TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
シェアするシェアする
報告する

「アイナさん、お願いがあります!」


夕食のとき、エミリアさんから突然言われた。

改まってお願いだなんて、結構珍しいかも?


「えーっと……?

あんまり無茶なことでなければ大丈夫ですけど……」


「ありがとうございます!

アイナさんが錬金術師ギルドに行ってる間に、わたしは大聖堂に行っていたじゃないですか」


「はい」


今日の昼過ぎ、私は錬金術師ギルドに行っていた。

昨日受けた依頼の報告をするのと、食事会の日時をダグラスさんとテレーゼさんに知らせるのが目的だ。

エミリアさんはその間、部屋の掃除をするということで大聖堂に行っていたのだが――


「いつも通り片付けをしていたらですね、レオノーラ様が来てくれたんです」


「それも、いつも通りですね」


「そしたらですね、アイナさんのSランク昇格をご存知だったんですよ!」


え、何でレオノーラさんが?

……とは思ったものの、今回の昇格は王国の方から推薦があったようだし、王族なら知っていてもおかしくは無いかもしれない。


「耳が早いですね?」


「わたしも驚きました!

その話の流れで、一部の人を呼んで食事会をするっていうお話をしたんです」


「はい。

……あ、ダグラスさんとテレーゼさんにはお伝えしてきて、予定は当初の通りで確定しましたよ」


「分かりました!

それでですね、まずはレオノーラ様のお顔を思い浮かべて欲しいのですが」


「うん? えーっと……ツンツンしてて可愛い……。

はい、思い浮かべました」


「そしたらですね、そんなレオノーラ様に、食事会のお話をしてみてください!」


「んんー? そうですね……、

何だかさりげなくキツイ言葉の中に、『行ってあげるわ』的な返事をされました」


「さすがアイナさん! レオノーラ様のことを分かっていますね!」


「あはは、そうですね。

もう何回も会っていますし、キツイところはキツイですけど、私はもう慣れましたし」


見た目の可愛さと、案外とっつきやすいツンデレ感。

好意を持って接していれば、特に難しい性格ということも無いんだよね。


「……というわけで、そういうことで、お願いして良いですか?」


え? どういうこと……?


想像上のレオノーラさんからの返事は前述のところだけど――

……つまり、実際のレオノーラさんにもそう言われたってことかな……?


「エミリアさん、ちょっとまわりくどいですよ……!?」


「ふえぇ……。

いつも通り、強引に決められてしまったので……」


エミリアさんは少ししょんぼりしてしまったが、レオノーラさんだけが増える分には特に問題も無いだろう。

王族とはいえ同世代なら、テレーゼさんは気後れすることなくガンガンいきそうだし。


ダグラスさんはちょっと心配だけど、話に入りづらいようであれば、私がフォローすることにしよう。


「分かりました、特には問題ありませんので招待してください。

えぇっと――」


ふと、後ろに給仕で控えているメイドさんに目を移す。

今いるのはルーシーさんとキャスリーンさんの二人だけだから――


「……クラリスさんには、私から伝えておきますね」


「はい! それでは明日、改めてレオノーラ様にお知らせしてきます!」


「私はピエールさんと会う約束があるので、また別行動になりそうですね。

明後日はジェラードさんが来ますし、そこはご一緒しましょう」


「ぜひぜひ!」


それにしても、食事会にレオノーラさんが追加で参加するだなんて――

……改まってするお願いではない気もしたが、安心したエミリアさんは、食時の手をいつも通りの感じで進めていた。

私は見慣れているものの、やはり良い食べっぷりである。


「そういえばエミリアさん、食事の量はどうします?」


「はっ!?」


テレーゼさんはエミリアさんの食べっぷりを見たことがあるし、ダグラスさんも……苦笑いをするか絶賛するかで流してくれるだろう。


でも、レオノーラさんは怒りそうだよね。

元々は大聖堂の大司祭様あたりから、暴食をするなって言われているわけだし。


「……きっと、美味しいお料理が出てきますよね?」


エミリアさんは、ふるふると震えながら聞いてきた。


「そ、そうですね……。

クラリスさんが『腕によりを掛けて準備する』って言っていましたけど……」


「…………」


「す、少し取っておいてもらいましょうか……」


「……ありがとうございます……」


レオノーラさんが食事会に来ることになって、影響が一番出るのがまさかエミリアさんになろうとは。

これはエミリアさん自身も、きっと驚きの展開だっただろう……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




