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俺は閉所恐怖症だ。
小さい頃、スラムで人攫いにあい、スーツケースに閉じ込められた。そのまま売り飛ばされてしまうところをなんとか運良く逃げ出せて今に至る。
その時のことがトラウマになってしまい、暗くて狭いところにいるとパニックをおこすようになった。
だけど、普段は気をつけているし、日時生活でそんなに困ることはないため、とくに誰にも話すことなく過ごしてきた。
その日は、連日のバイトや部活、レオナさんのお世話で疲れ切って油断していた。
モストロラウンジの営業が終わり、締め作業をしていた。
「今日は混んだッスね〜。」
「そうですね。期間限定メニューの売り上げも好調です!」
「しばらくはこんな感じッスかね。」
「えーだるい。俺明日はラウンジ出ないー。」
「フロイド、明日も頑張りましょう。ラギーさん、これを倉庫に片してきてもらえますか?」
「了解ッス。」
アズール君達と話をしながら締め作業を進めていると、ジェイド君に仕事を頼まれた。倉庫はあまり得意じゃないが、すぐに戻ってくれば大丈夫。そう思い、倉庫に向かった。
倉庫に着き、頼まれたものをしまい、戻ろうとすると見慣れた寮服を着た生徒が入り口に立っていた。
「ようラギー。バイト頑張ってるか?」
「何すかあんた。ここは従業員以外立ち入り禁止ッスよ。」
「うるせーな。お前のそういうところが俺は気に食わないんだ。なんでお前なんかが寮長の隣にいるんだ。そのポジションは俺のはずだ!」
「…何言ってるんスか?」
「お前さえいなくなれば俺がレオナ様の隣に居られるんだ!!!」
いきなり現れたサバナクロー寮の生徒は、訳のわからないことを捲し立てた後、攻撃魔法を放ってきた。
(これ避けたら備品に当たって弁償ッスか?それは避けたい…!)
マジカルペンを持ち、応戦しようとポケットを探すが、マジカルペンが入っていなかった。
(まじッスか!)
マジカルペンがないことに動揺し、反応が遅れる。その隙を狙い、また攻撃魔法が繰り出され、もろに攻撃を喰らってしまった。
「うぅ……。」
手足を縛られ無様に床に横たわり、身動きが取れずにいると、髪の毛を抜かれた。
「いてっ!」
サバナクローの生徒は、俺の髪を使い、変身薬を完成させ、俺の姿そっくりになった。
「おまえはここで寝ておけ。じゃあな。」
そう言い残し、倉庫のドアを閉めてどこかに行ってしまった。
「……待て!何をする気ッスか…!」
早くレオナさんに伝えなくてはと思うが、身体が動かない。襲い来る睡魔に抗うことができず、俺は意識を飛ばした。
ラギーに成り変わった生徒は何食わぬ顔でラウンジに戻り、アズールに体調が悪くなったと声をかけ、バイトを上がっていった。
「……なんかコバンザメちゃん変じゃね?」
「何がです?」
「なんかいつもと違う気がする…… まあいいや。俺も先戻るね〜」
「あ!フロイド!待ちなさい!!」
その様子を見ていたフロイドが違和感を感じ、それを口にするが、すぐに興味がなくなったようで、アズールの制止も虚しく部屋に戻っていった。
いつも通り、バイト終わりのラギーが部屋に入ってきた。
「レオナさん、戻りました〜。夜食今から作るッスね!」
「………おまえ、誰だ?」
「へ?ラギーッスよ!寝ぼけてます?ってレオナさん?!」
部屋に入ってきたのがラギーではないことにレオナはすぐに気付き、片手で首を締め上げる。
「もう一度聞く。おまえは誰だ。ラギーはどこにいる。砂にされたくなかったらすぐに答えろ!」
「…なんで?俺の方がレオナ様のことをこんなに慕っているのに…!なんでラギーなんですか!!」
「知るか。さっさと話せ。」
「嫌だ!!!そんなこと認めない!!!!!」
そう言ってラギーに似た何かは離脱魔法を使い、レオナの前から消えた。
「チッ。ラギーのやつどこで油売ってやがる。」
「…いてて」
ラギーは暗闇の中で目を覚ました。
モストロラウンジの締め作業が終わり、店内の電気が全て消されたようだった。
「……まじ…スか………」
あの時のような暗くて狭いところにいる。パニックになる前に倉庫を出ようとするが、暗闇の中ではなかなかドアを見つけることができない。必死に手探りでドアノブを探し出し、外に出ようとしたが、外から何かで塞がれているようでビクともしない。
暗闇の中、部屋に閉じ込められているという事実を突きつけられ、いよいよ呼吸が乱れてきた。
「…はっ……はっ…出し…て…!」
必死にドアノブを回したり、ドアに体当たりしたりして何とか出ようとするが、ドアはびくともしない。
「だ……だれか!……はっひゅ…たす…はっ…たすけ……て!」
