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「郁がおかしくなってからすぐかな、存在しない出来事を実際にあったかのように話すようになったの。
特に、精神が不安定なときにそれが起こるようになってね
郁が不安定になるたびに何が本当に起きたことなのか、わからなくなっちゃって…
それを怖がった郁は、実際にあったことを自分の覚えているうちに日記をつけるようになったの 。
郁が不安定な時は書いてないから、あの日記は日付が飛ばし飛ばしでね。
でもね、不思議なことに、君たちが付き合った記念日、君の誕生日、郁の誕生日だけは、毎年ちゃんと日記がつけてあったんだよ。
これが、郁が日記をつけていた理由。 」
郁がそんな環境にいたなんて知らなかった。
あんなに近くにいたはずなのに、何も知らなかった。
郁を守れなかった。
『郁は、俺のこと、恨んでないのかな…』
助けてくれなかった俺のこと。
「どうだろうね。今となっては誰もわからないよ、郁の本当の気持ちなんて。
でも、伝えたいことがあるから、郁の日記が君の前に現れたんじゃない?」
郁が俺に、伝えたいこと。
彼女と別れ、病室に戻る。
日記をめくると、郁が亡くなったあの日の。日付があった。
『10月4日
優とは今日でお別れ。
今まで沢山わがまま言ったし、迷惑もかけてきた。
そんな優をもう解放してあげなきゃいけない。
こんな自分とももうお別れ。
私はもう十分頑張った。
こんな世界とも、早くお別れしよう。
今までありがとう、優。
幸せになってね。』
郁の日記はこれで終わり。
ふと、最後のページをめくると、小さな文字で何かが書いてあるのが見えた。
『しにたくない。
きえたくない。
これからもずっと優といっしょにいたい。
でももう迷惑かけたくない、
愛されたい、
誰か私をあいしてよ…
ここまで頑張ってきた私を褒めてよ…
よく頑張ったねって、
僕がいるよ、私がいるよって言って、
普通に生きたかった
幸せになりたかった
私が何をしたっていうの?
ただ普通に生きていただけだったのに… 』
きっとこれが郁の本音なんだと思う。
幸せになってって言葉に嘘はないのだろう。
けど、できることなら自分が隣りに居たかった。
それも嘘ではない。
郁の本音を初めて聞いた気がした。
いつも優しく明るい彼女の本音。
ここまで追い込まれていたのか。
それに気付なかった自分に嫌悪感を抱いた。
『ごめん、郁…気付けなくてごめんね…』
ふと、誰かに抱きしめられている感じがした。
「優…私のことはもう忘れて、幸せになって。私はもうこの世にいない。優と一緒になることはできないから、
私の分まで幸せに生きて。バイバイ、優」
聞き慣れた郁の優しい声がした。
もう、自分のことは忘れて前に進め。そう言われている気がした。
『今までありがとう、郁。
もう大丈夫。時間はかかるかもしれないけど、ゆっくり前に進むから。
だから郁もゆっくり休んで。
愛してるよ。誰よりも』
どこかで彼女が微笑んだ気がした。
次の日、郁の日記は跡形もなく消え去っていた。
屋上にいた郁の幼馴染も、行方しれずになってしまった。
彼女と、郁のおかげで俺は少しずつ前を向けた。
郁の分も、たくさんの思い出を作って、長生きしてやろうと。
いつか、郁にもう一度あった時に、たくさんのものをあげられるように。
郁にもらったたくさんのものを、倍にして返せるように、
精一杯生きよう。
愛してるよ、郁。
さようなら。
またいつか会うその日まで