「きゃあ‥!!」彼女は叫び声を上げた。「ああ‥ああ‥‥!」レイラを守ったのは…フェラル化したバンバンだった。
素の状態だと、彼らを止める事さえ、叶わないがフェラル化する事で、普段よりも力が増幅し、凶暴性が増すので有利になる。
「バ、バンバン‥…ありがとう」とレイラは怯えながらそう言った。「どっちが本当に凶暴という事に似合うか、はっきりさせよう、強いのはそんなに多くなくて良い、誰かが……一番……それだけで良い…………ハハハっ! 」凶暴で、目の前に立ちはだかるマスコットモンスターはそうして、狂った笑い声をあげた。
「ウ、ウスマンさんが彼らを止めてくれている間に此処から抜け出しましょう‥……!!我々まで彼らに狙われてやられてしまう……」ビターギグルはレイラやトードスターらにそう声をかける。「で、でも‥…私達だけ逃げるなんて出来ないよ、バンバンを一人になんて出来ない」
「………気持ちも分かるが、彼らは恐らく我々でどうにか出来るような奴らではなさそうだ、けど此処から離れるには心細い…何処かにこの騒ぎの時だけでも逃げ込めて隠れられるような場所がないか、少し見てみよう、あったら彼らの乱闘が終わるまで、そこで待機しておけば良い」トードスターらにそう声をかける。
トードスターはあくまで此処からの避難はせずに、何処かに身を隠して安全確保するだけで良いとの考えのようで、それを聞きビターギグルはレイラもそれを望むのならと思い、逃げはせず、とにかくこの事態が終息するのをトードスターと共に、待っている事に。
「大丈夫かな…バンバン、一人で彼らを止めるなんて… 」不安な顔を彼女が浮かべていると、「まあ、心配は不要だろう。なんせ此方には彼以外にも、【グリーンゴリラ】が居る事だし、そんな簡単にはやられたりしない筈さ」トードスターはそう言って、とにかく一旦一時的にでも逃げ込める場所がないかを捜索する。
「ど、どうしよう…何処にもそれらしい場所がないよ‥‥ 」と迷って居ると、また大きな音で、バンっ!と鳴り響き、その大きな音にびっくりして目を逸らし、再度バンバン達がいる方を見てみると、凶暴で、あんなに暴れていた者達が一瞬にして、倒れていた。
「はあ、これだから世話が焼ける、何で彼らは私にあんな問題児集団の調教の役目を与えられたのか…今でも理解できない」
と何やらまた、見知らぬマスコットモンスターが出てきた、「え……えっと…だ、誰‥
「ああ、私は医者だよ、彼らの治療を頼まれて此処に、彼奴よりかはよっぽどマシな健全で安全な医者だから安心して、あんなトチ狂った奴は患者の信用に値しない」目の前でそう話すマスコットモンスター、どうやらこのケースタイプのマスコットモンスターらも、複数医者に属しているマスコットモンスターが存在して居る模様。
目の前に現れたのは、ケースタイプ2の、ハピープティらよりも後に調教の為に安全性の高い欠陥モンスターの枠組みにいる者で、ケースナンバーの羅列はケース000〜。
ハピープティらのケースナンバータイプは予想以上に問題児を多く抱えてしまう現状となってしまった為、その彼らを抑制する役割を与えられたケースモンスター…と認識してくれれば良い。
「此処ではまた暴れ出す可能性がある…面倒だけど別の場所に運んで処置するとしよう…ああ、怪我はないかい‥? 」
そのケースモンスターはレイラ達を気遣い、親切に負傷確認をした。と、そんな会話を溢していられたのも束の間、もう大人しくなって安心して油断に入った途端の事、眠っていたあの凶暴化したモンスター達が突然起き上がり、唸り声を上げながら此方を睨みつけてきた。「ま、まだ……生きてる…? 」レイラは後ろに後退る。「はあ、ほんとにしぶとい…どうすれば良いのか、あの人達のせいで、理性をすっかり忘れてしまっている…ちょっと昔までは少し手を施せば。随分とすぐに落ち着いたが……どうやら、そうはいかないらしい」医者と名乗ったそのケースモンスターは暴走に支配された彼らをそっと眺める。凶暴性が極めて高くなったその彼らは標的をレイラ達から、ケース0002の方へ変え、「君らは安全なところへ行った方が良い、理性を失った彼らが今何を仕出かすかなんて考えたくもないが…」
