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「ここは、あやかし専門宿屋です。」
逢魔が時に、妖しく光る鳥居あり。
その神社は、度々人が行方不明になるなどの摩訶不思議な事がたくさん起こることから、
「神隠しの神社」、「奇妙寺」、「あやしの神社」などと呼ばれておりました。
逢魔が時になると、奇妙寺の境内にある、古びた鳥居が異世界に繋がるとか、繋がらないとか。
そこの神主さんが人間だとか、人間でないとか。
境内にある、対となっている二匹の狐の像が逢魔が時になると動き出すとか、動き出さないとか。
奇妙な噂が絶えない、奇妙な神社。
それが、奇妙寺なのでございます。
1.「おはようございます。」
「うわぁ、び、びっくりした…。おはようございます…。」
「朝から早いですね。」
「あ…、はい。受験があるので、そのお守りを買おうと思ってて…。」
「それは、ご苦労様です。」
「あ、ありがとうございます…。」
正直言って、苦手だ、この人は。普段から何を考えているのか分からないし、胡散臭い雰囲気だし、よく分からないから。
気配もなく、突然現れるし、なにより貼り付けたような圧を感じる笑顔が怖い。
昔から、よく奇妙寺には来てたけど、中学生の今でもやっぱり慣れない。
なんか、奇妙寺の神主さんって、不気味なんだよね…。
「神主さんこそ…、朝早くから、お、お疲れ様です…。」
「ああ、ありがとうございます。」
「あ、じゃ、じゃあ、お守り。お守り買ってきます。」
「はい。」
急いでお守りを買いにその場を去ろうとすると、、、
「ああ、鳥居でも見てきてはどうでしょうか。きっと、いいことがありますよ。」
背中越しに声を掛けられ、振り返ると、神主さんが妖しい笑みを浮かべていた。急に寒気がしてきて、怖くなった私は、一刻も早くこの場を立ち去りたかった。
「わ、わかりました…、ありがとうございます…」
そう言って、急いで駆け出した。
「わぁ…。」
久しぶりに来た鳥居は、古びていて、こじんまりとしていた。
鳥居の周りには、真っ赤な赤い彼岸花が無数に咲き誇っていて、怖いほどの静寂が漂っていた。
鳥居の左右にある対となっている二つの狛狐の銅像が不気味だ。
少し怖いけど…、どうせなら志望校合格でも願っておこう。
(志望校に…合格しますように…。)
そう心の中で願った瞬間、
「りん」
と、鈴の音が鳴ったような気がして、急いで振り向こうとすると、前方から轟轟と八方を吹き荒らし、かき乱すほどの強い風が通り過ぎた。
強風が通り過ぎたと同時に、景色は180度変わっていた。
「え…、え…?」
先ほどまでは、神社の一角にある鳥居の目の前にいたはずなのに、今では、景色は変り果て、目の前には真っ暗な暗闇があった。
暗闇には、真っ赤な鳥居がぼんやりと浮かび上がっていて、赤く、ぼんやりと淡い光を放ちながら浮かび上がる無数の彼岸花が鳥居まで続いていた。
ゴウゴウとしたすざましいほどの強い風が谷に吹き込むような音がしていて、闇と彼岸花がどこまでも続いている。
そして、どこからか、甘い魅惑の蜜の香りと、稲荷ずしの甘酸っぱい香りが漂ってくる。
ここは…どこなのだろうか…
「鳥居はですね、昔から神域とこちらの世界を結ぶ門のような役割を果たしているのですよ。」
「わぁっ…、び、びっくりした…。あ、か、神主さん…?え…」
急に隣から声がして、いそいで声の方を見ると、奇妙寺の神主さんが静かに立っていた。
いや、神主さん…なのかな?
声とかは全く神主さんと一緒でも、どこか違う。
雰囲気とかが、いつもよりも凄く妖しい感じで…、人間らしさがない…。
顔は、いつも通り、微笑んでるけど、やっぱり貼り付けただけの笑みで、微笑んでるんだけど、いつもより怖い笑みというか…。
「神主…さん…?」
声が震えてしまう。
「なんでしょう?」
神主さんは、静かに私を見下ろす。
静かな圧というか、恐い視線が私をとらえる。
ここはどこなのかも、本当に神主さんなのかも、聞きたいことはたくさんあるはずなのに、恐くて口が開けない。
「わ、私…。」
すると、神主さんは、静かな声で囁いた。
「彼岸花に従って進むとよいでしょう。」
「え…?」
「彼岸花です。ただし、彼岸花の道から外れないように。この暗闇は、近くに巨大な渓谷がありますので、落ちては、絶対に生きては帰れませんよ。」
「渓谷…?」
ここは一体どこなのか聞こうとすると、いつの間にか神主さんはいなくなっていた。
「か、神主さん…?」
どうしよう…。
どうしようもないほどに怖くて、足にうまく力が入らない。
強風はなりやまず、立ちすくむ私をあざけわらうかのように、駆け抜ける。
ゆっくりと、咲き誇る彼岸花の指し示す方へと進む。
暗闇だから、足元が見えなくて、恐いけれど、いつまでもここにいたら永遠に帰れないような気がして、急いで彼岸花の作る道へと進んだ。
しばらくすると、赤い鳥居の前にいて、彼岸花の道はそこで途切れていた。
ここから、どうしたらいいのだろうか…。
とりあえず、赤くぼんやりと浮かび上がる、不気味な鳥居をくぐると、
「りん」
先ほどと同じような鈴の音が一面に響いた。
体がふわりと浮くのが分かった。
気づくと、目の前が真っ暗になり、、、。
遠くの方で、自分の意識が飛んでゆくのが分かった。