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エルリット15歳です。
いま空を飛んでおります。
風で髪が大変なことになるので、後ろで結いました。
短く切ろうとしたら、似合わないことはやめろと師匠に怒られたので仕方ありません。
ちなみに、飛行魔法を使える魔法使いなんて、そうそういないそうです。
まぁ借り物の力というか、人工精霊さまさまなんですけどね。
◇ ◇ ◇ ◇
「こんなの体に入れたら、絶対痛いと思うんですよ」
「別に痛くないわよ、こいつがあんたを認めなかったら、死ぬほど痛いかもしれないけど」
だ、だとしたら、仲間の1体を倒した僕なんて、絶対認めてくれないのでは?
「ま、分体とはいえ1体倒したんだ、こいつも認めるでしょ」
「分体だったんだ……」
仲間じゃなくて、ただの分体だったらしい。
「ていうか人工精霊って、認めるとか認めないとか、まるで自我があるみたいですね」
「自我はないけどねぇ、意志はあるよ。ほら、背中出しな」
怖いけどきっと拒否権はないのだろう。
渋々と服を脱いで背中を出す。
「……軟弱そうな背中だねぇ」
失礼なことを言いながら、師匠が僕の背中に魔法陣を描いていく。
なにかの儀式みたいで不安だ。
「体に埋め込むことで、人工精霊を介して飛行魔法を扱えるようになるわけ」
「へー……」
「通常の精霊なら契約とかになるんだけどね、こいつは人工精霊だから、体に寄生させるのよ」
寄生とか怖いワードが出てきた。
「ま、精霊との契約なんて滅多にできるもんじゃないからねぇ」
「寄生って……血でも吸われるんですか?」
「そんなヒルじゃあるまいし、普段はあんたの魔力が満タンのときに、器から溢れた分をちまちま食うだけだから」
それはなんかちょっとかわいい。
「当然飛行魔法を使えば、その分あんたは魔力を消費するけど、精霊の飛行魔法は魔力消費が極端に少ないからね」
「省エネってことですか」
「まぁあんたでもそこそこ使えるはずだよ」
◇ ◇ ◇ ◇
それからは、空を飛ぶのが楽しくて仕方がなかった。
空中で魔力切れになって死にかけたぐらいだ。
最初は自分の魔力と違う存在が、体の中にいるような感じで違和感があったけど、時が経つにつれそれもなくなった。
(まさに一心同体、相棒だね)
「何をボーっとしてんのさ、ケツに火ぃつけちまうよ!」
背後から、大量の炎の矢が飛んでくる。
それを回避しながら師匠に抗議をする。
「ちょっと師匠、僕とアーちゃんの空の散歩を邪魔しないでくださいよ」
アーちゃんとは人工精霊の名前だ。
artificial(人工的)からアーティと名付けて、アーちゃんと呼んでいる。
「人工精霊に名前つけるとかドン引きだわ」
ひどくない?
そりゃ姿は見えないし会話もできないけど、確かに僕の中にはアーちゃんがいるんだ。
……おかげで最近独り言が増えたけど。
「今日こそ落とさせてもらうっす!」
師匠に向かって、マナバレットで牽制しつつ、レイバレット撃ちこむ。
「はんっ! 指先見てりゃ狙いがバレバレなんだよ!」
すべて回避される。
そうなんだよね、直線的な攻撃しかできない、という弱点があるんだよね。
師匠はこっちの使える魔法、全部把握してるし……。
――――だからッ!
