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「な、何を言ってるんですか?」
思ってもいなかった王妃様の発言に目をパチパチさせる。
(えっ、冗談?ううっ、こういうときどうすればいいの!?)
「困らせちゃったわね、ごめんなさい。でも、考えておいてくれると嬉しいわ」
「は、はヒイ」
(なるほど、私を王国に引き留めておきたいわけか・・・)
「別に他の国に行く予定は今のところないので大丈夫・・・です」
「そう、まあさっきのはこの国に引き留めたいから言ったんじゃないけど」
「えっ、」
(違うの!?何考えてるかわかんないこの人、怖イイ!!)
ジュリカルの怖い人リストに王妃様が追加された。
「王妃様とのお茶会はどうだったっぺ?」
「疲れたよオ、王妃様怖かった!!」
ジュリカルはプシューと身体の力が抜けベッドの上に寝転がった。
「そういえば、のっぺは王様と何話してたの?」
「ん、ジュリカルの新しい仕事の依頼についてっぺ」
「イヤアア!!!」
そうジュリカルは泣き叫ぶと疲れたのかすぐに寝てしまった。
〈王とのっぺの会談〉
「そなたの主人に仕事を依頼しても良いか」
「いいっぺ。けど、条件があるっぺ」
「何だ?」
「ジュリカルを絶対に戦いの道具にしないことっぺ」
「わかった。それは絶対に守ろう」
こうして、ジュリカルの知らないところでジュリカルを守るための契約が交わされていた。
「ジュリカル、起きるっぺ」
「むにゃ……、何?」
まだ眠いのかあくびをしながらリビングへと行く。美味しそうな匂いがリビングからただよってくる。のっぺが作ってくれた朝食の匂いだ。
「いい匂い。今日は卵トースト?」
「そうだっぺ。よくわかったぺねえ」
ご飯はみんなで一緒に食べる。これがメイフィリック家のルールだった。
だが、もう一緒に食べる家族はいなくなってしまった・・・
だから、のっぺだけが一緒に食べる相手なのだ。
「…モグッ…美味しい」
「よかったっぺ」
少しの間二人は静寂の時に包まれる。この時間がジュリカルは好きだ。言葉がなくても満たされている時間。
「ジュリカル、今日の仕事っぺ」
そう言ってジュリカルに依頼の紙を渡す。
(ふーん。何々、…!?勇者と一緒に王子の護衛!?)
「む、無理イイイ!!!」
静寂な時間は一瞬で壊された。
(無理、絶対無理イ!勇者とか王子とか怖いよオオ!!)
オドオドしながらのっぺをぬいぐるみのように抱きしめた。(のっぺは1mのくまさんサイズだからぬいぐるみとかわりはないが)
「ジュリカル、勇者が来てるっぺ」
「本当だ。ヒイイイ」
ジュリカルはもっと強い力でのっぺを抱きしめる。のっぺだから死なないが、普通の人間がやられてたら死ぬくらいの力だった。
「仲がいいんだな。君たちは。」
茶髪の爽やかそうな青年が話しかけてきた。
「だ、誰?」
「僕は、勇者マイロ・イクレン。君が魔術師かい?」
そう言って、ジュリカルの方をまっすぐにみる。
(ううっ、ずっと見てくるウ……帰りたイ!)
だが、黙っているのはダメだと思い質問に答える
「はヒイ、魔術師ジュリカル・メイフィリックです」
「よろしく、ジュリカル」
「よろしく…」
マイロが手を出し、握手を求める。ジュリカルは手に爆弾が仕掛けられてないか確認して、マイロの手を握る。
(ヤ、ヤバイイ!!どれくらい力加減をしたらいいかわかんない!!折りそうで怖いよオオ)
ジュリカルは豆腐を握るようにとても優しく手を握った。
ジュリカルは力加減に必死でマイロの顔を見ていなかった。だから、気付かなかったのだ。
マイロの笑顔がひきつった笑顔になっていることを・・・
「ご、ごべんなざイイイ!!」
ジュリカルは涙と鼻水まみれの顔で土下座して謝る。
まさか、手加減をしていたつもりがすごい力でマイロの手を握ってしまっていたらしい。
のっぺが言ってくれなかったらジュリカルは気付かなかっただろう。
ものすごい勢いで謝ってくるジュリカルを見て、わざとじゃないことわかったマイロは言った。
「顔を上げて。嫌がらせしたわけじゃないんだろう。気にしてないから」
マイロの優しい一言にジュリカルはもっと涙が溢れる。
「ありがとうございまずウウ」
全力でお礼を言っているジュリカルの前に馬車がとめられる。
「…引かれるウ!!」
「落ち着いて、とまってるよ。きっと王子の馬車じゃないかな」
「…へっ」
マイロの言う通り、それは王子の馬車だった。中から家来が出てきて、馬車の目の前にいたジュリカルを蹴ってどける。そして、そこに赤い絨毯を敷いた。
「な、何するんだ!ジュリカルに謝れ!!」
そう言って、マイロは蹴っ飛ばされたジュリカルのもとへ駆けつける。回復魔法をかけようとしたが、ジュリカルは傷一つなかった。
「…?ジュリカル無事か?」
「うん」
「そんな奴を気にするなんて勇者もおちたな」
そう言って、馬車の中からいかにも貴族のような豪華な服に身を包んだ者が出てきた。
彼はジュリカルを見て、
「こんな小娘に俺は守ってもらうのか」
と言い放った。
「…王子、あまりにも失礼です。謝って下さい」
(王子…ヒイ。怖イイ!!!)
「何で謝らないといけないんだよ」
王子はそう、悪態をつく。マイロはジュリカルに申し訳ないと思うが当の本人のジュリカルは全く気にしていなかった。理由は簡単だ。ジュリカルは自分が言われてるだなんてこれっぽっちも思ってなかったのである。
逆に感心していた。
(すごいな。のっぺに向かってそんなことが言えるなんて!)
そう、ジュリカルはのっぺが言われていると思っていた。それは・・・・・・のっぺも。
「はあ?舐めてんのか小僧」
そう言ったのはのっぺだった。ジュリカルよりもチビなのっぺを見た王子は口角を不敵に上げ、のっぺに近付く。そして、
「誰が小僧だ、チビ」
と言い、のっぺを地面に押し付け殴った。もう一発、また一発、計10回ほど殴る。そして、また殴ろうとすると王子は横腹に激痛が走り、気付くと10m近く吹っ飛んでいた。
「私の友達に何するの……」
ジュリカルは座っている王子の前に立つ。そして、王子の顔を見つめた。
(私、今ちゃんと怒れてる…?)
ジュリカルの想いとは裏腹に彼女は怖いほど無表情だった。ただ、瞳だけが絶望を灯した深い深い闇の色をしていた。