウール)「あ」
(ラウール)「千秋さん」
(帰郷千秋)「真都くん」
(帰郷千秋)「久しぶりだね」
(ラウール)「はい」
(帰郷千秋)「お母さん、真都くんが来たよ」
(帰郷の母)「あら、そうなの!」
(帰郷の母)「どうぞ、上がってて!」
(ラウール)「いえ、俺はたまたまにここに通っただけで……」
(帰郷千秋)「大丈夫だよ、遠慮なく!」
(帰郷千秋)「俺は今からバイトだから」
(帰郷千秋)「行くね」
(ラウール)「あっ、ちょ……」
(ラウール)「行っちゃった」
(帰郷の母)「真都くん、どうぞ」
(ラウール)「あ、はい、失礼します……」
(帰郷の母)「お茶、どうぞ」
(ラウール)「ありがとうございます」
(帰郷の母)「まぁ、大きくなったね」
(ラウール)「いえいえー」
(帰郷の母)「……娘から何も無い?」
(ラウール)「はい……」
(帰郷の母)「そう……」
(帰郷の母)「あの子、何も言わずにどこかに行ってたから……」
(帰郷の母)「変わらないのね……昔から……」
(ラウール)「そうですね」
(帰郷の母)「ありがとうねいつも。」
(ラウール)「いえいえ、こちらこそ。千衣沙さんにはいつもお世話になっています。」
(帰郷の母)「ふふっ……そうね……」
(帰郷の母)「あの子、帰ってくるかしら」
(ラウール)「どうでしょうか……」
(帰郷の母)「昔から不思議な子でね」
(帰郷の母)「毎日、真夜中でどこかへ出掛けて、心配だから後ろについて行ってみたら」
(帰郷の母)「木刀を持って、稽古みたいなことをしてるし……剣術と武術の勉強をしてるし……もう本当に心配だったわ」
(ラウール)「そんな話が……」
(帰郷の母)「あの子、自分の話をしないから余計に心配が増えちゃうし……」
(ラウール)「そうですよね」
(帰郷の母)「真都くん」
(帰郷の母)「あの子のこと頼んだわよ」
(ラウール)「え」
(帰郷の母)「あの子を支えあげられるのは」
(帰郷の母)「あなたしかないのよ」
(ラウール)「お、俺?」
(帰郷の母)「ずっと一緒にいたから」
(帰郷の母)「きっと千衣沙は……」
(ラウール)「……大切な幼なじみ……」
(帰郷の母)「ええ、そう思ってるよあの子」
(ラウール)「分かりました。」
(ラウール)「帰ってきたらとことん支えてあげます。今度は1人ではなく……」
(帰郷の母)「ええ、よろしくね」
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