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あれから、何度もトワくんとのトーク画面を開いて返事が来ているか確認するも、一向に返事が来ることは無かった。それどころか、既読にすらならない。怒らせてしまったのか、嫌われてしまったのか…。ともかく、駿と1番近い存在のトワくんとの関係が絶たれそうなことに、僕は焦燥感に包まれていた。
それに、明日は月曜日だ。
駿は、学校に来るだろうか。来たとして、僕にどう接してくれるのだろう。冷たいままなのだろうか。いや、そもそも接してくれるのかも分からない。僕が話しかけても、関わることを拒まれてしまうのだろうか。
僕はベッドに横になって、目を瞑って考える。
…もしも。
もしも駿が、明日学校に来たら、しっかり話そう。2日前に起きたことも、全ての発端となった、あの日のことも。どれだけ拒まれても、絶対に諦めない。だって、駿は心の底から僕を拒むような人じゃないと分かっているから。
もう、真実から目を背けている場合じゃない。駿から逃げている場合じゃない。
絶対に。駿と話すんだ。
そして全て。駿の口から、話してもらうんだ。
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「かあさん、俺多分、もう誤魔化しきれないんだ」
俺の言葉に、かあさんは心配そうに「どうして?」と尋ねてくる。
「だって、明日は月曜日だ。俺もトワも学校だ」
「学校なんて、休んじゃったら?」かあさんの言葉に、俺は首を横に振る。
「俺が休めたとしても、トワは無理だ。絶対に誤魔化しきれない」
俺はかあさんを見上げる。
「……死のうと思う」
俺がそう言うと、かあさんはしばらく黙ったあと、「逃げるために?」そう言った。
俺はどうしようもない罪悪感と自己嫌悪に襲われ、顔を手で覆い隠す。途端にふつふつと怒りが湧いてきて、自分を落ち着かせるようにふぅ、ふぅと深く呼吸をする。
「じゃあどうしたらいいんだよ!!」
俺は声を張り上げる。
「逃げなければ、何もかも元通りなのかよ!」
八つ当たりだとは分かっていた。それでも俺は、怒りの矛先をかあさんに向け続ける。
「そういうことじゃ」 「じゃあどういうことだよっ!」
「かあさんも、駿の力になりた」 「うるさい!うるさいうるさいうるさい!」
「駿」 「かあさんには何も分からないだろっ」
「駿」 「死んだ身体で何ができるって言うんだっ!!」
「……あれ」
死んだ?
死んだ身体で?
どうして俺は、そんなこと…
頭がずきん、ずきんと痛む。激しい動悸と吐き気で、今にも倒れてしまいそうだった。
俺は頭を抱えながら、かあさんを見上げる。
ロープで括られた首、それは異常なほど長く伸びていた。目はしっかりと見開かれていて、こめかみには赤黒く乾ききった液体が付着している。
「かあさん。……死んでる?」
「えぇ」かあさんは淡々と答える。
「お前に殺されたんだから」
その声は、低く、冷たかった。
「……あぁ」
掠れた声が漏れる。
「……そうかぁ」
俺が殺したんだった。殴って殺して。
目の前のかあさんは、もう息をしていない。
最初から、俺と会話なんてしていなかったんだ。
「……明日で、終わらせるよ」
俺はひとりでぽつぽつと言う。もちろん、かあさんは喋らない。
「透真、怒るだろうなあ」
俺は透真の顔を思い浮かべる。
明日、全てを話すつもりだった。
俺が犯した罪も、透真についた嘘も、全部。
嘘をついたまま逃げるなんてできない。罪から目を背けたまま逃げるなんて出来ない。そんなの、許されないに決まっている。
俺の罪を全て話したら。そうしたら、逃げることが許されるのだろうか。…いや、許されるわけない。人を殺しておいて簡単に許されるわけが無いんだ。
けど、それでも。
もう、嘘をつき続けるのは嫌だった。
親友に嘘をついたうえに、自分の言葉で傷つけて、勝手に拒んで。
…ごめん。透真。
怖かったんだ。
透真がどんな顔をするのか分からなくて、怖かったんだ。拒絶されるかもしれない。「人殺し」と言われてしまうかもしれない。そう思ったんだ。だから、俺は勝手にお前を拒んで、傷つけた。
透真は俺を拒んだりしないって、わかっていたのに。それなのに。お前を信じ切ることが出来なかった。
けど今度こそ。
透真、お前を信じるよ。信じて、全て話す。
信じるなんて言葉で責任を押し付けて、ごめん。
…それでも俺は、透真を信じる。
親友として。
そうしたら、やっと俺は、逃げることを許されるかもしれない。
そんなことを考えるのはきっと、都合が良いんだろうな。