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街中での甘いデートから5日後の放課後。
🖤「舘さん」
下駄箱に向かって2人で歩いていると目黒が声をかけた。
❤️「どうしたの?」
見上げると、目黒は少し困ったような顔をしていた。
🖤「実は、……前々からクラスの奴らに誘われてたの、忘れてて。……どうしても外せない用事なんだ」
そう言って、目黒が指さした先を見る。
一学年の下駄箱前。
そこには数人の男子生徒が立っていて、目黒に気付くと手を振っていた。
🖤「……あれ」
どうやら彼らが目黒のクラスメイトらしい。
❤️「それなら仕方ないよ。楽しんできて」
宮舘が笑ってそう言うと、目黒は少しだけ目を細めた。
🖤「ありがと」
それから、ほんの一瞬だけ宮舘を見る。
🖤「……それじゃあ、また明日」
❤️「うん。じゃあね」
宮舘が手を振ると、目黒も小さく手を振り返した。
すると次の瞬間、下駄箱前にいた友人達が待ちきれないとばかりに目黒の腕を掴む。
「目黒!バス、間に合わなくなる!」
🖤「わかってるよ」
そのまま目黒は友人達に引っ張られるようにして、玄関の向こうへ消えていった。
宮舘は、その姿が見えなくなるまで見送った。
❤️「(……行っちゃったな)」
一人、取り残された宮舘は、暫くその場に立ち尽く。
❤️「……楽しんできて、って言ったけど」
ぽつりと呟いた。
❤️「どうしよう」
思わず苦笑が漏れる。
❤️「……急に暇になった」
これまで放課後といえば――
静かな池のほとりに行って、ザリガニ釣りをしてる目黒と何気ない会話を交わしながら時間を過ごす。
時には場所を変えて過ごすこともあったけど、何となく落ち着かなくて結局、池のほとりに行ってしまう。
そんな毎日が当たり前になっていた。
❤️「……俺」
宮舘はふと周囲を見回した。
誰もいなくなった廊下には、夕方の柔らかな光が窓から差し込み、床に長い影を落としている。
❤️「……いつも、目黒と一緒だ」
改めて思い返してみれば、宮舘の毎日は殆ど目黒を中心に回っていた。
❤️「……まだ学園内、全部は見てないよな」
目の前に広がる見慣れない校舎を見つめる。
ゲームの世界の夢を見てから、それなりに時間は経っているのに、学園の中をまともに見て回ったことはなかった。
❤️「……よし。この機会に、色々見てみるか……!」
一人になった寂しさを紛らわせるように、宮舘は歩き出した。
***
#渡辺翔太
クリオネ?
636
zetsu.
3,009
#一般人
クリオネ?
109
放課後の学園は、昼間とはまるで別の場所のようだった。
生徒達の話し声も、廊下を走る足音も殆ど聞こえない。
窓の外では夕日が傾き、茜色の光が校舎をゆっくりと染めていた。
宮舘は普段なら通らない廊下を歩いていく。
❤️「(ここ、こんなところに繋がってたんだ……)」
教室を覗いたり、掲示板を眺めたり。
そんなふうに気ままに校内を歩いていた、その時だった。
❤️「……ん?」
どこからか、微かな音が聞こえてきて耳を澄ます。
❤️「(……歌声?)」
遠くから響いてくる、澄んだ声。
静かな校舎の中だからこそ、その声は不思議なほど鮮明に宮舘の耳へ届いた。
高く伸びる音。
ただ綺麗なだけではない。
どこか切なくて、芯が強くて。
胸の奥を直接震わせるような歌声だった。
❤️「……綺麗だな」
宮舘はその声に誘われるように、廊下を進んでいった。
一歩、また一歩。
近付くにつれて、歌声ははっきりと聞こえてくる。
その声に、どこか覚えがあるような気がした。
❤️「(……あれ?)」
もしかして…?、と思いながらも胸の奥で少しずつ確信が膨らんでいく。
そして、廊下の突き当たりに、一枚の古びた木札が掛けられているのが見えた。
【声楽部】
❤️「……声楽部?」
宮舘は足を止めた。
中から聞こえる歌声の主を確かめるために、そっと引き戸へ手を伸ばし、音を立てないように、ゆっくりと開く。
――ガラリッ
夕暮れ時の教室に差し込む西日が、室内を黄金色に染めていた。
その光の中で一人の男子生徒が背筋を真っ直ぐ立て目を閉じ、誰もいない教室で一人、歌っている。
その横顔を見た瞬間、宮舘の呼吸が止まった。
❤️「…………っ」
幼い頃から、ずっと隣にいた人を見間違えるはずがなかった。
❤️「……翔太?」
口から、名前が零れ落ちた。
歌声が止まり、その男子生徒――渡辺翔太は、ゆっくりと目を開いた。
そして、宮舘の存在に気付くと、静かに振り返った。
💙「……誰だ?」
その声に、宮舘の胸が大きく跳ねた。
❤️「え……」
渡辺は眉を寄せ、明らかに不機嫌そうな表情をした。
冷たい視線が、宮舘を真っ直ぐ射抜く。
💙「あぁ、お前……宮舘、だっけ?」
❤️「…………」
その瞬間、視界に見慣れた文字が浮かび上がった。
【3年A組:渡辺翔太】
【声楽部部長】
