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煌との電話を切った後、先生に言い逃げをするように早退してきた。
後で叱られる娘もしれないが、それでも行かなきゃいけない。
もし行かなかったら私は一生後悔することになる。
少しでも早く着きたくて、自分に出せる一番の速度で走った。
〜公園〜
「っはぁ、はぁ、はぁ。」
公園について辺りを見ると、ベンチに煌が座っていた。
いつもの背中。
「っ、煌!」
その声に反応して煌がこちらを向く。
「ーえ?ひろ…と?」
振り向いた煌の顔は大翔にそっくりだった。
『希美。…いや、姉ちゃん。』
そう言って立ち上がった煌の顔、身長、雰囲気。
どれをとっても大翔にそっくり。というか、大翔そのものだった。
「ひろと?本当に?」
『大翔だよ。正真正銘、秋月希美の弟。』
そういって少しおどけるように笑う大翔は、確かにそこに生きていた。
「大翔。大翔っ。」
何度も、何度も噛みしめるように名前を呼ぶ。
そして、大翔の体を抱きしめようとした。
ーが、その手が大翔に触れることはできなかった。
「ーえ。」
そして、大翔をすり抜けた腕を見て驚く私を大翔は悲しそうに見つめる。
『…ごめん、姉ちゃん。全部話すよ。』
そう言って大翔は私にベンチに座るよう促した。
気になることはたくさんある。煌のこととか。
でも、その前に確認したいことが一つ。
「…ねぇ。大翔はさ、もういない..の?」
『…うん。そうだよ。もう、この世にはいない。』
「ならどうして今ここにいるの?」
『最初から話すよ。まず、ごめん。お姉ちゃんのこと一人にしちゃって。勝手にいなくなって本当に
ごめんなさい。自分がいなくなれば父さんのしていることを公にできると思った。そうすれば、
お姉ちゃんが苦しむこともなくなると思った。』
大翔の思いを聞いてまた目頭が熱くなる。
苦しかった。辛かった。助けてくれって何度も思った。
いつになったら救われるんだろうって。
『ごめん。本当にごめん。』
「いいよ、もう。でも、大翔には生きててほしかったな。」
一筋の涙が私の頬を伝う。それでも、なるべく大翔が責任を感じないように笑ってみせる。
「それで、大翔は今どうしてここに?」
『…ありがとう、姉ちゃん。飛び降りた後、目を覚ましたんだ。そこは”天国”だった。』
「天国…。」
『そこでさ、母さんに会ったんだ。僕、母さんに会えたことを喜んじゃったんだ。
そしたら母さんにめっちゃ怒られた。〚どうして希美を一人にしたの?〛って。』
「…そっか。母さんはずっと見てくれてたんだね。」
『うん。母さんに怒られた後、姉ちゃんがどうしてるのか知った。まさか父さんが事故を起こす
なんて思わなかった。姉ちゃんの姿を見てすごく後悔した。僕は何やってるんだろうって。
でも、一度してしまったことはもう、もとには戻せない。でも、ただ見てるだけなのが悔しくて、
姉ちゃんを助けたいって強く願った。』
きっと、父さんの事故がなければ私が辛い思いをすることも、大翔が悔しい思いをすることも
なかったんだろうなって思う。
でも、私はいつでも一人じゃなかった。天国にはお母さんも大翔もいた。
その事実がいまはたまらなく嬉しい。
大翔が話を続ける。
『願ったら視界が白くなって、頭に声が響いたんだ。〘次は後悔しないようにな。〙って。
次の瞬間には、学校の前にいた。そこから僕は、姉ちゃんのすぐ側で守れるように、
同級生の”煌”として過ごすことにした。』
知らなかったとはいえ、大翔に対して冷たく接してしまったことに罪悪感を感じる。
「そうだったんだ。あのときはごめん、冷たくして。」
『いいんだよ別に。結果的にお姉ちゃんがこうして今も生きててくれてるんだから。』
「そう…だね。」
飛び降りようとしたあの日、大翔はどんな思いだったのだろうか。
多分怖かったよね。姉が目の前で死のうとしてるんだから。
私は大翔の手を取ってあげられなかったのに、大翔はしっかりと私の手を離さないでいてくれた。
『今日呼んだのはね、もう時間がないからなんだ。』
「それってどういうこと?」
『ここに来るときに頭に声が響いたって言ったじゃん。その時に〘少しだけ時間をやるから〙って
言われたんだよね。その時間がもう近づいてるんだ。姉ちゃんも、もう僕にさわれないでしょ?』
大翔が差し出す手に触れようとするとどうしてもすり抜けてしまう。それに、
よく見ると少し透けてきているような…。
嫌だ。煌が、大翔がいなくなるなんて考えられない。そう思うとまた涙が溢れてくる。
『最後にお姉ちゃんに伝えたいことがあるんだ。』
そう言って、額を合わせるようにしてくる。
実際に触れられているわけではないのに、暖かみを感じる
『姉ちゃんはさ一人じゃないよ。って姉ちゃんを一人にした僕が言えることじゃないけど、
それでも伝えるよ。姉ちゃんが僕を忘れない限り僕は姉ちゃんの心のなかで生き続けるよ。
姉ちゃんに幸せになってほしい。姉ちゃんを苦しめる全てから守ってあげたい。いつでも
そう思ってる。もう、ひとりで苦しまなくていいんだよ。』
私は泣きながらその言葉を聞いていた。すると、大翔の体が光りながら薄くなっていく。
「っひろと!消えちゃう!」
そして、同じように涙を流しながら言う大翔は、笑いかけてきて言った。
『もう泣かないで?最期は姉ちゃんが笑ってる顔が見たいな。』
私は煌の、大翔のおかげで笑えるようになった。ひとりじゃなくなった。
大翔にはたくさんのものをもらった。
これが大翔にできる最後の恩返しだ。
今の自分にできる精一杯の笑顔とありがとうを大翔と、天国にいるお母さんに向けて。
『やっぱり、姉ちゃんには笑顔がよく似合うよ。』
『ごめんね。それと、ありがとう。』
そう言って大翔は光になって消えていった。
その瞬間、私の胸の中を火の明かりが暖かく照らす。
大翔の言ったとおりだ。私はもう一人じゃない。
この先、辛いこともあると思う。でも、きっと大丈夫。
大翔がくれた火が、この先ずっと暖かく私の心を照らしてくれる。
はい!ということで、完結でございます!
といっても、思ったようにできなかった…。
大翔が喋ってる時間が長過ぎたな。
でも、とりあえず完結できたことが嬉しいです!
PC勢なので、改行とかおかしいところとかあったかもしれません。
呼んでくださった方々、ハートをくださった方々、
ありがとうございました!