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差し込む朝日が、まぶたを照らし、 ひまなつは眉をひそめながら、ゆっくりと目を開ける。
「……ん、……あれ……?」
見慣れない天井。鼻先に漂うのは、洗剤のにおいと、どこか懐かしい香水の残り香。
横を見て――凍りつく。
「っ……!!」
いるまが寝ていた。上半身裸で、穏やかに眠るその姿が、昨夜の記憶を一瞬で呼び覚ます。
(やば……マジで……やった、んだ……俺)
シーツの中、自分の状態を確認するまでもない。身体の奥に鈍い感覚が残っていて、それが何よりの証拠だった。
「っ……バカか、俺……酔った勢いで……っ」
ベッドからそっと抜け出し、散らばった服を拾って着込む。
なるべく音を立てないように――でも、心臓はバクバクとうるさかった。
(どうすんだよ……これから……どう顔、合わせりゃいいんだよ……っ)
シャツのボタンをかける手が震える。
そのとき。
「……逃げんの?」
声が背後から聞こえて、ひまなつはビクリと振り向いた。
いるまが、目を覚ましていた。髪が少し乱れて、まだ寝起きの顔。それでも、目だけは真っ直ぐだった。
「っ……べ、別に、逃げるとかじゃねぇし。帰るだけだし……」
「顔、真っ赤」
「うっせぇ……っ!」
「なあ、なつ。昨日のこと、全部忘れたフリするつもり?」
その言葉に、心臓を鷲掴みにされた気がした。
「……忘れられるわけ、ねぇだろ……」
「じゃあなんで、逃げようとすんだよ」
「……だって、俺……おまえにとって、ただの酔った勢いの……遊びかもしんねぇし……っ」
ひまなつの声は小さく、かすれていた。
その瞳が揺れているのを見て、いるまはゆっくり起き上がった。そして、ベッドの端から立ち上がり、近づく。
「……遊びなら、昨日のあと、朝まで抱きしめたりしねぇよ」
「……っ」
「おまえが寝たあと、何回も考えた。……これからどうすっかって。でも、やっぱ俺 おまえのこと、ちゃんと好きだわ」
「……は、? なに……いきなり……っ」
「だから言う。これ、なかったことにする気ない。おまえと、ちゃんと向き合いたい」
「……バカ。マジで、ドSで強引なくせに……、そういうとこだけズルい……」
ひまなつはうつむいて、唇を噛んだ。
だけどその顔は、昨夜よりもずっと――素直だった。
「……ちゃんと、付き合うとか、考えてくれるなら……俺も、逃げねぇよ」
「約束な」
「……ああ」
その朝、ふたりはもう一度、ちゃんと向き合った。
酔いも、熱も、すっかり醒めたあとで。
本気の恋が、ようやくはじまる。
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