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長いようで短かった休みも今日で終わり。明日からは通常登校になる。…..が。
「…..ね、寝れねぇ……。」
休み明け早々の遅刻を避けるため、早めに眠りにつこうとしたのだが、俺の意思に反して脳が思考を止めようとしない。
思えば、4人で遊園地に行った日から俺の調子は狂いっぱなしだ。
部活では普段しないミスを連発し突き指。顧問のことを4回「お母さん」と呼んだ。ついでに寝付きも悪い。
起きている間ずっと、あの光景が脳裏に染み付いて離れない。
青白い月明かりに照らされた艶やかな黒髪と、拭いきれていない涙で潤んだ形の良い瞳。平静を装いながらも震える唇。優しい言葉。温もり。
あの日の宇野への返事は、紛うことなき本心だった。
宇野のことをもっと知りたいと思うし、気持ちに応えたいと思う。確かにそうだ。
….でも、今俺は宇野のことをどう思っているんだろう。恋愛的に好きかと言われると微妙だし、純粋に友達かと言われるとそれも違う。
あの日は、俺の返事を聞いた宇野が本当に幸せそうな顔をしていたし、それを見て俺も宇野に対する確かな答えが見つかったと思った。
それなのに、時間が経てば経つほど、考えれば考えるほど、分からなくなってしまう。これからどんな距離感で宇野と関わっていけばいいのだろうか。
答えを探している間に、夜が明けてしまった。家を出る時間までまだ3時間はあるが、もうこの際睡眠は捨てよう。
筋トレとランニングをしてシャワーを浴びると気分はスッキリし、寝不足とは思えないほど体も軽くなった。
それからまた1時間後、やや早めに学校に着いた俺は、遅刻回避に安堵しながら席に着いた。
まだHRまで時間があるのでうつ伏せになって目を瞑っていると、カタン、と前の椅子が動く音がした。
(宇野来たのか?いやでも来たら話しかけてくるよな….気のせいか。)
そう自己解決してまた暫く目を瞑っていたが、やたらと感じる視線を無視し続けることはできなかった。
目を擦りながら顔をあげると、自席に座ったまま俺の机に肘をついて優しく微笑む宇野がいた。
「えっあ、宇野来てたなら声かけろよなー….」
休み中何度も思い出したその顔を間近に認識した途端、心臓がうるさく飛び跳ねる。
「ごめん、寝てるの可愛いなーって思って見てた」
ド直球で投げられる言葉に頬が紅潮していくのが分かる。それを見られたくなくて、どう返事をしたらいいのかもわからなくて、俺はブレザーに合わせて着ているパーカーのフードを深く被った。
「….え、来橋照れてる?」
「……..いや?」
「可愛………..」
「だから照れねえって!」
宇野は、嘘丸わかりの抵抗をする俺の腕を掴み、俺の顔を覗き込むようにして上目遣いで首を傾げた。
「…じゃあ顔見せて?」
「….」
なんの返事もしない俺に痺れを切らしたのか、宇野は許可なく俺のフードをとった。
多分、俺は今茹でダコのように赤いと思う。
そしてそれを見た宇野は蕩けるような笑みを浮かべ、俺の頬を撫でた。
「可愛すぎ。大好き。」
“諦めなくていい”とは言ったが、ここまでとは。甘い空気を醸し出しながら全力で伝えてくれる愛に、俺は狼狽えながらもなんとか頷く。
「も….いったんおさえて….周りに聞かれる…」
「聞かれた方がライバル減るし…聞かせたいんだけど」
薄々勘づいていたが、宇野は多分かなり愛情深く嫉妬深い。一言で言えば重い。隙を見せればすぐ周りに牽制したがる。….でも、不思議とそれは嫌ではなく、むしろ……。なんでもない。
「俺がだめ。恥ずい。もうちょいちっちゃい声にして」
頬に添えられた手を膝の上に戻すよう促す。
てっきり拗ねるかと思ったが、宇野は少し顔を赤くして、いたずらっぽい笑顔を浮かべた。
「….ちっちゃい声、ならいいんだ?」
「……2人の時ならな」
ヘラヘラ笑う宇野の肩を叩いてまたうつ伏せになると、宇野は優しい手つきで俺にフードを被せ、その上から撫でた。
「可愛いとこは俺にだけ見せてね。」
「…善処シマス。」
返事をした瞬間、担任が勢い良くドアを開けてHRを始めた。
「あーー今日で丁度中間考査1週間前だな。お前らわかってると思うが赤点取ったら即補習だからな!!せいぜい頑張れよ!!ガハハ!」
….ん?イッシュウカンマエ?中間の?
