社長室を出て、部長は自分の業務に戻り、花鈴は透也に仕事場を案内する。「ここが麻藤君のオフィス。私の隣の席だから、覚えておいて」
透也はまるで初めての物を見る赤ちゃんのような目で、オフィスの机を触った。
「すごい……!」
「麻藤君は、人事対応の仕事に当たってる」
そう教えると、透也は首を傾げた。
無理もない。まだ入社したばかりでいきなり人事対応とか言われてもわかるはずがないのだから。
「人事対応っていうのは、いわゆる人材育成をする事。麻藤君は人柄が良くて優しいイメージがあるからそこに配属したって部長が言ってた」
「そうなんですね」
暫く無言で歩いてから、透也が再び言った。
「そういえば、先輩はどの部署にいるのですか?」
「私は作成編集部署。パンフレットとか企画書を作成するの」
「いわばデザインってやつですね!」
「そうそう」
楽し気に話しながら歩いてたら、あっという間に部署に戻って来た。
「とりあえず一通り見回ったかな。早く来て、仕事始めるよ」
「はい、先輩!」
透也と花鈴はそれぞれの席に着き、業務を始める。
その時、花鈴の席に瀬夏が来た。
「花鈴っ。新人案内お疲れ様」
「瀬夏!?いつからいたの?」
「えー、さっきからずっとだよ」
花鈴の隣では、それを見てクスクス笑う透也。
「麻藤君、何笑ってるの……」
「だっ、だって…先輩が面白すぎて……」
花鈴は真っ赤になった顔を耳ごと隠すように、机に伏せる。
「もういいよ、仕事しなきゃ」
花鈴は我に返り、作業を再開した。
瀬夏も企画書を持ってきて、花鈴に見せる。
「今度の企画書、こんなのでいいかな?」
瀬夏が持ってきたのは、今度新製品として出す予定の置き物をデザインしたものだった。
「……いいんじゃない?可愛いじゃん」
「じゃあイメージはこれで行くね!」
そう言って瀬夏は満足げな笑みを浮かべて自席に戻っていった。でも、花鈴は気づいていなかった。「可愛い」という言葉に、透也が敏感に反応していたことに。
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