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また空振りか
霧人はふうっと細く息を吐いた。
この辻で9箇所目。
魔界への扉の気配は全くない。
あるのは四ツ辻の一角にある店の前で
ジロジロ遠慮なく眺め回してくる男と
その厨房の中から早くいなくなれと
全身で俺を拒否している女だけ。
露乃の匂いもしない。
「行くか」
陽も山の窪みに落ちようとしている。
ただ何かに引っかかっているかの様に
最後の閃光を夕空一面、
紫色に染めながら放っている。
まるで夕陽の断末魔だな
霧人は脇差をもう一度体に馴染ませると
一歩踏み出した。
四ツ辻の向こう、
少し上り坂になっている道の先は
暗い林が続いていてよく見えない。
この林を通らなければ次の村に行けない。
ただ進めば、確実に魔物と変わらないくらい
面倒な輩が潜んでいるのは間違いなかった。
それでも霧人はその林に向かって歩き始める。
雲は細く千切れ、
空と同じ様に紫色に染まりながら
霧人の行方を霞ませるかのように流れていく。