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月城 蓮桜音
4,944
ふわもちお餅
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(これから、どうなるんだろ)
診療所を出ると、昨日とは違って夜空には雲一つなかった。寒さで冴えた空に星が瞬いている。
(あの二人を施設まで案内して、それから―)
シスター・エリィの素性を知っても、カノンはそれ程意外とは感じなかった。
違和感はあった。最初から。
立派な礼拝堂があった。しかし子供たちはお祈りを強要されることはない。
像なども祀られていなかった。
あったのは、壁一面の、光のような7枚の翼を持つ天使の壁画だけ。
世話してくれる大人たちは皆事務的で、親しみがわく感じではなかった。
帰れなくなったとしても未練は余り感じない。しかし。
(あそこが無くなったら、どこに行くんだろ。また違う施設?それとも)
カノンを引き取りたいと申し出てきた、あの妙齢の女性を思い出す。やたらとねっとりした触り方でカノンの手を握り、髪を撫で回し、『髪はもっと短くした方がいいわぁ。その方が美少年に見えるでしょ。うふふふ』と笑っていた。本能が、ある種の危険を感じ取っていた。
身震いして、顔をあげる。
「あれ」
気付いたら、診療所の敷地内などとっくに抜けてしまっていた。アトリの住処の近くまで来ているのかも知れない。飲食店と思われる広い窓から、この時間でも賑わう明かりと人影が見えていた。
(やば。戻らないと)
もと来た路を戻ろうと、くるりと踵を返すと、すぐ後ろにいた誰かにぶつかりそうになった。
「すみませ……あ」
それが誰なのか気付いて、カノンは総毛立った。
「やっとみつけた」
今夜の、凍りそうな夜空の星よりも冷たい瞳の色。
「抜け出すなんて、いけない子ね、カノン」
声も、優しい声を装おうとしているのに心がこもっていない空っぽの声だ。
「シスターエリィ……」
「せっかく貴女の家族になりたい方が現れて、もうすぐ迎えにくるっていうのに」
後退りするが、すぐ何かにぶつかる。
いつの間にか、いつもシスターと一緒にいる屈強そうな二人の男がカノンの背後を抑えていた。
「どうして逃げようとするの」
すっ、と首筋に手が伸びてきて、チクッと痛みが走った。あっという間に身体が痺れて、指先や足に力が入らなくなっていく。
「難しいことなんて考えないほうがいいわ。何のちからも持っていない貴女は、飼い猫として主人に侍って暮らしていく方が楽でしょう?」
「い、いやだ」
その場にへたり込んだが、精一杯の拒絶を込めて、ギッ、とシスター・エリィを睨む。
同時に、擦り傷を治癒させる時のイメージを、全身に行き渡らせた。…指先の感覚が、徐々に戻ってくる。
「あら、まだ抵抗できるの。なら……」
多少興味が沸いてきたように、再び彼女はカノンに手を伸ばした。
その時、シスター達とカノンの間に、眩しい閃光が走った。閃光は連なって、カノンと他の三人を隔てる障壁となった。
「お久し振りです、ドクターリラ」
目を疑った。この場に割って入って来たのが信じられないほど、線の細い人物――アトリがそこにいた。
「あ、今はシスターエリィでしたっけ?」
明らかに、自分より体重が倍もありそうな男達と対峙しているというのに、緊張感のない話し方で、ゆったりと近付いて来る。
「な……誰?」
逆に取り乱しているのは、シスター達だ。
「嫌だなぁ、忘れちゃったんですか?…まあ、あの頃は美少年だった俺も、だいぶ歳をとりましたもんね。えーと」
アトリが片手を振り上げると、 背中から翼のような形に光が拡がる。
カノンは目を見張った。それは正に、礼拝堂の壁画に描かれていた天使そのものだったから。
「これで思い出して貰えましたか?」
「……私の鳥」
シスター・エリィは翼に触れようとして、手を差しのべた。光の障壁に阻まれて届かず、項垂れて跪いた。次に顔を上げた時、その瞳は狂喜に満ちていた。
「私は、もっとこれを造り出したくて研究を続けてきたの。でも、誰一人上手くいかない。……なぜなの」
頭を掻いて、興味無さそうにアトリは答える。
「知りませんよ、そんなこと」
アトリが首を横に振ると、光が障壁から檻のような形に変化し、やがてシスター達三人の頭上で閉じて弾けた。 三人はその場に倒れ込んだ。気絶しているようだ。
ふうっ、と息を吐くと、翼も消えて無くなった。
「カノン」
唖然としていたカノンだが、急に名を呼ばれてアトリを見た。
「なに?」
カノンを男と間違えたのを謝った時と大差ない、済まなそうな表情で、手を合わせてお願いしてくる。
「俺、こんな見た目が派手な技ばっかりで、カノンみたいに人を持ち運ぶとか出来ないんだ。ちょっと手伝って」
これをマコトの診療所まで移動させたいらしい。
「え、邪魔じゃない?警察とか呼んだ方が…」
手配書が出回っている犯罪者だ。早く捕まえて貰った方がいいのでは。
カノンはそう思ったが、アトリは自信満々に大丈夫、と頷いた。
「事後処理係はマコト、って、10年前から決まってるんだ」
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第6話、読み終わりました。 アトリの“天使の翼”、めちゃくちゃかっこよかったです…! あの壁画と繋がる展開が熱くて、一気に引き込まれました。でも最後の「俺、持ち運びできないんだ」って言うところ、シリアスな空気を一瞬で和らげてくれて思わずにやけました。カノンがちゃんと拒絶して抵抗したのも良かった。続き、気になります。