TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「オメー、大丈夫なんか? からだの方は」

「あら、心配してくれるんですか?」

女性の働きは見事なものだった。

この狭い屋内で長槍を器用に取りまわし、並みいる黒服を次々と撥(は)ね飛ばしては、石突(いしづき)を走らせて打撃を加える。

時にはこれを元の短寸に変じ、敵の渦中を俊敏に駆け回って翻弄(ほんろう)した。

「恐らく、あなたの方が重傷なのでは? 私はかるい凍傷程度で」

「ざけんな! こんなもん!」

負けじと虎石も闘争心を剥き出しにして、一群に対する直情的な突撃を繰り返した。

敵の内懐(うちぶところ)に密着する心持ちで、決して窮地の間合いに身を置かないよう意識する。

「トラー! カヤさん起きないよーぅ!」

階段の上部から及ぶ情けない口振りが示す通り、いまだ霊威が発信される気配はなく。 愛用の得物は、一貫して沈黙に徹していた。

たしかに分(ぶ)は悪いが、一騎当千の加勢もあって、当面の雲行きに怪しいところは見当たらない。

「野郎っ!!」

向こう見ずな大振りが徒(あだ)となったか、梁(はり)に食い込んだ己の得物に難儀する敵の不如意に乗じ、お決まりの猛タックルを敢行する。

これを側壁まで一気に押しやり、胸部を力の限り圧迫して失神させる。

──あの得物パクれりゃ、もうちょい楽なんだろうが

試したことは無いが、恐らく拒否られる。

御遣と巫覡にはそれぞれ特定の周波数があって、波長の異なる赤の他人には決して儘(まま)ならないものだと、そんな風に聞いた覚えがある。

「ぬ……っ!?」

危うく頬をかすめた切先が、キラリと閃くのを待たず、堅固な厚底を使って手厳しい蹴りをくれてやる。

後方に打ち出された男性の身柄は、窓を割ってそのまま、ちょうど上半身を屋外に垂らす格好で沈黙した。

考えても仕様がない。 あのバカが起きる前に片ぁつけてやる。

そんな風に息巻いた矢先のことだった。

「ばっきゃらぁぁ!! てめぇら何やってんだぃ!?」

後続の黒服がぞろぞろと屯(たむろ)する戸外から、烈火のような大音声(だいおんじょう)が響き渡った。

見れば、何やら泡を食った様子の徒党が、揃いも揃って這々(ほうほう)の体(てい)をなしている。

「逃げんなボケコラ!!」

これを奇特にも追いかけまわす人物の体貌を認めた虎石は、背筋に電流が走るのを感じた。

袖のない白衣に、左右で丈の異なる緋袴をつけ、背中には小型の鎖鋸(くさりのこ)を負っている。

こちらの品には、数多の飾り紐が蛸足のように配されており、物品そのものの悍(おぞ)い見た目に反して、儀仗用かと見紛うばかりに華やかで厳(おごそ)かな印象を受けた。

「お知り合い?」

長槍で敵の鳩尾(みぞおち)を抑えつつ女性が問うも、返答はない。

“おや?”と思い顔をのぞき込むと、柄(がら)にもなく脂汗を浮かべた彼は、まるで化け物を見るような眼で、店先を注視していた。

「よぉトラやん! 久方ぶりぃ!」

「ボス………」

間もなく、片手に捕らえた一名の身柄を引きずるようにして、先方がずかずかと踏み込んできた。

健康的な肌の色に、身体の起伏を無闇にひけらかす装い。

目元はどことなく野性的で、口元は思ったことを直(ただ)ちに表しそうな、無神経とは似て非なる活きの良さが窺える。

見るからに、気風(きっぷ)のよい女丈夫(じょじょうふ)だ。

彼女を認めた途端、黒服の徒党もまた、虎石と同じような反応を示した。

当面のバカ騒ぎをただちに取り止め、いずれもカカシのように直立不動を徹底し、石像かと見紛うばかりに満面を強(こわ)ばらせたのである。

痛手を負った者ですら、その身を押してこれに倣うさまは、よく統制のとれた案配というよりも、どちらかと言えば不気味な印象が先んずる。

今しがた彼が唱えた“ボス”という語義に、その辺りの退(の)っ引きならない事情が込められているようだ。

そのように解したユキは、穂先を真上に休めて、ひとまず静観を決め込んだ。


黒服の一団を片っ端から小突いてまわった女性は、虎石の番が巡ってきたところで、握り固めた拳を解き、手のひらをポンと肩に置いた。

「大変だったみたいな? お前さんも」

「いえ……、すんません」

身長差があるため、なかば背伸びをする格好であるが、無様な具合を感じさせないのは、ひとえに彼女の余裕に満ちた物腰のせいか。

