テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「いや、違うよね。あいつが私のこと好きなわけないし」
「いや、絶対気のせいだろ。星蘭が俺を好きとか、新手のタチの悪いドッキリに決まってる」
あの日の夜。二人はそれぞれの部屋で、ベッドの上でクッションを抱えながら、悶々と「文字数の計算」を繰り返していた。あれだけ完璧な嘘をつく相手だ。
「たまたま文字数が一致しただけの、高度なブラフ(ハッタリ)だ」
と、お互いに自分を納得させて翌朝を迎えた。しかし、運命の神様も、なかなかに『曲がったこと』が好きなようだった。
「――よし、それじゃあ今月の席替えを始めるぞ」
金曜日の朝、担任の先生が黒板に「席替え」と大きく書いた。教室内が歓声と悲鳴に包まれる中、星蘭と蹴翔は、お互いに意識しないようわざと真逆の方向を向いていた。
(とりあえず、あいつの近くにだけはなりませんように……!)
星蘭は心の中で祈りながら、三角に折られたくじ引きの紙を開いた。そこに書かれていた番号は「24」。黒板の座席表を確認すると、窓際の一番後ろ。特等席だ。
(やった! 一番後ろなら、誰が隣でも演技でどうにでも――)
「あ、23番ここかよ」
聞き慣れただるそうな声が、すぐ隣から聞こえた。恐る恐る視線を動かすと、そこにはランドセルを机にドサッと置いた蹴翔がいた。よりによって、一番後ろの席で、ぴったりお隣同士。二人の視線がバチッとぶつかった。一瞬の静寂。
((うわ、気まずっ!!!!))
叫び出したい衝動を、二人は持ち前の「プロの演技力」で完璧に押し殺した。星蘭はすぐに、いつものクラスメイトに向ける『サバサバした女子』の笑顔を作る。
「なーんだ、蹴翔が隣かぁ。今月は毎日、嘘の相手をしなきゃいけないから疲れそう」
「それは俺のセリフだし。お前のいじわるに毎日付き合うこっちの身にもなってくれよ」
蹴翔もフッと鼻で笑い、いつもの『大人の余裕』を気取ったポーズで椅子に深く腰掛けた。いつも通りの、毒舌の応酬。周りの生徒から見れば、いつもの仲が良い(?)いじり合いコンビだ。だが、1時間目の授業が始まった瞬間から、二人の間の空気は限界まで張り詰めていた。一番後ろの席は、先生の目が届きにくい場所。いつもなら、授業中にこっそりノートの端に「先生のハゲ頭のイラスト」を描いて見せ合ったり、「今、廊下を怪しいスパイが通った」と嘘の手紙を回したりして、お互いをいじり合って遊ぶのが定番だった。なのに、今日は二人とも、教科書を信じられないくらいじっと見つめている。
(……ち、近い。腕が当たりそう……)
星蘭はノートをとる右手が、どうしてもぎこちなくなってしまう。いつもなら
「ちょっと、肘ぶつけないでよー」
とわざとらしく騒ぐところだが、今はもし本当に肌が触れ合ったら、心臓が口から飛び出してしまうのではないかという恐怖があった。一方の蹴翔も、黒板を睨みつけながら冷や汗をかいていた。
(隣に座ると、どうしても昨日の『おから始まる八文字』が頭をよぎる……。いや、岡田くんかもしれないし、織田くんだってまだ可能性はある。……いやでも、星蘭のやつ、今日やけに大人しいな。……まさか、本当に俺のことが……?)
気になりすぎて、蹴翔の視線がチラリと右を向いた。すると、ちょうど同じタイミングで、星蘭の視線もチラリと左を向いたのだ。
「――っ!」
ばっちりと、至近距離で目が合ってしまった。いつもなら、ここで変顔をしたり、「何見てんだよ」とメンチを切ったりして笑い合うはずだ。なのに、二人は同時にビクッと肩を跳ね上げ、バッと前を向いた。教科書の文字が、緊張のせいで1文字も頭に入ってこない。
「……ねえ、蹴翔」
星蘭は前を向いたまま、消え入りそうな小さな声で話しかけた。
「……あ? なんだよ」
蹴翔も前を向いたまま、ぶっきらぼうに返す。
「今日の算数のプリント、全然意味わかんない。……蹴翔、わかる?」
「は? んなの、俺がわかるわけねえだろ。……後で、優秀な学級委員様に『教えてくださいお姉様』って嘘泣きして見せて貰えば?」
いつも通りのいじわるなセリフ。けれど、その声はいつものキレがなくて、ほんの少しだけ震えていた。星蘭は、そんな蹴翔の横顔を盗み見た。やっぱり、右の耳たぶが、ほんのりと赤くなっている。
(……やっぱり。違うよね、なんて思ったの、私の大嘘だわ)
星蘭の口元に、いつもの嘘つきな笑顔ではなく、本物の、嬉さを隠しきれない小さな笑みがこぼれた。
「そうだね。じゃあ、一緒に嘘泣きの練習、しよっか」
「おう。授業終わったら、どっちが上手く泣けるか勝負な」
お互いに前を向いたまま、机の下で、ほんの少しだけ二人の距離が縮まる。絶対に本音を認めない二人の、最高に甘酸っぱくて気まずい1ヶ月が、静かに幕を開けた。
コメント
1件
もうもうもうもう!!!😭💕💕 席替えで隣になっちゃうとか運命の神様なに Intentions よ〜!!しかも机の下でこっそり距離縮めるのずるすぎるって!!「嘘泣きの練習しよっか」とか甘酸っぱさ爆発しすぎて一周回って正気か??ってレベルだよ…🫠❤️ お互い本音隠してるのに耳とか態度でバレバレなとこ、こっちが照れるわ!!次の話が待ちきれない、続きくださいお願いしますマジで!!🌸