凶暴性になって自我を損失し、暴れ狂う彼らは此方へ突撃しようと襲いかかり‥…すると此処で、また止めに止めに入ったのは、『グリーンゴリラ』と呼ばれたあのマスコットモンスター、そう『ジャンボジョシュ』だ。
彼は巨体さながらの強力な力で、襲いかかってくる暴走したマスコットモンスターを次々と返り討ちにしていく。「すっ‥‥凄い…暴走してる子達をあっという間に…」
「あんなデカブツをまさかそっちの施設に居たなんてね、驚いた」そう医者と思われる者は引き続き、様子見。
そうして、何だかんだあって……「やっと終わったか…あ〜随分とボコされてしまったね、加減を知らないデカブツ‥まあ、純粋で作られた奴だろうから、言語を話さないのも…この加減知らずなところも頷ける」とその医者を名乗ったマスコットモンスターは何故か、ジャンボジョシュがピュアジバニウムタイプだろうから、知能がないのも頷ける」そのマスコットモンスターはジャンボジョシュがピュアジバニウムで構成されているマスコットモンスターである事を言い当てる事が出来たのだろう。
一体、何故レイラ達から直接聞かなくても、すぐに分かったのだろうか、「え…?何で、彼がピュアジバニウムに属するモンスターって分かったの…?」と言うと、「ああ、それはね、我々の仲間にも純縁の奴が最近またちょくちょく新たに誕生しているらしくてね、その子らはまあ、我々のグループよりはマシな者が多いと聞くけど、その代わり…意思疎通が不可能な者が多くて、問題児という訳ではないけど、ある意味欠陥だらけという点では一緒なんだけど」そう医者を名乗ったマスコットモンスターは言った。
「そうなの…‥? 」
「ああ、だから化け物だらけ…幼稚園、子供が訪れるような場所ではなく、妙な溜まり場になっている。そのせいでケース0001も困り果てている… しかし、あの様子では、ただの暴走や、はたまた、まさか彼奴らが密かに動き始めたのか……」と何やら色々な可能性を考えついたようで、言葉の最後には不安になりそうな恐ろしい事を言った。
「え‥‥それが、このエリアに‥沢山居るって事…?」
「ああ、けど彼奴らだって、彼ら同様に破る事さえかなり困難な固い厳重な鉄の檻に入れられて居た筈だが…けどあの妙な違和感…何だか良くない事の前触れかもしれない 」とそんな事を話していると、もう随分とやったと思ったら、まだ殴りかかって居た様子のジャンボジョシュ。
あんなに凶暴だった彼らでさえも、彼の拳の力が圧倒的に上回ってかなりぐったりしている様子。
なのに、歯止めが分からなくなって、そもそも知能が元々から無いという事もあって、自制が効かず、無我夢中で殴りかかっていたようだ。
そこで、止めそうに無いのでバンバンが、声をかけに行った。
「ジョシュ、もう良いよ。そこまでしたら、当分は大人しくなってるさ」
とバンバンはジャンボジョシュに対して止まるように言った。知能のない彼に言っても、どうせ聞かないだろう、そう思ったが今回は珍しくバンバンに言われた事が理解できたようで、手を止めた。恐らく、十分に痛め潰したので満足したのだろうか。
「良かった、言う事を聞いてくれて」
「知能が低い上に、言語理解もできない‥ただのアホだと思って居たが、いつの間にやら人語の理解が出来るようになった‥?それとも、機嫌が偶々良かったからか?」トードスターは疑問に思い、そう溢した。
「まあ、偶々かもしれないね」
