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烏野高校バレーボール部の部室では、2年生キャプテンの縁下力が卒業間近となり、部員たちが新キャプテンを選ぶ議論をしていた。
「次のキャプテンは誰にしようか?」
縁下の問いに、途端に部室内は緊張感で満たされた。皆が一斉に視線を合わせる。その視線が一人の人物に集中する。そう、山口忠だった。
「山口、お前ならできるんじゃないか?」
田中龍之介が明るい声で言った。その言葉に部員たちは頷き、同意の声が次々に上がる。しかし、山口は現実感のない表情で一歩後退した。
「僕、そんな…できる自信がないし…。」
山口の声は小さく、震えていた。このままでは責任が重く、プレッシャーに押し潰されそうだった。そこに、ひときわ冷静な声が部室内に響いた。
「お前ならできると思うよ、山口。」
月島蛍だった。その言葉には、冷静だが確固たる信念がある。山口は驚きながらもその目を見つめ返した。
「月、そんな…なんでそう思うの?」
「お前はいつも一生懸命だし、自分を向上させようとする。そういう姿勢は他の皆にも良い影響を与えると思う。」
月島の視線は真っ直ぐで、山口の心に深く刺さる。山口はその言葉に背中を押される感覚を覚えたが、それでも心を締め付ける不安は消えなかった。
「でも、僕がもっと上手くリーダーシップを取れるかどうか…。」
「山口、それは一人ではなく、皆で助け合いながらやるんだよ。」縁下が優しく付け加えた。「だから心配するな。俺たちはお前を信じてる。」
その瞬間、部員たちの目が一斉に山口に向けられ、その温かい視線に包まれた。山口は深く息を吸い込み、意を決して返答する。
「…やってみます。皆の力を借りて、頑張ります。」
部員たちは拍手を送り、そして新キャプテンが誕生した瞬間を祝った。月島もまた、静かな笑みを浮かべた。
その夜、山口と月島は練習後に一緒に家路に着いていた。街灯の明かりが二人を照らし、静かな夜道を歩きながら山口は言った。
「月、ありがとな。本当にお前がいなかったら、絶対に無理だった。」
「別に大したことじゃない。ただ、お前ならできるって信じてただけさ。」
月島は冷静な口調で答えたが、その眼差しには友への信頼が溢れていた。
「でも、なんでそんなに僕のこと信じられるの?僕は不安で仕方ない。」
山口は困惑したまま問いかける。その心にはまだ、自信が揺らいでいた。月島は一瞬の沈黙の後、軽く溜息をついた。
「山口、お前はいつも周りを見ながら動いてる。それが自然にできるってことは、リーダーとして重要なことだ。俺はそのお前の姿を見てるから、信じてるんだよ。」
月島の言葉は、ただの慰めではなく、山口がこれまで積み重ねてきた努力の証として響いた。山口は月島の言葉を反芻しながら、少しずつ心が軽くなるのを感じた。
「…ありがとう、月。僕、頑張るよ。」
その誓いが心の奥底から湧き上がり、彼の目に力が宿った。
次の日から、新キャプテンの山口のもと、烏野高校バレーボール部は再び一丸となって練習に励む日々が始まった。山口は忙しい日常の中で少しずつキャプテンとしての役割に慣れていく。