あるいは単に、虎石が身を縮こめているせいかも知れない。

「そちらさんは、お仲間? コイツが世話になってる感じかね?」

「いえ、妻ですが?」

「は?」

「オメー、マジか……」

場を少しでも和(なご)ませようと計らったのかは知れない。

きょとんした表情で唱えるユキに対し、女性は目を丸く、虎石はたちまち顔面を蒼白にした。

「トラー! やっぱり起きないよぉ!?」

そこへ、階上から顔をのぞかせたリースが、もう何度目かになる泣き言をよこした。

これは余計に話が拗(こじ)れそうだ。

そう予感したところで、すでに遅い。

「ワァオ! 巫女さんだぁ!?」

ラウンジの状況を見て取った彼女は、いそいそと階段を利用した。

しかし、その手はいまだピストルを握ったまま、表情こそ平生の無害なものに立ち戻っていたが、警戒を緩めるつもりは無いようで、目線を決して一ヶ所に止(とど)めようとはしない。

その模様に、生き方の妙というか、世渡りの工夫を見る思いがして、虎石はかすかに居たたまれないものを覚えた。

「賑(にぎ)やかじゃん。 いい仲間持ったね?」

「ボス……、セリさん」

ともかく、今はあまりそちらに気を向けている余裕はない。

表情を正し、女性の瞳をまっすぐに見る。

相変わらず、あまり直視を続けると、目の奥に火傷を負う錯覚に見舞われそうな眼光だ。

これに囚われず、要点のみを早急に問う。

「あんたなんすか? 俺をアイツに嗾(けしか)けたのは」

「あ? んん? その口振りだとお前さん」

わずかに眉を顰(ひそ)めた彼女は、すぐに得心した様子で、深々と息をついた。

無駄足を踏んだと知って落胆したか、よく日に焼けた顔色が、少なからず曇って見える。

何やら齟齬を覚えたのは、こちらも同様だった。

目線を逸らさず聞き直す。

「こいつら動かしたの、あんたじゃない?」

「はぁ? んなもん当たり前でしょうよ! 私ぁここにあんたが居るってんで」

声を荒らげて反論する途中、ふと周りの眼を気にした様子の先方は、コンコンとわざとらしい咳払いを加えた。

もっと率直な性格かと思いきや、やはり中間管理職としての体面には、それなりに気をつかっているらしい。

「じゃあ、こいつらも」

「あぁ、たぶんね?」

冷や汗を浮かべ直立する面々を、一巡して打ち眺める。

連中もまた、獅子身中の虫とやらに踊らされた口か。

「ほんじゃあ絞り上げても何も出ねえか、クソッタレ」

思い余った様子で、片手に捕らえた一名の頭に平手をくれた女性は、眉根を歪めて暫(しば)し考え込む所作をした。

「あ、それ知ってます。パワハラ」

「オメーは黙ってろ」

居心地に関しては、最低を通り越して、いよいよ針の筵(むしろ)に座っているような感覚を抱(いだ)き始めた虎石である。

このまま穏便に済めばいい。

しかし、相手の出方によっては

「悪いが、お前さんにゃちっとばかし話聴かせてもらうよ?」

「それは……」

ややあって、目線を澄ました彼女が言い難そうに唱えた言葉を受け、肝が潰れる思いがした。

さすがに見逃してはくれないか。

いや、それはいくら何でも都合が良すぎる考えだ。

組織の歯車として、あってはならない失態を演じたのはたしかだし、あの人の面目に泥を塗ったのも事実だ。

踊らされた、命令されたで済む話ではないだろう。

罪は罪として、きっちり償う必要がある。

ただ、それでも

「……そいつは、今じゃないとダメっすか?」

「はん?」

意を決して申し述べたところ、彼女は不思議そうに小首を傾げた。

部下の意見が余程に珍しかったのか。

そうじゃない。 下っ端にはそもそも、反論の自由が許可されていない。

上が白と言えば白。 黒と言えば黒と答えるのが当たり前の世界だ。

そこにわざわざ楯突くようなバカはいない。

身を惜しむのは当然で、食いっぱぐれるくらいなら、心を殺してでも仕事に従事する。

ちょっと前までは、たしかにそう思っていた。

しかし、

「いまの俺ぁ………」

「ご報告!!!」

その時だった。

風のように現れた黒ずくめの徒輩が、いたく動転した様子で大声を上げた。

かの軍団をまとめる頭目と思われるが、沈着な彼にしては珍しい慌てぶりだ。

そちらに気を取られる間際、地鳴りを伴った轟音が、一同の耳殻を重々しく脅かした。

この作品はいかがでしたか?

4

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