「じゃあ、彼らは私が改めて処置をするとしよう、すまないが、彼らをこの部屋の外に出すのを手伝ってくれないか?」
「ああ、分かった」そうして、暴走していたマスコットモンスター達を鎮め終わって何とか事は収まった。
「何とか乗り越えたね」
「うん‥……」
「じゃあ、私はこれで失礼するよ。とにかく君らに怪我がなくて良かった、……ああ、それとね、実はこの牢獄のような檻の部屋でも案外抜け道があってね、そこは元々君らが居たあの幼稚園の園内に繋がってるようなんだ、だからそこに戻りたければ戻れるけど、でもそんな事彼が許す訳ないか」とかなり親切に接してくれて居る。此処まで親切にされると逆に裏があるんじゃないか?そう思えてしまう程に戸惑う。
こうして、一旦の騒ぎは何とかなくなったが、突然と起こされた騒ぎに、まだ暫し放心状態…。「荒れたcaseばかりだと思っていたけど、案外そうでもない奴も居るのか」
「そのようだな‥。それに…彼奴が言っていた【奴ら】とは一体何なんだ‥妙な連中があの子猫達の仲間……いや、それとも全く違うグループが……」スティンガーフリンはそう言うと、相槌を打つように、「恐らくな」トードスターはそう話した。
とりあえず災難は去ったという事で、すっかり頭の中から抜けそうになっていたけど、遊びの再開をしようかと思ったけど、そんな気にはなれず……ただ、立ち尽くす。暴れられた事で、荒られてしまったこの一室に、ポツリと座り込んだまま居ると、【先程、異常事態を感知しました、直ちに別エリアへの移動を命じる、もう一度繰り返します。先程、異常事態を感知しました、直ちに別エリアへの移動を命じる】とのアナウンスが流れた。何はともあれ、ある意味運命助けられ、この牢獄のような空間で、一生を過ごすという多少の苦痛は無くなるが、それでも…何処へ移動したって隔離されているという事実は変わらない。
「そういえば、保安官。」あれから結構な時間が流れて居る訳なんだけど、女王様の事…心配にならないのか‥?」バンバンはふとトードスターを気にかけた一言を言った。
「ああ、まあ心配にはなる、しかし私が命じられたのは君達の救助…けど此処から逃げ出そうにも監視の目が全て枯れてくれないと、どう足掻いても逃げられはしない」トードスターがそう話していると、ビターギグルが、「でも、さっきの‥‥、あの医者を名乗ってた人が言ってた事がもし、本当なら私達が元々居たあの幼稚園に帰れるって事…だよネ?」
ビターギグルは医者と名乗って居たあの彼が、言ってた事が正しいと推測した場合‥もしかしたら何処かにあると思われる通路を探して、歩いていけば、自分達が当初した地上階、元いバンバン幼稚園の施設内へ戻れるのではないか、そう考えた。
「ああ、もしかしたら、そうかもしれないけど、そんな甘くはない」
「そ、それもそっか。それに逆に罠っていう可能性だって有り得る訳だしね」ビターギグルはそう言った。
そんな事を話していた時嘘のような奇跡が生じる事となった、「…………」レイラは突如として起きたさっきの騒ぎの反動で、まだ何だかポカンとしていて、恐怖心も同時に湧いて、凶暴な目をしたマスコットモンスター達だったから尚更それが強く、どうしたら良いのか良く分からない感情の整理が上手くつかず、とりあえず安心感を得たいが為に、ビターギグルに沢山甘えてこの気持ちを掻き消したい、気を紛らわす為にそうやって甘えていたところに、突如事態を聞きつけたのか、研究者がやってきて、
「やあ、先程までの事態の報告は受けたよ。我々が作った失敗作崩れ達が迷惑かけてしまって、後で念入り調整しておくから安心してくれ、ああ、それとね‥まあもう知ってるとは思うが、此処は全く違う施設…けど実は此処の全ての通路はあの幼稚園に繋がっていてね。それで何だが、ジバニウムの実験実行まではまた当分時間がかかる、この場に居てもまた、君らが妙な事に巻き込まれる……そうなると我々からしても少々面倒だ」