僕はとにかく牽制しながら高度をあげていく。
そして……
「くっ、太陽越しに……でも甘いね!」
上空に向かって師匠が放つ竜巻は、太陽越しに見える小さな影を吹き飛ばした。
「デコイっすよ師匠」
師匠の背後から、指先を向ける……チェックメイトだ。
「なかなか様になったじゃない」
「じゃあ、今日こそは僕の勝ちってことですかね」
「そうねぇ、これならまぁ合格かしら。でも私に勝つにはまだまだね」
「なにを……んん?」
指先にまったく魔力が集まらない。
何かに妨害されてるような感覚……。
「他人の魔力に介入するぐらい、私なら朝飯前なのよねぇ」
「えぇ……、それじゃあ魔法使ってる時点で、僕は絶対勝てないじゃないですかぁ……」
「そういうこと」
こちらを振り返った師匠にデコピンされる。
今まで師匠から受けた一撃で一番優しく、そして一番格の違いを感じさせるトドメだった。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日、早朝から魔力を体に循環させながら考えていた。
魔力への妨害をされないようにするには、どうすればいいんだろう。
「魔力に介入させないようにする……?」
口で言うのは簡単だけどね……。。
というか、仮にそれができたとして、そもそも僕の魔法が師匠に通用するのかどうか。
(なんかこっちの魔法を受けても、師匠なら平気そうな気がしちゃうよなぁ)
「何を朝から難しい顔してんのさ」
「いやぁ師匠対策を考えて――って師匠!?」
師匠はいつも昼前までは起きない。
こんな早朝に起きてることなんてありえないのだ。
「こんな朝早くに師匠が……?」
「ま、たまにはね……いつまでも弟子に起こされるわけにはいかないでしょ」
「別にそれぐらい……って弟子? 弟子って言いました? 昨日も結局負けたのになんで……」
「合格って昨日言ったでしょ? そもそも、私に勝つなら、せめて魔王の一人ぐらい倒せるようになってからじゃないとね」
なんて絶望的な前提条件だろう。
……そもそも魔王なんているの?
「大分前から弟子としては認めちゃいたんだけどねぇ、まぁ正式に弟子を名乗ることを許してあげるわ」
「そうだったんだ……」
「といっても、もう教えることはないのだけどね」
「いやいや、そんなことはないでしょう」
「ていうかあんた魔法覚え悪すぎ、使ってる魔法も特殊すぎて、これ以上教えようがないのよ」
ひどい言われようだ。
たしかに魔法陣やら術式やら覚えるのは苦手だけど。
「あとは自分で上を目指しな、冒険者になるんだろ?」
「冒険者……そっか、冒険者になるんだった」
べ、別に忘れてたわけじゃないやい。
「あんたまさか忘れ……まぁいいわ、これからいろんな世界を見て、経験してきな。もっと強くなったら、また相手してあげるわ」
もっと強く……うん、師匠に勝てるビジョンは浮かばないね。
◇ ◇ ◇ ◇
「師匠……これ本当に大丈夫なんですか?」
いま僕は直径5メートルほどの魔法陣の上にいる。
「私の転移魔法陣が信用できないのかい?」
「そうじゃないですけど、別に転移魔法で飛ぶ必要性もない気が……」
この魔法陣は一方通行なので、帰るのには使えない。
雑貨屋の外で師匠に出会った5年前、来るとき見かけなかったのはそういうことだったのだ。
「こんなクソ田舎の辺境で冒険者になってもしょうがないでしょ」
「それはまぁ……たしかに」
「場所は王都近くの街道あたりに設定して……そうだ、これを渡しとくわ」
師匠に小さめのウェストポーチを渡される。
「私のマジックバッグほどじゃないけど、馬車1台分ぐらいは入るから」
「えっ? いいんですか?」
あれ? でもこれ超がつくほど高いんだよね?
……こっそり使わないと……。
「時間遅延も組み込んであるし、冒険者として必要なものは多少入れてあるから、あとは自分でがんばるんだね」
「何から何まで、ありがとうございます」
「次会ったとき落ちぶれてたら、ただじゃ済まさないよ」
「はい!」
魔法陣の光が強くなるにつれ、目頭が熱くなってくる。
たったの5年間だったけど、僕にとって師であり、親のようだった。
さよならは言わない、だってまたいつかリベンジするからね。
そして周囲の光は強くなり、視界が真っ白に――――
「あっ、ここの術式間違ってたかも……」
聞き捨てならない師匠の声が、微かに聞こえたような気がした。
◇ ◇ ◇ ◇
・キャラクター紹介・
エルリット15歳♂
-使用魔法-
●Mana Bullet -マナバレット-
指先から放つハンドガン程度の威力の魔力弾。
詠唱不要
●Ray Bullet -レイバレット-
指先から放つ魔力弾を電撃で熱線に昇華させたもの。
ビームライフルっぽい何か。
詠唱不要
●Stun Taser -スタンテーザー-
指先から放つ飛ぶスタンガン。
詠唱不要
●Lightning -ライトニング-
体に電撃を纏う魔法。
魔法名のみ要詠唱
●Lightning Arrow -ライトニングアロー-
電撃の矢を1~5本飛ばす。
要短縮詠唱
●身体強化・飛行魔法
詠唱不要