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砂原 紗藍
#再会
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「また笑って話がしたかった。それにあの日から気持ちはきっと溢れて溢れていたんだ。自分が気づかないまま」
「都合がいい話だね」
じゃあさっき、自分でも自覚したの。
なんて私には言えるわけない。
私は恋を知らない。私には、その衝動が分からないはずだから。
「沢山傷つけて悪かった。許してくれとは言わない。でも一緒に住んでいって、今の華怜に惹かれていったんだよ」
私もだ。
どんなに忙しくても朝食を一緒に食べようと言ってくれた。
目も合わせない可愛げのない態度の私に、苺が好きだと勘違いしてデザートに頻繁に苺をつけてくれた。
男性恐怖症を克服したかと思って男性がいる飲み会で遅くなったら迎えに来てくれたし。
雷が怖いのを知っていてそばにいてくれた。
そして体中が痺れるような、身体が蕩けてしまうようなキス。
私は、恋を知らない。
だから今、思い出しても胸がとろけるようなこの感情の名前が分からなかった。
どうしていいのか分からず、彼の背中に手を回してしがみついてみた。
すると、反射的に彼が両手で私の肩を押さえて逃げた。
「――なんで」
戸惑う表情の彼が面白い。感情がめちゃくちゃ。
普段クールな顔をして、そんな風に感情に振り回される顔ができるのね。
「怒ってないよ。騙されたことに怒りはない」
「お願いだから、傷ついているなら優しさを見せないでいい。俺のことをめちゃくちゃに傷つける権利は君にはある」
「でも義務じゃない。……私もきっと同じだよ。騙されたのに、そこまでして私を好きでいてくれていることに、なぜか感動している」
どうしてか自分でも自分の気持ちがコントロールできないんだって告げると、彼の顔がゆがんだ。
「駄目だ。俺を傷つけてほしい」
「私の髪を守ってくれてありがとね」
「俺の都合のいい夢を見ている気分だ」
震える声が愛しくて微笑んでしまった。
大人になったから分かることがある。
遠回りしたから分かったこともある。
無関心にしたから見えてきたことがある。
ああ。
なるほど。私は一矢くんに髪を切られたことで拒絶されたように思えたんだ。
一矢くんの特別だと思っていた自分の世界が壊れたあの日から随分時間がかかってしまった。
何もかも見ることをやめた私に、彼は懸命に叫んでくれていたんだね。
今も昔も。
「貴方のことがきっと、好きなんだ」
銅像のように固まった一矢くんの瞳が揺れている。
「まあ、よくわかんないけど、嫌いじゃないってぐらい? 私ぐらい面倒くさい奴によくもまあ根気よくかかわったな――」
言い終わる前に再び抱きしめられた。
人の話を聞いてほしい。そのせいで私たちは10年以上もすれ違っていたんじゃないの。
「俺に優しくすると、勘違いするけどいいの」
「どんな勘違い?」
クスクス笑いながら、一矢くんの背中を掴んだ。
「今度こそ、君を幸せにしたいって。君も俺のことを思っているって」
勘違いさせる復讐なのかって、そんな酷い台詞まで吐く。
今までの私の態度からして疑心暗鬼になるのは仕方ない。
それに私だって、まだ名前が知らない。
でも抱きしめられてこんなに胸が熱くなって幸せだなって思うなら、それが答えだと思う。
「幸せにして。幸せにしてください」
たった今、世界で一番幸せだと言おうとしたが、せっかくなので意地悪で言わなかった。
彼が「ちょっとまだ顔を見せられないから」と言うので、クールな彼の表情になるまで長い時間抱きしめられた。