担任の発言が受け入れられず、前の席で微動だにせずに座っている宇野の肩を叩いた。
「….え、なぁ中間って1週間後なの?」
「…ん?うんそれは…うん。」
あまりに馬鹿げた質問に瞬きを数回してから宇野はそう答えた。
「….お、終わっ…..」
俺は、自他ともに認める超ド級の馬鹿だ。
いやこれに関しては俺にも言い分があって、副教科なら…高得点だ。
「もしかして来橋….やばい?」
「…….助けて..」
半泣きになりながら宇野の肩を揺すると、宇野は呑気にも嬉しそうな顔をした。
「来橋、放課後時間ある?」
「ある、あります。」
「….勉強会、しよう」
それから6限分何も考えずに過ごし、最後のHRが終わって、クラスメイトが全員帰ったり図書館に行ったりで教室が空いたタイミングで、俺と宇野は机を向かいあわせにくっつけてセッティングした。
早速座って勉強道具を広げると、俺の背中に勢い良く誰かが抱きついてきた。
「ゆうー!!!勉強しよー!!!!!!」
お察しの通り、川瀬だ。そしてその隣には心底だるそうにヘッドホンを装着し音楽を聴く倉井もいた。
「あれ、川瀬と倉井なんで?!」
「最初はふたりでって思ったんだけど、俺もそこまで勉強できる訳じゃないから。瑠夏は学年でも文系トップだし、俺も理系なら力になれるからどうせならみんなでやった方が来橋の為になるかなって。」
俺が何より驚いたのは、独占欲の強い宇野が二人でいられる機会に人を招いたことだ。
「てっきり、こういうのは2人きりがいいタイプかと思ってた。」
そう言うと、宇野は声を上げて笑った後、俺の髪をクシャクシャにして撫でた。
「そりゃあそうだけど….でも俺の独占欲のせいで来橋が最終的に嫌な思いするのは嫌だから。それに、あの2人は1番信頼してる奴らだから大丈夫。」
宇野の言葉を聞いた川瀬たちは分かりやすく嬉しそうな顔でピースを向けてきた。
心から俺を想って行動してくれる宇野に、生まれて初めての感情を抱く。この気持ちの名前は分からないが、どうしようもなく嬉しいことは確かだ。
「………..ふたりじゃ….ない…」
嬉しさに隠れた少しの寂寥感を滲ませて呟くと、宇野は目を見開いたあと俺を抱きしめた。
「…なんでそんなに可愛いの…..可愛すぎて心配。大好きだけど。」
暖かい体温に一瞬絆されかけたが、ニヤニヤしながら俺らを見る川瀬と倉井に気づきすぐに離れた。
この頃、自分で自分をコントロールできないことが多い。それもこれも、全部宇野のせいだ。
「も〜イチャイチャしてないでやるよ!!お菓子買ってきてあげたから!!」
勉強会をパーティーか何かと勘違いしている川瀬は、倉井が両手で抱えている大きな紙袋の中からお菓子を取り出した。
「おいこれ絶対食べきれないって」
「いける!!!奏がいるし!!」
半ば呆れながら言うと、川瀬がドヤ顔で倉井の背中を叩いた。
俺たちは数秒黙ったあと、自分たちのアホらしさに爆笑したのだった。
「だから〜、ここは考えりゃ出るんじゃなくて熟語なの!!表現なの!!奏聞いてる?!」
勉強を初めて2時間後、完全に電池が切れ無限にお菓子を食べ続ける倉井に川瀬が必死に間違いを指摘している。俺が聞く限り、倉井がこの問題を間違えたのは今日で8回目。多分開始から今まで何も聞いていないのだろう。
「….来橋、問7合ってるよ。やっぱりやればできるね、地頭良いんだよ。」
倉井のことを言えないくらい充電が切れかかっている俺に気づいた宇野は、やる気が出るようにすかさずフォローをしてくれた。
「試験中も宇野が隣にいれば解けんのになあ」
なんとも自堕落なことを呟くと、宇野は困ったように笑って俺を撫でた。
「裏金で通るならそうしてあげたいくらいなんだけど」
「いや冗談だから。やめてください。」
危ない。俺の気安い発言ひとつで宇野が退学になってしまう危険性がある。
「っだー!!!!もう!!奏が完全にふざけはじめたから連れて帰るわ!!!ごめんね2人とも!!!」
そう珍しくキレ散らかしている川瀬が倉井の襟元を掴んで引きずって行った。
いいのか川瀬。倉井半笑いだったぞ。多分お前の反応見んのにハマってるだけだぞ。
2人が帰り、途端に静かになった教室で宇野は笑い始めた。
「奏って普段誰より落ち着いてるし大人びてるのにのに勉強のことになるといつもああなんだよなぁ。」
「たしかに。逆に川瀬が勉強できるの意外かも。」
やや失礼な発言に二人で笑っていると、宇野の笑いが微笑みに変わった。
「…でも、来橋を独占できるのはちょっと嬉しいかな。」
予告もなしに急に来るデレ発言に、俺の心臓はバクバクと音を立てて激しく動く。
「………….まただ。」