テラーノベル
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レンは、夜という巨大な思考の淵に立っていた。
頭上に広がるのは、無数の光点が穿(うが)たれた漆黒の天蓋だ。星々が放つ光は、すでに死に絶えた過去の残像に過ぎない。存在しないものの光を浴びながら、レンは「自分」という現象の不確かさを噛みしめていた。
人は、欠落を埋めるために生きる。
愛が足りなければ他者を求め、意味が足りなければ言葉を紡ぐ。レンもまた、自分の中にある空洞を何らかの正解で満たそうと、あるいは誰かの承認という色彩で塗りつぶそうと躍起になってきた。だが、どれだけ外側から飾り立てても、内側の虚無は増していくばかりだった。
「……私は、私を愛さねばならないのか」
哲学的な命題が、冷たい大気の中で形を成す。
「自己愛」という言葉は、救済の響きを持ちながら、同時に呪縛のようでもある。完璧でない自分を、損なわれた自分を、それでも肯定せよという強制。それは、光を失った星に、無理に輝けと命じるのに等しいのではないか。
レンは視線を星空の「余白」へと移した。
星と星のあいだに広がる、圧倒的な無。光よりもはるかに広大で、すべてを飲み込む深淵。
ふと、気づく。
星が美しいのは、その光が強いからではない。周囲にある無限の闇が、その微かな震えを許容しているからだ。闇は光を拒絶せず、ただそこに在ることを認めている。
ならば、自分の中の虚無もまた、器の一部ではないか。
欠けていること、損なわれていること、正解に辿り着けないこと。その「空白」こそが、自分という存在を形作るための本質的な余白だったのだ。
レンは、自分の胸元に手を置いた。
掌(てのひら)に伝わる不器用な鼓動は、論理でも倫理でもなく、ただ「在る」という事実だけを繰り返している。それは、意味を持たないがゆえに、何よりも純粋な肯定だった。
愛する必要すらない。ただ、この不完全な重みを、この夜の一部として受け入れるだけでいい。
天の川の最果てで、一つの光が爆ぜた。
それは消滅かもしれないし、誕生かもしれない。どちらにせよ、夜の静寂はそれを等しく抱きしめていた。 レンは初めて、自分という暗闇の中で、静かな安らぎを見出した。
コメント
1件
久しぶりにこれ出しました