「それで、新たなジバニウムの完全体が出来上がるまで、それまではメンテナンスを……新たに手を施してリニューアルした元のバンバン幼稚園に戻り、そこに居る事を許可する。まあもう逃げ場など何処にもない、だから結局何処へ行っても無駄なのは一緒だが‥」
研究者のこの言葉に、やっと元居たあの幼稚園へ、やっと束縛され‥‥ずっとついてくる監視の目から少し遠ざかったあの場所へ離れ、平穏の日々が戻る…そう思ったと同時に、この研究者らの事だから何も企んでいないなんて、有り得ない。これにも必ず裏がある、安易には信じられなくなり‥まさに疑心暗鬼に。
だって、どう転んでもレイラはバンバン幼稚園での一生を強制されている上に、その真の裏の目的は『新型タイプのジバニウムの実験体として利用する為』だという事はもうとっくに分かりきっている。
しかも、メンテナンスをしたと研究者は言ったが、その発言の裏に隠された怪しさも垣間見え、安心処か、余計の不安になる。
「ほんとに…ちゃんとあの場所に…戻れるの‥?戻っても…また変な事…起きたりしない…?もう、怖いの…」
「不安になる事はない、我々の全ての準備が完了するまで君は大人しく、君の『お気に入り』達と共に過ごせば良い、まあ君は彼との時間を絶え間なく過ごせる…言わば『不老不死』の身体となる時が何れ訪れる…それまではまだ、普通に人間として…今の、そのままで生きていてくれればそれで良い」とやはり、実験に使用する実験体としてしか、彼女を最初から見て居なかった…優しく振る舞って居たのも、怪しさを隠し、逃げられないようにする為の策略だった。
「わ、分かった… 」と彼女は戸惑いながらも、ゆっくりと相槌を打ち、こうしてまたあの幼稚園の施設内へ戻る事になって、見慣れた空間へ戻れるという嬉しさもあるが、また妙な事を仕込んでいるに違いない、という不安も…でも従わなければ、苦痛を与えられてしまう、けど当然そうはなりたくない。
「じゃあ、あの幼稚園に通ずる隠し通路を開けるから、そこから行くように」
「う、うん……」
そして、レイラは言われるがままに、研究者が指差しで指示した通路を通ってあの幼稚園へ…暫く薄暗い通路を歩いていると、見慣れたその光景はもうすぐ傍に広がっていた。
「此処……何だか、久しぶりに来た気がする…ずっと地下に居たから 」
「そうだね、数日振り…いや、それ以上か、あの部屋で一日過ごした後‥それからはずっと地下に居たね 」バンバンがそう言って居ると、「あれ……何だか、少し煙たいような…何だかガスのような匂いがするような気がスル」ビターギグルは何やら、異変に気付いたようで、立ち止まってそう指摘した。
「ん‥‥、ああ、確かに。何だ…この毒ガスのような匂い…それにそのせいで霧が発生している… 」
「何これ…げほっ‥げほっ」
レイラは毒ガスのようなものの匂いを不意に吸ってしまって咽せてしまう。
「これは…恐らく毒性の強い有害ガスの可能性が高いね、だから要注意して…口を覆い塞いで行った方が良いね」
バンバンは危険を察知し、そう促した。
「うう‥‥はあ…はあ… 」
「レ、レイラさん、大丈夫…?」
「あ……」
猛毒性ガスをこの短時間で過度に吸ってしまい、意識が遠退き‥彼女はバタリと倒れた。
「まずい……、何処か安全な場所はない…?」
バンバンはビターギグルに緊急事態を要する為に珍しく慌てた様子で、そう彼に質問するも、ビターギグルの方だって突然の緊急事態で慌てている。
と、そんな事をしてたのも束の間、高毒性の強い蒸気ガスがこのエリア内全体に広がってしまっていて、手遅れの状態になっていて、気付いた時には、皆んな猛毒ガスによって気絶していた。
「………あ」レイラはゆっくりと目を覚まし、起き上がった、その直ぐ側でビターギグルが、心配そうに、「大丈夫‥?」と見つめていた。
