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私
には、どうしてもわからないことがあるのです。
どうしてこの世はこんなにも理不尽なのでしょう。
なぜ人は争うのでしょう。
同じ人間なのに、わかり合えないのでしょうか。
もし本当に分かり合える相手がいるとすれば、それは一体どんな存在なのですか? その答えを知るために、私は旅を続けています。
あなたにとって大切なものはなんですか? 愛しているものは何ですか? 守りたいと思うものはありますか? それを教えてください。
それがわかればきっと見えてくるはずです。
私が求めているものが何かを……。
だからどうか教えて下さい。
あなたのことをもっと知りたいんです。
そして理解したいと思っているんですよ、あなたのことをね……
──『氷菓』序文より抜粋 この小説を読んで最初に感じたのは、「なぜこんなにも美しくて繊細な文章を書く人が、ミステリーなんて書いているのか?」ということだった。もちろんミステリ作家の中にも文章力が飛び抜けている人はたくさんいて、その人達の作品は素晴らしいと思うけれど、少なくとも自分は、ここまで美しい文章を読む機会はほとんどない。
また、ミステリー好きとしてはどうしても気になってしまうのだが、著者の米澤穂信氏と言えば「古典部シリーズ」「小市民シリーズ」などの学園ミステリのイメージが強いと思うのですが、「夏と花火と当世妖怪事情」では現代日本の地方都市を舞台にしており、しかもそこに登場する人物のほとんどが高校生ではなく大学生という設定になっています。その辺りのことについてお聞きしてみたら……
――今回は現代日本が舞台ということですが、そもそもなぜこのような設定になったのでしょうか? やはり中高生向けの小説を書いていた作家さんにとって、現代の大学というのは馴染みのない場所だからですか? 米澤 そうですね。大学のキャンパスって行ったことないんですよね(笑)。それに僕は推理小説を書いているんですけど、現実の犯罪を扱う以上は現実に存在する様々なものを参考にしながら書かないとリアリティが出ないので、そういう意味でも実在の地名が出てくるほうが書きやすかったりするわけです。もちろん、僕の小説の中に出てくる登場人物たちも実際に存在する人間をモデルにしている部分もあるんですけれど、それでもやっぱり自分の頭の中にあるイメージをそのまま書いてしまうんじゃなくて、できるだけ実際の風景を見ながら書くようにしています。あと僕の場合は『キノの旅』という作品が好きなんで、その影響も受けているかもしれません。あの作品の舞台になっている国とか街の風景なんかを見ると、ああいう感じの場所なのかなって想像できるじゃないですか。
――なるほど。では今回取り上げる”私立文系ミステリィ大学”も実在の地名が使われているということなんですね。
米澤 えーっと……。それはちょっと違うかなあ。だってさっき言ったみたいに、俺が今まで書いてきたものは全部フィクションだし。
―――そうなのか? 米澤 うん。少なくとも俺は、そういう風に考えてきたよ。
―――なぜだ。
米澤 う~ん……なんでって言われても困っちゃうけど、強いて言うならやっぱり『夢』だからじゃないかなぁ。
―――夢? 米澤 そう。現実じゃあり得ないことだからこそ、小説を書く意味があるんじゃないかなって思うんだよねぇ。
―――ふむ……ではお前にとっての夢とは何か? 米澤 そうだね……俺にとってはきっと、『自分の理想とする世界を描くこと』そのものが、一番の夢だと思うよ。
―――なるほど。
米澤 あと、もう一つだけ付け加えるなら、誰かに読んでもらうために書くっていうことも、大切なことだよね。
―――読む者が居なければ意味がないということか。
「……そうじゃないよ」
ふわりと微笑む少女の姿があった。
『それ』の前に立つ彼女は、『それ』と同じ姿をしている。
違うのは髪の色だけ。黒々とした長い髪を垂らして、彼女は言った。
「……読んでくれる人が居るかどうかは関係ないの。私が書きたいと思ったことを書くだけで、それが誰かに伝わるかどうかなんて二の次三の次の問題だよ」
彼女は続ける。
「そもそもね、伝わるとか伝わらないとかそういうことを考えて書くものじゃあないんだよ。これは」
だからと言って書かない理由にはならないと思うのだが。
「それはその通りだけどね」
くすりと笑って彼女が言う。
「それでもさ、やっぱり書いてみて初めて分かることもあるでしょう?」
それはそうだ。
「だったらやってみなくちゃ分からないよね? だから私は今こうしてここにいるわけだし」
しかし、それでは君のやりたいことと矛盾しないのか。
「うん。全然違うことをやってるみたいに見えるけど、本当は同じことだから」
全く話が見えないのだが。
「……まだ死んでないわよ?」
「…………」
「…………」
「…………」
「あのさぁ……その反応は傷つくんだけどぉ~?」
「あー、悪い」
「うん」
「悪かったな」
「別にぃ? いいけどねぇ? 気にしてないしぃ? てゆうかさぁ? なんであたしだけ謝んないといけないわけぇ?」
「はいはい。ごめんなさいね」
「うむ」
「…………」
「…………」
「あんたたち、仲良いよね」
「「良くない!」」
「ハモった!?」
「おい! お前ら!」
「…………」
「…………」
「俺を無視するんじゃねえ!!」
「うるさい」
「黙れ」
「ぐふぅっ!?」
「えっと、どしたの急に」
「このバカがまたしょうもないこと言うから」
「ああ、なるほど」
((まったく))
(くそっくそくそくそッ!! なんでこんな奴らに!!!)
「ところで、あんたが呼んでくれたのよね?」
「そうだけど?」
「ありがと。助かる」
「どういたしまして。お礼とかはいいよ。あたしも仕事だしね」
そう言って微笑む少女の顔には、しかし疲労の色が見え隠れしている。
「ところであんたさあ……こんな所で何やってんの?」
それはこっちが聞きたいくらいだった。
僕はただこの森の奥にある家を目指して歩いてきただけだ。なのにどうしてこうなったのかわからない。
僕の名前は天内茜(あまないあかね)。高校二年生になったばかりの十六歳だ。
つい先日まで公立校に通っていたのだが、今は私立校の制服に身を包んでいる。