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ごきげんよう、夏の日差しを恨めしく思うシャーリィ=アーキハクトです。
帝都は帝国北部にあり、涼しくて過ごしやすい環境でした。それ故に南国であるシェルドハーフェンの暑さは何度経験しても慣れることはありません。暑い。
ちなみに今の服装は半袖タイプのブラウスにスカートです。足元は活動することを考えてブーツですが、少しばかり通気性に配慮されているので蒸れません。
これらは、いつも同じでは辛いだろうとエーリカが仕立ててくれました。本当に有り難いことです。
ルミのケープはいつも身に付けておきたいのですが、流石に暑いので夏場だけは私室で大切に保管しています。
さて、『血塗られた戦旗』による襲撃から四日が経ちました。後始末は順調に進んでいます。
特に死体の処理を最優先にしたのは正解でした。時期が時期なので、放置しておくと腐敗して大変なことになりますからね。もちろん火葬です。石油を使うと良く燃えて便利ですね。
今回の戦いでデビュー戦を果たした戦車隊の士気は天を貫かん勢いではありますが、使いどころが難しいのが難点です。市街地戦で使うわけにはいきませんし、引き続き防衛戦力の主力として頑張って貰いたいところ。
悲しい報告もありました。今回の戦いでの死者は十名を数え、倍の負傷者を出してしまいました。敵の砲撃によるものです。
炸裂しない旧式の大砲ではありますが、それでも直撃を受けたら助かりません。また大切なものを失ってしまいました。
これでは、私の彼岸を達成するまでにどれだけの大切なものを失うことになるのか。考えるだけで憂鬱な気分になります。
かといって、復讐を止めるつもりはありません。泣き寝入りをするつもりはありませんし、黒幕を叩かないと私達姉妹に真の平穏が訪れることは無いでしょう。
それに、ガウェイン辺境伯からの依頼で今回の騒動の影で暗躍するガズウッド男爵についても対処しなければいけません。
やり方を間違えれば帝国西部を、レルゲン公爵家を敵に回すことになりますから慎重にやらなければいけません。
カナリア女公爵様とは面識もあり、聡明なお方でした。万が一の時は単身乗り込んで、カナリア様とお話をする必要がある。
いや、『血塗られた戦旗』を潰したら会いに行きましょう。何れは貴族社会の協力が必要になるのは必然ですから、信頼出来る方を味方にするのが上策ですね。
他にも考えなければいけないことがあります。シスターが暗躍を始めました。
おそらく『オータムリゾート』、お義姉様の時のように伝を使って後ろ楯を作ろうとしているのでしょう。となれば、また私が試されることになる。
有り難いのですが厳しい母ですよ、全く。
『エルダス・ファミリー』に続いて『血塗られた戦旗』まで倒せば嫌でも『暁』の名を知られます。
そして、これは推定ですが黒幕は私の生存に気付いた可能性もある。あくまでも勘ですが、裏社会ではそれなりに有名になれた自信はありますからね。
アーキハクト伯爵家を潰した連中は裏社会にも幅を利かせている可能性が高い。
『暁』の、私の名前や顔を調べればアーキハクト伯爵家との繋がりを察することが出来るでしょう。まあ、それで動いてくれるなら有り難いことですがね。
内政面では先の損失を少しずつ補填しています。ブラッディベアの死体から採取された『魔石』を細かく分解して、少しずつ売却しています。
と言うより、マーサさん曰く原石そのまま買い取れるのは国レベルらしいので、買い取りがしやすいように分割するしかないんですよね。
発見当時は一気に財政面が改善されると喜んだものですが、現実には買い取れる商人なり商会を厳選するところから取り掛かっているため、収益化にはまだまだ時間と労力が掛かる予定です。残念。
『ライデン社』から得られた武器や技術の研究はドルマンさん達が日夜取り組んでくれていますが、それでもまだまだオリジナルには及ばない。
正規価格でQF4.5インチ榴弾砲を購入したいのですが、どうやら戦車も大砲も新型を開発中らしいので、完成を待っている状態です。
聞けば新型の軍艦も建造中で、完成したら海軍に売り渡す予定だそうですが、そこへ強引に踏み込んで交渉する権利を勝ち取りました。つまり、これからも大量のお金が必要になります。
陸路による交易は再開しましたが、密貿易については抗争終了まで海賊衆を動かすわけにはいかないので、収益としては少し落ちているのが現状です。ロウ達も頑張ってくれていますが、農産物だけでは限界があるのかもしれません。
石鹸や紙も少しずつ値段が落ち着いてきましたし、新しい交易品を考えなければいけません。
頭が痛くなりますね。楽しいので良いのですが。
「おーい、シャーリィ!」
十五番街については、レイミが現状を危険視している様子。あの娘の事が心配ではありますが、抗争の真っ最中に攻撃を止めるわけにはいきません。
レイミだけでも引き揚げさせるべきでしょうか?
「シャーリィ!シャーリィ!おーい!」
ですがそれはこれまでのあの娘の頑張りを否定するに等しい行為です。気にするような娘ではありませんが、やはり姉としては報いてあげたい。
それに、レイミを引き抜くと言えばラメルさんやマナミアさんが反対するのは目に見えています。危険が多い仕事ですからね。
そうなると、私人としてではなく組織を率いる立場として考えなければいけません。
その場合レイミの引き上げは論外です。むしろ更なる戦力の投入が必要不可欠。三者連合との戦いやスタンピードがなければ全軍で十五番街へ攻め混むのですが。
やはり世界は意地悪ですね。
「シャーリィーっ!」
「うるさいですね、何ですか?ルイ」
「さっきから呼んでるよ!全く、考え事を始めたら此だからなぁ。こんなところで考え事するなよ。暑いだろ?」
「む?」
ふと周りを見渡せば、『大樹』の側にあるベンチに座っていますね。はて?私はいつの間に此処へ来たのでしょうか?執務室に居たような?
「どうせ考え事してる間にフラフラしてたんだろ?ほら、行くぞ。ここは暑いからな」
「分かりました」
私は差し出されたルイの手をとり立ち上がります。考え出したら無意識に動き回る癖をどうにかしないと……いえ、どうせ最後には『大樹』の側に来るんです。ルイもそれを分かっているから、私を連れ戻しに来たのでしょうし。
「なんか閃いたか?」
「世界が意地悪だと再認識しただけです」
「そっか、なら考え事も止めて休めよ。そろそろ晩飯だしな」
確かに夕陽が綺麗です。朝からずっと考えていたみたいですね。
お腹も空きました。
私はルイと手を繋いで館へ歩き始めました。悩み事はたくさんありますが、今この瞬間の幸せを噛み締めることを忘れてはいけませんね。