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「あ、もしもし先輩?」
電話越しに青也の声が聞こえる。
「なに?」
「美輝ちゃんを見たっていう人たちが言っていた、美輝ちゃんと一緒にいた女の子のことなんですけど…。その奇縁ちゃんっていう名前で、昨日家に行ったんですよ。でも、奇縁ちゃんの家に美輝ちゃんはいなかったんで、他に美輝ちゃんがいそうな場所とかを探しましょう」
「あー…今日は出かけなきゃなんねぇから無理。明日ならワンチャンって感じだわ」
俺は今日、パパ活、というものをやっている。元々高校生の時からアプリは入れていたが、興味が一瞬にして失せてから、何もやっていなかった。だが、久々に開いてからある女の子を見つけた。
その女の子は赤茶色の二つ結び、赤い目をしているのだ。集めた情報と重なる。
そして、その子の名前は、奇縁、という名前だ。確かさっき、青也はその子を奇縁ちゃんと呼んでいた気がする。
つまりは、きっと同一人物なんだ。今日会ってから、なぜパパ活をやっているのか聞いてみよう。六歳の小さな女の子がパパ活をやる意味がわからない。もし本当に美輝ちゃんがいなければの話だ。
そうこう考えているうちに、奇縁という女の子との待ち合わせ場所に着いた。すると、青也が言っていた通り、パパ活で知り合った通り、赤茶色の二つ結びに、赤い目をした少女が立っていた。
奇縁という女の子だろう、きっと。奇縁ちゃんはセーラー襟の青い服に、子供用のフラットシューズを履いていて、靴下は短いレースつきの靴下だった。
「奇縁ちゃん、こんにちは」
俺が奇縁ちゃんを見つけて笑顔でそう言うと、奇縁ちゃんは笑顔で言った。
「こんちには、俳優さん」
笑顔だけれど目が笑っていないようで不気味だったが、なぜか嘲笑うような、小馬鹿にしているような笑顔と言い方だった。
「……俳優さんって言い方はやめて欲しいなぁ。せっかくのパパ活なんだし、パパ、って呼んで欲しいなぁ」
俺がそう言うと、奇縁ちゃんはさっきと同じような笑顔で答えた。
「でも…本当に俳優なわけじゃないでしょ?」
全部見透かしている、とでも言いたげに俺に笑顔を向ける。
パパ活の予定を立てる時、俺は俳優と嘘をつき、奇縁ちゃんと待ち合わせた。俳優だったら金を稼いでいるし、金が欲しいのならすぐに了承すると思ったからだ。
「でも、俳優って嘘つけば、奇縁ちゃんお金が欲しいから来るでしょ?」
俺が嫌味のように笑顔で言うも、奇縁ちゃんは平然と答えた。
「ううん。私はあなたにはっきりと言いたかっただけ。金とかどうでも良くて、あなたが警察になろうとしていることや本当に俳優ってわけじゃないこととか、あなたの口からはっきりと言って欲しかっただけ」
そう言って馬鹿にするように笑う奇縁ちゃん。そんな奇縁ちゃんは言い終わると何かを思い出したように、あ、と声を漏らして俺に言ってきた。
「ねえ、俳優さん。俳優さんの家に行けるかな?」
「で、質問したいことがあるの」
私は俳優さんに対して、真剣な眼差しでそう言い始めた。
俳優さんの家のリビングで、俳優さんが出してくれたココアを飲んで、一緒に出されたチーズケーキと生チョコレートケーキを眺めたあとだった。
「私のお父さんとお母さんのことについてなんだけど…」
「俺は奇縁ちゃんの家族のこと何も知らないんだけど」
私が話をしようとすると、俳優さんはさっきと違い、素っ気なさそうに答えた。
「最後までしっかり聞いてくれないと困るんだけど」
私は若干イライラしながらも話を続けた。
「で、私のお母さん、お父さんを殺したの。お父さんを殺してからお母さん、毎日違う、別々の男の人を家に連れ込むようになったの。その男の人たちは毎回お母さんに殺されてた。
そこで聞きたいのが、お母さんはなんでお父さんを殺したのか。嫌いだったら結婚しないはずでしょ。結婚したとしても離婚すればいい話なんだし」
私が言い終わると、俳優さんは自分のコップに入っているコーヒーを、スプーンでくるくると混ぜながら真顔で言った。
「愛してる故にって感じじゃない?」
私は俳優さんの言った回答に疑問を持った。なぜ愛している人を殺すのか。愛しているなら殺さずに、ずっと一緒にいるはずだろう。
「なんで愛してると殺すの?普通愛してる人殺したら、ずっと一緒にいられないじゃん」
私が思ったことをそのまま俳優さんに言うと、俳優さんはスプーンから指を離し、私の方に姿勢を正して言った。
「愛してるから、だよ。殺したら自分のものになるわけ。暴力とかにも色々あるし、お前は俺だけのものだ、っていう暴力とか、ストレス発散として暴力を振るう。んで、依存させるためには、その後優しくするんだ。飴と鞭みたいな?」
そう言ってくれる俳優さん。でも、そういうことを聞いても満足できない。
「お母さんがお父さんを殺したのは、自分だけのものにするため。でも、他の男の人たちは?自分だけのものにしようとしたの?」
私はまだ分からないというように聞くと、俳優さんは、はっとした様子でまたスプーンでコーヒーをくるくると混ぜ始めた。
「殺す理由も結構あるんだよ。自分だけのものにするためだとか、ただ単に恨んでるからとか。面倒くさいと思うかもだけど、人間の感情なんて大体そんなもんだろ」
俳優さんは後悔しているような、悔しそうな表情で唇をかみしめている。
その時、思い出した。
元々お母さんとお父さんの部屋だった部屋に、冷蔵庫が置いてあった。その時は公園からこっそりと家に忍び込んだ時だった。
家にはキッチンにも冷蔵庫が置いてあったのにどうしてかわからなかった。だから、お母さんにバレないようにこっそりと冷蔵庫を開けた。
冷蔵庫の中には、お父さんの死体があったんだ。
お父さんの死体は凍っていた。
お父さんの口の中には細かくなった血まみれの肉塊が詰め込まれ、入らない分は口からこぼれ落ちていた。お父さんの周りは、ビニール袋に入った肉塊が何個も何個も置いてあった。
冷凍庫にも、ビニール袋があり、お母さんが保存しているようだった。
お母さんは、お父さんを永遠に自分のものにしたかったのだろうか。
「…本当に面倒くさいね。それはそうと、俳優さん凄い詳しいね。まるで体験したみたいな」
私が真顔で俳優さんに聞くと、スプーンは持ったまま手を止め、その状態で俯いて言った。
「……俺がそうだったからな。自分のものにしたくて、相手を愛してたから、ずっと暴力を振るってた。まぁ、相手のことが好きな後輩にとられたけどな」
俯いていて表情は全く分からない。けれど、なんだか弱々しい声で言っていたから、惨めに思っているのかと、私は考えた。
「あと、俳優さんって言い方やめてくれるかな?俺には遥輝っていう名前があるし」
今更遅いとは思うけれど、俳優さんは猫を被って、その状態で私に笑顔を向けてくる。
「…猫被るの本当にやめて。気持ち悪い。言葉にできない気持ち悪さが凄い」
またあの時と同じ。心がもやもやして、頭がぐるぐるする。それだけじゃなくて、自然と手に力が入ってしまう。
私はチーズケーキと生チョコレートケーキを食べ、ココアを飲みながら考えた。そして、その考えを実行するために、俳優さんに言った。
「…ねえ俳優さん。縄ってある?」