「う、うん…何とか、大丈夫…それより皆んなも‥…」
「ああ、まさか皆んな倒れちゃう事になるなんてね、よっぽど毒性濃度が高くて濃い猛毒を撒いたようだね、彼らは」
「まさかとは思うけど、彼らが言ってたメンテナンスで仕込んだ罠に私達はまんまと掛かっちゃったって訳‥?」バンバリーナはちょっと半ギレ気味でそう言った。
まあ、それはそうだ、何故ならバンバリーナ達、所謂【バンバンファミリー】と呼ばれるメンツらはレイラの為にと、突然襲撃されて無理矢理連れて来られた挙句、それに危うくずっと一緒に幽閉状態にされるところだった訳だから、何も関係もない彼らにとってはこうなる事にもうんざり……というのが正直な思い。
けど、束縛されているのはレイラも同じな訳で、それに加え年齢自体も身体もまだまだ幼い成長期真っ只中の少女、彼女だって本当は色々なストレスを抱えていて、それこそビターギグルに甘えて気を紛らししないと耐えられない程に、でも、それでも弱音を吐かないのはこうやって支えてくれる仲間が近くにいるからであって…。
「ああ、認めたくないけど、どうやらそうみたいだ、けど此処はもう見慣れた景色、あっちよりもまだ安心して居られると思う、でも何処からか彼らが監視してる可能性は高いけどね」
……と、レイラは…「……?、なんか変な色の液体が、ずっとこの先の廊下から続いてる…何これ… 」
謎の液体を発見し、ビターギグル達に言った。
バンバン達は何だ…?と言うような反応をして、廊下からその先の通路もずっと続いていると言う溢れた液体の跡を眺める。
「何これ…、ジバニウム‥?ではないように思えるケド、こんな色じゃないし…だとするとまさか…さっき出てた毒ガスの液状化したもの…?」
ビターギグルはその謎の『液体』を見つめてそう言った。
この液体は何なのか…ビターギグルが言っていたように、ジバニウムとはまた違った色で、濃い紫と…黒‥何とも禍々しい色した液体だった。
そこで、医者で医学の知識を持っているバンに聞いてみると、「これは……多分ジバニウム以上の猛毒だろうね、ジバニウムも十分に人間にとっては同じ有毒性の物質である事には変わりないけど、これは何だか、より危険な物質の可能性がありそうだね」
「って事は‥…触ったら危ないって事…だよね 」
「ああ、ジバニウムと同じ原理……いや、それは毒という概念自体全般に言える事だけど、どんな作用が引き起こされるか分からない以上は、下手に触ろうとしない方が良い」
一方興味津々そうにトードスターは、「この液体…どうやら、この先にずっと痕が続いてるようだが…」と。
「そのようだ、それにしてもこのあからさまに猛毒性の液体…あの研究者達が撒いたのか、それともあの医者と名乗っていたあの者が言っていた『あの連中』…つまりは毒を有する存在の仕業か…可能性があるとしたら、この二つのどちらかだろう」
「さすがはウスマンさん。私にも全くこの液体の詳細なんて何にも分からないヨ」
「このまま、そっとして軽く気分転換に此処ら辺一帯を散歩でもしよう、急な事態がずっと立て続けに起きて大変だったし、心と身体をリフレッシュさせる為にもね 」バンバンは主にレイラの事を気遣ってそう声をかけた。
「うん!」レイラはそう言うと、歩き出すかと思えば、またビターギグルにべったりと抱きついて甘えんぼ状態、やっぱりレイラは本当にビターギグルの事が大のお気に入りのようだ。
「ふふっ、わあーい!」彼女はビターギグルに甘え抱きついたまま、離れようとはしない。
「こんなに幼い子供なのに、その宮廷道化師に対する思いや気持ちがそれだけ大きいなら、この少女が大きくなったら今以上になりそうだ」スティンガーフリンはそうレイラがビターギグルに甘えている様子を眺めてそう言った。
