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週末、都内の会員制スポーツジムを訪れた。重なるマシンの金属音とアップテンポなBGMが響くその場所は、生粋のインドア派の僕にとって完全にアウェイだった。
「まずは着替えちゃいましょう!」
更衣室から出てきた白石さんを見て、僕は息を呑んだ。
ボディラインがはっきり出る、黒のレギンスにショート丈のトップス。引き締まったウエストと、健康的な太ももが眩しい。ポニーテールに結い上げたうなじが、妙に色っぽい。
(……スタイル、良すぎるだろ)
出るべきところが出て、締まるべきところが締まっている。隣に並ぶのが申し訳なくなるほどのスペック差だ。
「まずは私がお手本見せますね! 今日は下半身を重点的に鍛えますよ~」
白石さんが向かったのは、ガチ勢が集まるフリーウェイトエリアだった。 パワーラックの前に立つと、彼女の表情がスッと引き締まった。
「スクワット、いきますね~」
彼女がバーベルを肩に担ぐ。その瞬間、場の空気が変わった気がした。
「ふっ……!」
短い呼気とともに、彼女が深く腰を落とす。重力に逆らい、また力強く立ち上がる。
レギンス越しにも分かる、引き締まって形のいいおしりと太ももが、揺らめくように動いている。
汗がこめかみを伝い、鎖骨のくぼみへと落ちていく。その様子が、たまらなくセクシーで、僕は思わず目を奪われた。
(すごい……きれいだ)
でも、回数を重ねるごとに、僕の見方は変わっていった。
そこにいたのは、普段のふんわりとした彼女ではなかった。己の限界に挑み、肉体と対話する、ストイックで美しい一人のアスリートだった。
(……なんていうか、強さが違う)
僕は当初、彼女を性的な目で見てしまっていた自分が少し恥ずかしくなった。彼女が持っているのは、単なる色気じゃない。
自分の足で立ち、自分を律して努力できる人特有の「生命力」のような美しさだ。一日中パソコンやスマホの前で猫背になり、ブルーライトを浴び続けている僕とは、生物としてのレベルが違う気がした。
10回3セットを終え、バーベルを置いた彼女が、荒い息を吐きながら振り返った。
「はぁ、はぁ……。どうですか陽一さん! 見てるだけで、こう、身体から熱いものがこみ上げてきませんか!?」
「え? あ、うん。すごい熱気だね」
(ちがう、そうじゃない! 私のおしりの誘惑にも反応しなかったってこと? ガーン泣)
彼女は一瞬がっかりした顔をした気がしたが、すぐになにかを決意したように顔を上げた。
「……次は陽一さんの番ですよ!」
(よし、気を取り直していざ。運動してテストステロン出したら反応してくれるかな~ドキドキ)
白石さんは妖しく目を光らせて、僕をラックへと誘った。
「え、僕もこれやるの?」
「軽めの重さにするので大丈夫です! はい、頑張って♡」
「う、うん……」
言われるがままにバーを担ぐ。ずしり、と鉄の重みが肩にのしかかる。
「はい、お尻を突き出して! 深く、もっと深く!」
「う、ぐぐ……っ」
「そこで止めて! 今、筋肉が喜んでますよ! ホルモンもドバドバ出して……♡」 「え? なにを?」
「なんでもないです! あと5回! いけます、陽一さんならいけます!」
(やばっ、心の声が漏れてた)
背後から彼女の熱い視線と励ましを受け、僕は必死に足を踏ん張った。彼女の前で、無様なところは見せられない。その一心だけで、僕は限界を超えた回数をこなした。
「——はい、オッケーです!」
ラックにバーを戻した瞬間、膝がガクガクして力が抜けた。
「はぁ、はぁ……し、死ぬかと……」
「お疲れ様です♡ どうですか? なんかこう、野性的な気分になりませんか♡?」
「……いや、どっちかというと、捕食される寸前の草食動物の気分……」
「むぅ……計算外……」
白石さんは何かをブツブツ言いながら、僕にタオルを渡してくれた。