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第8話:父という最大の壁
廊下。
藍音と湊は手を繋いでいた。
その瞬間。
低い声が響く。
「……何をしている」
空気が凍った。
ゆっくり振り向く。
そこに立っていたのは――
父・蒼真。
圧倒的な威圧感。
社長としての顔。
娘を溺愛する父としての顔。
その両方が混ざっていた。
「ち、違…」
藍音の声が震える。
でも。
手は離さなかった。
その瞬間。
蒼真の視線が鋭くなる。
「湊」
低い声。
「説明しろ」
湊は一歩前に出た。
そして頭を下げる。
「申し訳ありません」
「謝罪はいい」
沈黙。
重い空気。
「事実を言え」
数秒の静寂。
そして湊ははっきり言った。
「藍音をお慕いしております」
空気が割れた。
藍音の心臓が止まりそうになる。
蒼真の目が細くなる。
「主人の娘だぞ」
「承知しております」
「立場がわかっているのか」
「はい」
「それでもか」
湊は迷わなかった。
「はい」
沈黙。
重い。
怖い。
でも。
藍音は一歩前に出た。
「パパ」
蒼真が驚いた顔をする。
声が震える。
でも止まらない。
「湊が好き」
完全な沈黙。
数秒。
いや。
体感では永遠。
蒼真はゆっくり娘を見る。
「本気か」
「本気」
即答だった。
その瞬間。
蒼真は大きくため息をついた。
「……はぁ」
そして額を押さえる。
「最悪だ」
「え!?」
藍音がショックを受ける。
蒼真は湊を見る。
「お前は優秀だ」
「……」
「人間としても信用している」
藍音の希望が少し灯る。
でも次の言葉で落ちる。
「だが父親としては0点だ」
「!!」
空気が緊張する。
蒼真は静かに言った。
「娘は渡さん」
ドクン。
心臓が落ちる。
でも。
その瞬間。
湊が頭を下げた。
深く。
「それでも」
低い声。
真剣。
「私は諦めません」
藍音の目が見開く。
「命をかけてでも」
蒼真の目が変わった。
男を見る目。
「……覚悟はあるか」
「あります」
「娘を一生守る覚悟は」
「あります」
「泣かせたら?」
「私が責任を取ります」
沈黙。
数秒。
そして――
蒼真は小さく笑った。
「…昔の俺みたいだな」
「え?」
藍音が驚く。
「お前の母に同じことを言った」
「えええ!?」
その瞬間。
後ろから声。
「懐かしいわねぇ」
振り向く。
母・藍琉が立っていた。
ニヤニヤしている。
「修羅場見に来たの?」
「お母さん!?」
藍琉は楽しそうに言う。
「許してあげなさいよ」
蒼真は顔をしかめる。
「簡単に言うな」
「あなたも執事だったでしょ」
沈黙。
痛いところを突かれる父。
藍音は初めて知る。
(パパも同じだったんだ…)
蒼真はしばらく考えた。
そして。
低く言った。
「条件がある」
空気が変わる。
「俺を納得させろ」
湊の目が真剣になる。
「必ず」
藍音は思った。
(戦いが始まった…)
でも。
手はずっと繋がれたままだった。