けど、この先の未来次第では…大人になる事さえ叶わないかもしれないが…。
「まさか、お前が人間の子供にそんなに好かれるなんてな、王国に同じく住む者としてこんなに微笑ましい事はない、ましてや王国には特に人間なんて来る事は滅多にないから尚更愛おしいものだ」
トードスターはそう言って、じっと傍で様子を眺めている。
バンバンも以前言っていたが、この幼稚園のマスコットモンスターに幼い子供が懐いたりする事は殆どこれまで無かった。
だからこそ、レイラの事が珍しく思えたという訳だ。
それに付け加え、もう一つの理由としてあの崩落事故から子供という存在に会うことさえもろくになかった、という理由もあるだろう。
「何だか、不思議デス、そもそも王国に居たから滅多に人間の子供になんて来なかったけど、追い出されて地上に放り出されてから、人間という存在が、こんなにも近くに感じる日が来るなんて思いもしなかった、だから今は地上に投げ出されて寧ろよかったって感じてル、それにこうして人間の子供に気に入られて、好かれるのも案外悪くないデスネ」ビターギグルは心底喜びの言葉を恥ずかしそうにしながらも溢した。
「いつか、その少女にも王国に案内してやりたいが、何せ女王様はほんとに特殊な事情を抱えているから、子供にとっては退屈な場所にしかならないだろう、ずっと安定して過ごしたいのなら此処がちょうど良いだろう」
トードスターはそう言った。「王国…、それに女王様って…?ねえ、いつか会ってみたい…!」とレイラはニコッと微笑んでトードスターに話した。けど、そうは言っても簡単には会わせられない事情を抱えているのが、王国の君主にあたるその人物な訳だが……その事情というのが…、「すまないね、レイラ…。実は保安官や君の大好きな宮廷道化師が居た『王国』の女王様はね、『笑ったらいけない』んだ、笑ってしまうと袋の中に眠っている悪戯っ子達が飛び出してきてしまって王国諸共滅びるなんて変なデメリットまであってね、だから笑わせる事がやり甲斐である彼は保安官からなくなく追放されたって訳だ、だから会ってみたいのは分かるけど案内が出来ないって訳さ」バンバンはそう説明してくれた。
「そ、そうなの?笑っただけで…王国がなくなっちゃうの‥?何だか、怖い… 」
「要するに、女王様が笑わなければ良い、それと王国では基本は静かに‥‥がルールだ」
「そうなんだ……」
と、そんな話をしながら、妙な小細工を施され、改造された幼稚園内を歩き回り、あちこちに液体が垂れ流れていて、更には空気中全体に猛毒の成分が混入されたであろう…そんな事を考えてしまう程に異様な匂いが漂う瞬間もあった。
「やっぱり何だか変…、霧も発ってるし…また、けほっ…」
また咽せ始めたレイラ。毒性濃度がかなり強かったのか、「い、痛い…!」手足に痛みや麻痺を感じた、幸いにも、まだ軽度で済んでる様ではあるが、「またか…、これはあまり外を出歩かない方が良いか、倒れる前に何処か安全な部屋に入るとしよう、何処もかしこも改装されて変な小細工だらけになってたら、どうしようもないけど」
バンバンはそう言って、レイラの状況を考えて一旦何処かの部屋に入って、彼女を休ませる事にした。
部屋移動後……
「はあ、はあ……はあ……」と少しずつ落ち着いてきた様子で、レイラはビターギグルの目を向けた。
「ねえ、ギグル…久々に…またジョークを聴かせてよ」猛毒性ガスを過度に吸ってしまった影響で、中毒症状が段々と体の表面に出始め、身体的にも辛い状況に。
けど、そんな時だからこそ、ビターギグルが言い放つジョークを聞いて励ましい、それが彼女としての望みなのだが…、「ジョークが思いつかないヨ、それにこんな中でジョークなんて言えナイヨ、ほんとは……言いたい気持ちもあるケド、でも……」ビターギグルは地下エリアに居た時のような気持ちになっている様で、災難ばかりが降りかかっているレイラを想うと、ジョークを言って変な空気感にしたくない、という気持ちのようだ。
