「…っ、うぅ…ふぇぇ…」
いつの間にかすごい勢いで熱があがったみたいで、空気が全て二酸化炭素になったかのような苦しさがある。ただただ幼い子供みたいに泣くことしかできない。
「…大丈夫?」
意識もぼんやりとしてるし、涙で視界は歪んでるから誰なのかも分からない。ただ安心する声だと感じた。
「うぇぇ…うぅ…ごほっげほっ、はっ、は…苦し…っ…」
「…」
その人は黙ったかと思ったら急に俺を持ち上げた。
「_!…__から_!」
「_、__!」
「__!___」
耳鳴りで誰が何を言っているのか分からない。そしてそのまま意識を手放した。
目が覚めると口元と腕に違和感を感じた。どうやらここは病院で人工呼吸器を付けられ点滴をされてるみたいだ。そして個室。だからなのか周りがすごく静かだ。横にある機械がピッピッと速めの音を出しているだけ。熱がまだあるのか体は怠くて動かせない。ふと隣にあった机のしたを見ると大きな鞄があった。少しチャックがあいていたので覗いてみると、着替えや洗面用具といったものが入っていた。入院でもするのかな。でも前入院した時はそこまでだったはず…ってかこれ付けてても苦しい…とか思ってると控えめにドアが開いた。
「失礼しまーす…あ、涼太起きてる。」
「…しょ、た…」
「…きつそうだな。苦しい?」
「少、し…でも、大丈、夫…」
「…まぁ限界になったら言えよ。」
「ん…」
また静かになった病室に俺の荒い息遣いが響く。するとまたドアがノックされた。
「失礼しまーす、って翔太くん!来てたんやね!ありがとなぁー」
「向井さん…!こんにちは。」
「こんにちは!涼太くんどんな感じ?」
「何か苦しそう。息も荒いし顔赤いし。」
「あー…昨日と変わらずやんなぁ…」
2人が話しているのをぼんやりと眺めていると、向井さんがふとこちらを向いた。
「涼太くん、呼吸しずらいやろ?」
「ん、しづら、い…」
「せやろ。昨日涼太くん気を失ってから検査とかしたんやけど、結果が少し重い肺炎やったんよ。だから暫くは入院やって。退院の目処は立っとらんって。」
「…そ、う…」
「うん。やから言うの遅くなったけどあんま無理して喋らんでええからな。」
そう言って康二兄さんは俺の胸辺りをさすった。呼吸が少し楽になったみたいでほっと息をつく。
「…そういや、」
「ん?どうしたん?翔太くん。」
「昨日、たまたま身内の見舞いでここの病院来てたんすけど…涼太を病院に連れて行ってたのって、目黒さんでした?」
「そうやね。」
え、そうだったのとは言えなかった。息苦しさもあるが、それ以上にびっくりしたから。
「ですよね。病院の待合室の奥の方で座ってたのを見かけたから。」
「そうなんやねー」
「…何かあったんすか?」
「…ん?」
「あ、いや…何か目黒さん下向いて泣いてた気がして。」
「…あー…」
「…そ、なの?」
「おう、何かぶつぶつ言ってたけど聞こえなかった。」
「…まぁめめにも色々あったんやろ。こっちでも気にしとくわ。…そろそろ帰った方かええんちゃう?」
「ほんとだ。じゃあお邪魔しました。涼太、また来るからな。」
「うん。」
ちょっと不思議そうな顔をしながら翔太は病室から出ていった。
「…」
「…涼太くんがめめに叱られた日があったろ?」
「う、ん。」
「まぁ涼太くんが何も言わなかったことを怒ってたのは分かってたと思うんやけど、めめはもう1つ怒ってたことがあったんよ。」
「…?」
「…自分が涼太くんの体調不良を気付けなかったこと。」
「…!」
「で、その矢先涼太くんが倒れちゃったから。めめはすごく自分を責めとったよ。」
「で、も…!」
「…そやな。これはめめが悪いわけではないし涼太くんが悪いわけでもない。なのにめめは涼太くんを叱った自分が悪いって思い込んでなぁ…病院からめめが帰ってきたときなんか泣きながら帰ってきたから、ラウと2人でびっくりしたわ…」
「…っ、ごほっごほっ…」
「あっ、ごめんな。無理させてしまったな。…また明日も来るわ。」
聞きながら咳き込んでしまった俺を見て、慌てて康二兄さんは胸辺りをさすってくれた。さっき俺がこれで表情を緩めたのを見逃してなかったのだろう。若干咳が落ち着いてきて、そのまま眠りについた。
「…めめも明日連れて来ようかな…」
そうぼそっと言った康二兄さんを知らずに。
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