必死にドアを叩いたりドアの隙間からこじ開けようとしたりして助けを求める。しかし、その声は誰にも届かなかった。
思うように息ができず、喉を掻きむしる。何の前触れもなく、嘔吐をしてしまった。もう自分がどんな体勢でいるのかも分からない。
(怖い……死ぬ………助けて……)
酸欠から徐々に意識が朦朧としてきた。
その晩、ラギーは暗闇の中で目を覚ましてはパニックに陥り、絶望の中意識を飛ばすことを繰り返した。
朝になってもラギーがレオナのことを起こしに来ることはなかった。
「あいつは何をしてやがる。」
あいつのことだから自力で戻ってくるだろうと信じて待っていたが、いつになってもラギーが部屋に来ることはなかった。
仕方なく自分で準備をし、部屋の外に出る。
部屋の外に出ると、ジャックに会った。
「おい。ラギーを見てないか。」
「おはようございます。ラギー先輩には会ってないです。」
「そうか。」
「ラギー先輩がどうしたんですか?」
「昨日の夜から姿を現さない。」
「えっ。昨日はモストロでバイトですよね。何かあったのか。」
「チッ。ラギーを見かけたら知らせろ。」
「うっす。」
ラギーの不在が思ったよりも深刻だということに気付き始めたレオナはオクタヴィネルに向かった。
「おや。これはこれはレオナさん。朝からどうされましたか。」
「ラギーが昨日から帰ってない。昨日はここでバイトをしていたはずだ。」
「え、ラギーさん戻られてないんですか?昨晩は、締め作業の途中に体調が悪くなったと言ってお帰りになりました。…そういえば、その時フロイドがおかしなことを言っていましたね。」
「フロイド、あの時ラギーさんのことを変な感じがすると言ってましたよね?」
「うん。なんかいつものコバンザメちゃんと違う気がしたんだ。倉庫から帰ってくる前は普通だったのに。」
「……その倉庫に案内しろ。」
レオナ、アズール、ジェイド、フロイドはモストロラウンジの倉庫に向かうと、倉庫のドアの前には荷物が積み重ねられていた。
「誰がこんなことを…!」
急いで荷物をどかし、倉庫のドアを開けると、中は悲惨な状況になっていた。
ドアの近くには手足を縛られ、傷だらけのラギーが転がっていた。吐いた後もあり、顔面は涙と吐瀉物で汚れている。
「おい!!!ラギー!!!!!」
レオナはすぐに抱き起こし、頬を叩いて覚醒を促す。
全身汗でぐっしょり濡れ、ドアに頭を打ちつけたのか額には血が滲んでいる。
「…!モストロラウンジで人が死んだという噂が流れては困ります!ジェイド、保健医を呼んできてください。フロイドは、タオルを持ってきてください!」
「分かりました。」
「おっけー。コバンザメちゃん、ごめんね。昨日のうちに探しに来ればよかった。」
フロイドの言葉に、レオナも全く同じ思いを抱く。信用して待っていたつもりだったが、こんなにラギーが苦しんでいたのならば、昨日のうちから探しに来ればよかったと後悔した。
アズールがラギーの手足を縛っていた縄を外している間、レオナはラギーに声をかけ続けた。
「おい、ラギー起きろ。」
「頭を打っていると思われるので、あまり動かさない方がいいです。」
「……うあ…」
何度目かの呼びかけにラギーが反応した。
「起きたか。」
ゆっくりと目が開かれるが、焦点が合わない。
「ラギー、こっちを見ろ。」
「…いやだ……ここか、ら…出して…!」
思わず抱きしめるような形で背中をさする。
「はっ…ひっ……ヒュッ…や…」
「ラギー落ち着け。俺に合わせて息をしろ。」
「…れ…おな……ヒュッ…さ…?」
「やっと気づいたか。」
匂いで俺の存在に気付いたようで、規則的な呼吸を促す。途中で嘔吐してしまったが、徐々に呼吸が落ち着いてきた。
「レオ…ナさ…ん。すいま、せん。」
胃酸で喉が爛れたのか、一晩中助けを求めたからなのかラギーの声はかれていたが、ようやく会話らしい会話ができた。
フロイドがタオルを持ってきて、アズールが応急処置を行っていると、ジェイドが保険医を連れて戻ってきた。担架にラギーを乗せ、保健室に運ぶ。
ラギーは身体の傷だけではなく、脱水症状を起こしていたため、点滴をされ、ベットで眠っている。
その後、騒ぎの原因になったサバナクロー寮生は、すぐに特定され、退学処分になった。
ラギーはフラッシュバックに悩まされ、部屋のドアを閉めて眠ることができなくなった。
過去のことを聞き、ラギーを暗いところや密室に居させないように周りが細心の注意をはらうようになり、ラギーは甘やかされることにくすぐったさを感じながらも徐々に回復していった。
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