【目黒 蓮の幼馴染】
❤️「(…………え?)」
宮舘は、その文字を何度も目で追った。
【目黒 蓮の幼馴染】
❤️「(……目黒の……幼馴染?)」
頭の中が、真っ白になった。
渡辺とは、幼い頃からずっと一緒にいた。
アイドルとなっても、同じグループメンバーとなった唯一無二の幼馴染。
そんな大切な存在なのに、この世界では違った。
渡辺翔太は、宮舘涼太の幼馴染ではない。
――目黒蓮の幼馴染。
❤️「(…………また、だ)」
また、現実との差が出来ていた。
目黒を含め、自分の知っている人間関係が、この世界では別の形になっている。
❤️「(……分かっていたはずなのに)」
ここは、自分の知っている現実とは違う。
夢の中であり、ゲームの世界。
それでも、実際に渡辺が自分を知らない人間として見た瞬間、胸の奥が痛んだ。
💙「……お前」
そんな宮舘の動揺など気にも留めず、渡辺が口を開く。
💙「【今の】蓮の恋人なんだって?」
❤️「…………え?」
【今の】という言葉に引っかかった。
たった一言なのに、妙に耳に残った。
❤️「……どういう意味?」
宮舘が尋ねると、渡辺は鼻で笑った。
💙「ほら、蓮ってモテるだろ?」
その言葉には、妙な呆れが混じっていた。
💙「定期的に恋人を作るんだけどさ。あいつ、飽きっぽくてよ」
❤️「(……え)」
💙「一週間も続けば珍しい方なのに」
渡辺の言葉が、一つずつ宮舘の胸へ突き刺さっていく。
💙「今の相手とは一ヶ月以上続いてるから、どんな奴かと思えば……」
そこで渡辺は、宮舘を頭の先から足元まで眺めた。
💙「……お前、ねぇ」
その視線に、宮舘は何も言えなかった。
飽きっぽい。
恋人を作っては、すぐに別れる。
一週間も続けば珍しい。
❤️「(……そんな話、知らなかった)」
以前、佐久間が言っていたことを思い出す。
【よくない噂がある】と。
あの時は自分を気遣って言わないでくれたから、内容は分からなかった。
けれど今になって、その言葉の意味が最悪の形で繋がっていく。
❤️「…………違う」
宮舘は小さく呟いた。
❤️「目黒は……そんな……」
否定しようとして、言葉が続かなかった。
思い返せば、目黒と過ごした一ヶ月以上の日々は、どれも幸せだった。
一緒に笑った。
手を繋いだ。
街中を歩いた。
優しい目で、自分を見つめてくれた。
❤️「(……あれが全部、嘘だったなんて)」
そんなこと、考えたくもない。
💙「まぁ……」
渡辺が一歩、近付いてくると、宮舘は無意識に息を呑んだ。
渡辺はわざとらしく言葉を溜めると、冷たい瞳で宮舘を見据えた。
💙「……お前も」
❤️「…………」
💙「……どうせ、フラれるぜ」
その瞬間、胸の奥を鋭い刃物で切り裂かれたような痛みが走った。
❤️「………」
渡辺はそれ以上何も言わず、宮舘の肩を乱暴に押しのけた。
❤️「……っ」
よろめいた宮舘をそのままに、渡辺は声楽部の部室を出ていった。
ガラリ。
パタン。
誰もいなくなった教室で、西日だけが取り残された宮舘を照らしていた。
その温かな光さえ、今は酷く冷たく感じる。
宮舘は動けなかった。
指先一つ、動かすことができない。
❤️「…………翔太」
小さく名前を呼んでも返事はない。
自分の知っている渡辺は、ここにはいない。
幼馴染として笑い合ったり、くだらないことで喧嘩をした渡辺も。
自分の味方でいてくれる渡辺も、この世界には存在しない。
――それなら
❤️「目黒も……?」
嫌な予感が広がっていく。
目黒との一ヶ月。
一緒に過ごした時間、交わした言葉。
触れた手、向けられた優しい眼差し。
それら全てが、嘘?
❤️「……俺も、ただの……」
声が震える。
❤️「……暇つぶしだった……?」
考えたくない。
そんなはずはない、と思いたい。
けれど、一度芽生えた疑念は頭から離れてくれなかった。
渡辺の言葉が、何度も何度も脳裏に蘇る。
💙『……どうせ、フラれるぜ』
❤️「(…………やだ)」
夕日が、ゆっくりと沈んでいく。
宮舘の瞳から、その光が消えていくのと同じように。
胸の中にあった目黒への信頼までが、少しずつ闇に飲まれていった。
コメント
7件
💙オメーなぁ…流石にそれはひでぇだろ… 💙が❤️の幼馴染じゃないなんて考えられない…
おい💙!!なに❤️ちゃま不安にさせるようなこと言ってるんだよ!!? せっかく🖤が振り向きかけてくれてんだからな!
この第7話、一気に空気が変わってゾッとしました……。渡辺くんの「今の蓮の恋人なんだって?」って言い方、あれだけでこの世界での宮舘くんのポジションの脆さが見えちゃって。それまでは池のほとりのほのぼのした反復が本当に幸せそうだったからこそ、その基盤をいきなり揺るがされる展開が胸に刺さります。夕日に照らされただけの部室に一人取り残される描写が、信頼が影に飲まれていく様子と重なって切なかったです。この不安の種をどう転がしていくのか、次が気になって仕方ないです。