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あら、藍くんやっちゃった😅嫉妬深い祐希くんにそのセリフはダメだったと思う😅もうここは男らしく子供じゃないなら責任持って食べられてください(笑)

いい!すごく好きです。このゆうきさんの余裕ない感じ♡ らんくんの嘘だとわかるような言葉も、冷静になれずにまともに受け取ってしまうゆうきさん😅 らんくん頑張れ♡
 
 
 
 「こっちにおいで、」
 人懐っこい声を響かせながら、背中を抱き締められる。俺よりも少し低い体温が、より俺の熱を上げる。
 
 大学生になってさらに筋肉量が増した。その力強い腕に抱き締められているのに‥
 
 俺の心はどんどん下降していく。
 
 
 
 
 
 今夜は久しぶりに祐希さんからの連絡があり、家へと訪れた。久しぶりに上がる室内は、相変わらず整理整頓されていて几帳面さを醸し出している。祐希さんらしいと思わず笑みを漏らす。
 だが‥そんな浮かれた気持ちも、次の瞬間には打ち砕かれてしまった。
 
 飲み会の後なんだろうか。
 ほのかに立ち込めるアルコールの匂いに混じるように‥きつい香水の香りが鼻につく。それが彼の全身に纏わりついているようで、酷く不快だった。
慣れない匂いに頭がクラクラする。
 軽く咳払いをし、リビングのソファにドカッと無遠慮に座り込む。普段ならば絶対にやらない行為だ。
 それぐらいムカムカしていた。
 しかし、そんな俺の態度に対して気にもならないのか、後ろから抱き締めながら、彼にしては珍しく甘えた声を出す。
 「らぁん‥」
 猫なで声のような。甘い声を耳元で囁く。彼の唇が耳朶に触れるたびにゾワッとした震えが全身へと瞬く間に広がる。
 まだ、酔っているんやろか‥
 普段とは明らかに違う態度に、どう接していいのか戸惑ってしまう。
俺の背中に軽く体重を乗せながら、両腕で抱きしめてくる。それは緩やかではあるが決して逃さないという強さも含まれていて。
それだけで、俺の心臓は早鐘を打つ。
 ふと、視線を後ろに向けると、微かに頬を赤らめた祐希さんがニコリと笑った。目尻をクシャッと歪ませながら。
 そして‥‥、
 
 不意に唇に柔らかい感触が落ちる。
 軽く触れるだけのキス。
 
 付き合って1年は過ぎようというのに‥
 祐希さんはこのキスしか与えてくれない。
 乾いた唇の感触しか俺は知らない。その奥にある情熱を感じ取りたいのに。
 
 俺が‥高校生だからなのか。
年の差を時折恨んでしまうが、どんなに願ってもその差は縮まることはない。
 俺と祐希さんでは、過ごしてきた時間の長さが違うのだから。
 今夜も‥
 触れるだけのキスをして乾いた唇が離れていく。
 ほのかに漂うアルコールの匂いだけを置き去りにして‥。
 
 それでも、
いつもの俺なら満足そうに微笑んでいたかもしれない。
 
 だが、今夜は何故か違った。
 
 酷く心がざわついて仕方ない。
 それは、女性用の香水の残り香のせいなのか‥否、それだけではない。だから、満足そうな瞳に不満をぶつけた。
 
 
 
 「それで、終わり‥なん?」
 「え?」
 俺の言葉に不思議そうに小首を傾げる。
何を言っているんだとでも思っていそうなその振る舞いに、何故か牙を向きたくなる気持ちを抑えきれない。
 祐希さんにとって、俺はまだガキンチョなんだろう。成長していない。
 だから、キス以上の事をしないんだと思う。
 そして‥もう一つ。
 大学のバレー部の飲み会の日は必ずと言っていいほど、連絡がない。
 そもそも、バレー部の飲み会がある事を事前に聞いたことすらない。
 いつも気付くのは、誰かが上げた投稿でしか知る術がないのだ。
 祐希さんは何一つ連絡をしない。
 それは何故か‥
 疑いたくはないが、女性が絡んでいるんだと思う。
 毎度、飲み会の投稿に載せられている写真の彼の周りは女性で囲まれているからだ。
 一度だけ、そのことに触れると‥
 「ああ‥」
 と短い返事しか返ってこなかった。さも、どうでもいいと言う感じの言葉に‥それからは聞くのを諦めた。
 
 「俺‥もう17になるんすよ、」
 「らん?」
 「子供扱いせんとって!‥俺だって経験ぐらい‥ある‥し‥」
 
 どもりながらも軽く睨みつける。
 経験‥。思わず投げつけた言葉に後悔の念が早くも押し寄せるが、それでも引く気にはなれなかった。
 勿論、経験があるというのは嘘だ。男同士なんてやったことも無いし、やり方さえ把握していない。
 祐希さんと付き合えるようになって、数日後、興味本位でそういう類いの動画を漁ったが、最初の段階でやめてしまった。
 それ以来、見てはいない。
 
 それでも、経験があると言えば、子供扱いされないだろうと考えた。対等に接してくれるんじゃないかと。
 愛されてる実感が欲しかった。
 しかし、
 
 祐希さんの反応は違った。俺の言葉を聞いた直後、一瞬、大きく瞳を開き、へぇ‥と一言呟いた。
 たった一言。
 
 その後は無言。だが、俺を射るように見つめるその瞳には明らかに怒気が含まれていた。
さっきまでの柔らかい眼差しは消え失せ、空間を支配する。息を飲むような張り詰めた空気感に堪らず視線を外すと、
 顎に手を当て、強制的に向かされる。あまりの馬鹿力に涙がこみ上げる。
 
 「‥ったぁ、」
 
 食い込む指の強さに耐えられず、呟いた言葉にも反応はない。ただ、ジッと睨まれ続ける。
 
 「どこでやったの?」
 何が?と答えられるわけもない。強い力で顎を押さえられているんだから。
 「経験あるんだ‥じゃあ、我慢しなくてもいいよね?」
 その言葉を言い終えると、摑まれていた顎から手が離れ、ドンッと後ろに引き倒される。
 急な衝撃で、背中と肩に鈍い痛みが生じる。痛みで顔が歪む。
 その俺に覆いかぶさるように上に乗り上げた祐希さんが、自分のTシャツを乱雑に脱ぎ捨てながら呟く。
 
 「‥手加減しないから‥」
 
 抑揚のない冷たい言葉が全身に突き刺さる。
 押しつけられた床の冷たさだけがリアルに感じた。