食事のあと、食堂に残ってクラリスさんとお話をする。

まずは食事会に1人増えることを伝えた。


「――というわけで、大聖堂の司祭様が1人増えるんだけど大丈夫?」


「はい、問題ありません。エミリアさんのお知り合いの方なんですね?」


「うん、昔からの知り合いみたい。

……あ、そうそう。王族の方だから、覚えておいてね」


「えっ!?」


クラリスさんは驚きの声を上げたが、次の瞬間には嬉しそうな表情に変わっていた。


「ど、どうしたの?」


「いえ! より一層、準備に力を入れなければと思いまして……!!」


ああ、そういう……。

確かに昨日の時点で、大商人のピエールさんや大司祭様を呼びたがっていたもんね。

やっぱり、凄い人や偉い人をもてなしたいという欲求はあるようで……。


「基本的にはお任せするからよろしく。

何か相談ごとがあれば、気軽に言ってくれて良いからね」


「はい、ありがとうございます!」


クラリスさんは自信を持って、胸を張りながらそう言った。


「それじゃ食事会のことはお願いするとして――

……今朝お話した、鍵のことって何か分かった?」


「いえ……。使用人の全員に聞いてみたのですが、特に情報はありませんでした」


「むむー、そっかぁ……」


私は特に探していないけど、お屋敷の中を熟知しているメイドさんと、周辺を熟知している警備メンバーが知らないのであれば、本当に何も無いのだろう。

お屋敷の外の話になってくるのであれば、ピエールさんの伝手を辿るしかないか。


「……ところで、ミュリエルさんの様子はどう?」


先日、思いがけず発覚したミュリエルさんの調理事件。

罰は工房の掃除だけにしておいたけど、あれから会っていないんだよね。


「はい、その節は寛大なご配慮をありがとうございました。

アイナ様とお話をしたあと、私からも少しばかりお話をさせて頂きまして――」


……あ、やっぱりしたんだ?

恐らくは、『お話』という名の『お説教』を……。


「――そのあとは通常業務に戻しました。

厨房での仕事も調理以外は行っていますが、調理器具を渋い表情で見ていたのが少し印象的でしたね」


「あぁー……。練習するならするで問題ないから、変なトラウマにならないと良いんだけど……。

……そうそう、ミュリエルさんってレアスキル持ちなんだけど、知ってた?」


「え? レアスキル、ですか……?」


そういえば以前、クラリスさんにその話をしようとしていたのに、今の今まですっかり忘れてしまっていた。

クラリスさんは知らないようだから、このまま話をしてしまおう。


「そうそう。こんなレアスキルを持っていたんだけど――」


そう言いながら、私は以前鑑定した結果のウィンドウを宙に出した。


──────────────────

レアスキル:

・工程ランダム補正<調理>:Lv37

──────────────────

【工程ランダム補正<調理>】

『調理』スキルを使用中、特殊な補正を得る。

レベルが高いほど、より大きな補正を得る。

──────────────────


「こ、これは……」


「ランダムに補正するっていうから、良くも悪くも補正しちゃうのかな、って。

ミュリエルさんのメシマズって、ここからきてるんじゃないかな……?」


「なるほど……。手順通りにやっても何故か不味くなるので、不思議には思っていたのですが……」


クラリスさんは少し難しい顔をしていた。

いくら教えたところで、こんな問題があるのであれば、今後どうしたら……といった感じだろうか。


「不味いは不味いで、一部に需要があるみたいだったけどね……」


『一部』というのは、警備メンバーのレオボルトさんのことだ。

今のところ、それ以外の需要は見つかっていないけど。


「プライベートならいざ知らず、仕事としては難しいので……。

しかし彼女からは、料理に対する愛情を感じることができますので、私も何かしら考えてみることにします」


クラリスさんは一呼吸置いてから、穏やかにそう言った。



……それにしてもミュリエルさん、上司には恵まれているよね。

私も元の世界で、こんな上司に恵まれてみたかったなぁ。


そんなことを思いながら、私はクラリスさんとの話を終えることにした。

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

47

コメント

2

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