「…………ギグル、でも‥‥我慢したらギグル自身も辛いんじゃない…?」レイラは自分の事よりも、何時もより元気がないビターギグルを気にかけ、スッと起き上がり、ぎゅっとハグをした。
「レイラさん……」ビターギグルは彼女の頭を撫で撫で。
大好きな彼に撫でられてご満悦の様子で、猛毒ガスによっての効力の事なんて忘れてすっかりご機嫌になったようのレイラ。
レイラにとってビターギグルはお気に入り以上の存在へと変わったのかもしれない。
「また近くの部屋、もっと色々みてみたい」
「もう体の方は大丈夫なの……?」
「うん…!!、大丈夫だよ!ありがとう、ギグル!」
「なら、良いんですケド…」
そうして、またレイラ達は、異様な空気に様変わりした幼稚園の園内を散策する事に。
廊下にはまるで、一筋の道のように見えない先の奥まで、未知の液体がずっと続いていて、不気味な空気感を感じるようになった。
そうして、探索をしていると、何やら妙な部屋を見つけた。「……?、此処は‥…?」「あれは……」
レイラとバンバンが見つけたのは、多量の未知の液体を保管してある透明な筒形ケース……【ジバニウム】と、あの……『猛毒 』と思われる液体… 、「此処はあまり、触れない方が良さそうだ、他のところへ行こう」トードスターがそう声をかけ、その部屋を後にしようとした時、レイラは何かの気配を感じ取っていた、「……?、あれ…、何か今、何かが居たような…そんな気配がしたような‥」レイラは後ろを振り向くも、そこには何者も居なかった。
「気のせいだったのかな…」
「とりあえず、行こう」
レイラ達はその後も、暫しの気分転換で散策を進め、「…………」
バンバンが突然黙り込んだ、一体どうしたのだろうか……「バンバン‥‥?また何か考えてるの?」
「ああ、あの猛毒液があんなにも過剰な程に保管されてあったのか、それが不思議でね。何か実験に使用する為に用意したとしか思えなくてね、ジバニウムと結合した毒薬でも開発するつもりなのかも‥‥こんな事考えたくもないけどね」
「そう考えるのが妥当だな、その痛みの餌食になるのもおそらく君だろう、本格的な実験実行前に試験的な意味を込めた治験で、その痛みを与えられるかもしれない、それは覚悟しておいた方が良い」トードスターはそう忠告を告げた。
実験に使われるのはもはや、決定事項も同然のよう……。
「そんな……怖いよ」
レイラはまた怯えきった様子で、ビターギグルに抱きついた。
「とにかく、一先ずの散歩は此処までにしない?部屋に動いてると、また触れちゃいけないエリアに足を踏み込んでしまう可能性があるし、そうなったらあの人間達に見つけられるかもしれない」ビターギグルはこれ以上の騒ぎを防ぐ為にも大人しくしておいた方が良いと助言。
バンバン達もその考えに賛同し、部屋へ一旦戻る事に。
「ふふっ!」
部屋に戻ると一目散にレイラはビターギグルにぎゅっとべったり。よっぽどビターギグルにメロメロの様子のレイラ。バンバンやスティンガーフリンには全く目もくれなくなり、彼に夢中のようだ。
その最中、猛毒の影は…濃く存在を現して来るのだった。
ビターギグルに抱きついたまま、甘えていると突然、天井からポツリ…『あの液体』が垂れ落ちてきた。
「え…これって‥あの、【猛毒】って言ってた液体…だよね、何で‥」
「態々部屋に染み込ませて、猛毒液を染み渡らせるなんて卑怯な手を使うものだね、彼らは…」
バンバンは部屋にポツリと溢れ落とされた毒液を眺めてそう言った。
その猛毒もやがて、いつしか中へ流れ行く事になるのも、今の彼女は……まだ知らない。
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