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ずっとずっと、智之だけだと思っていた2年半、『智之じゃなくて……』などと考えたことなんてなかった。
「分かんない……」
「だよな……」
ボーっとする私に付き合ってくれる匠。
今は、ボーっとする時間は、必要だけど、その分涙が流れてしまう時間になってしまっている。
すると、突然、匠が話し始めた。
「綾の初恋っていつ?」と……
「えっ? 初恋?」
──恋話? 女子かよ!
と思ったが、きっと私を和ませる為に、話してくれてるんだろうなと思った。
「幼稚園かなあ?」と言うと、
「そっか、俺も幼稚園」
「へ〜そうなんだ」
「いつも仲良くしてた女の子が居てさあ」と話してくれた。
「うん」
なんとなくボヤ〜ッとしか覚えていないが、
家が近所だったから、毎日手を繋いで幼稚園まで一緒に通ったり、おままごとをしたりしていたようだ。
なぜかいつもその女の子がお母さん役で匠が子ども役。
幼稚園ごっこをしても、その女の子が先生役で匠が生徒役だったんだと。
「ハハッ、そうなんだ。女の子の方がしっかりしてるからね。匠、もう尻に敷かれてたんだ」と言うと、
「だよな、めちゃくちゃ尻に敷かれてた」と笑う。
「でも、可愛くて好きだったんだよな〜」と言う。
「だから、何の役でも熟せたんでしょうね」
「だろうな。言いなりだった」と笑う。
「その女の子とは?」
「2つ違いで俺ん家が小学校へ上がる時に引っ越したから、それっきり」
「そうなんだ。歳が違うのに一緒に遊んでたんだ」
「ずっと、俺にまとわりついてたから、可愛かったんだろうな、兄妹みたいに育てられてた」
「へ〜そうなんだ〜親公認じゃん」
「そうそう! 結婚する〜って言ってたみたい」
「へ〜可愛い〜その子の名前は?」
「え〜? 名前まで覚えてないけど、たしか、あーちゃんって呼んでたような気がする」
「ヘ〜そうなんだ」
「そう言えば、ファーストキスの相手だと思うんだよな」
「うわっ! オマセさんだね、でも小さい子のチューって可愛いよね〜」
「うん、最初は相手からされたような記憶が……」
「ふふっ、それも主導権を握られてたんだ、ハハッ」
「だよな、可愛かったな俺」
「ハハッ自分で言う?」
匠のおかげで私、今笑えてる。
男の子の恋話も良いものだと思った。
「で、その次の恋は?」と聞くと、
「え〜! 何? 俺の過去暴露大会?」と言う。
「うん聞きたい! 大人になってからの匠の恋話の方が楽しみなんだけど……」と言うと、
「いや、俺そんなに経験ないし」と言うので、
「《《経験》》まで聞いてないってば」と笑うと、
「いや、その《《経験》》まで言ってないわ」と笑っている。
「え?」と、真顔で言うと、
「ハハハッ、綾って時々抜けてるって言うか、なんて言うか、面白れ〜よな」と言われた。
──確かに、付き合ってもいない男友達の女性経験を聞くことなんて、あまりないよな〜と思いながらも、なぜか匠の経験は聞いてみたかった。
匠とは入社当初から2年半、美和と智之と4人で一緒に過ごした仲間だから、男性でありながらなぜか私の中では、特別なポジションに居るのだと思っている。
だからか、女性経験を聞いたところで、何も気にならないと言うか、きっと『へ〜そうなんだ』と、共有出来るような気がしていたのだ。
「そう? たぶん私は匠の《《経験》》話、普通に聞けるよ」と言うと、
「は?」と笑っている。
「待て待て! そんな話、男友達でも詳しくは言わないわ」と言われた。
「なんだ、つまんないの!」と言ってる自分にも驚いた。
なんだか分からないけど、知りたがってる自分が居る。
私は、負けじと、もう一度トライしてみた。
「ねえ〜初体験……いつ?」と、真面目な顔で聞いてみた。
「ハハハハッ、だから!」と笑われたが、私が真面目な顔で匠を見つめていたから、匠は、
「何? お前、マジで聞いてる?」と言う。
「うん」と真面目に言うと……
「……18」と言った。
「ふふふふ、へ〜そうなんだ〜」と言うと、
「おいおい、何笑ってんだよ、真面目に聞いたから真面目に答えたのに」
「そっか〜高校生?」
「あ、いや大学生だな」
「へ〜お相手は? おいくつの方ですか?」と手でエアーマイクを持って、芸能レポーター並に聞く。
「ハハッ、そんなこと聞いてどうすんだよ」
「すみません、視聴者の皆さんの為に、真面目にお答えいただけますか?」と、もうレポーター役だ。
「ハハッ、どこに視聴者が居るんだよ! あ〜大学の1つ上の人ですかね〜」
そう言いながらも、応えてくれる匠。
「あら、歳上の女性の方なんですね。それは、どちらから告白されたのですか?」と、毎回マイクを向ける。
「ハハッ、向こうからかな」
「うわ〜凄いですね、女性の方から告白させるほど、おモテになられたんですね?」
「いや〜まあ〜」と笑っている。
「おや、今、ご自分で認められましたか?」
「その頃は、モテてたんだよ」と笑っている。
「なるほど、モテ期だったんですね」
と言いながら、私は、
──歳上かあ〜
と地雷を踏んでいたことに気づいた。
「ん?」
「歳上なんだ〜匠も……」と、急にシュンとする私を見て、
「うわ〜しまった! 今この話はタブーだったな。
つうか、別に俺は、悪くないよなあ?」と言っている。
「ハア〜〜」と、大きな溜め息を吐いて、あからさまに落ち込んでいると、
「ごめんって」と言う優しい匠。
「ふふふふ、匠は何も悪くないよ」と言うと、
「だよな! なんで今俺、謝ったんだろ」と、言った。
「うん。私、今匠のおかげで笑えてるよ! ありがとう」とお礼を言うと、
「あ、いや、こんな話で笑えてるなら良かったよ」と言うので、私は調子に乗って、
「うん、だからまた、続き教えてね」と言うと、
「やだよ!」と笑っている。
「え〜面白かったのに〜」
「ハハッ、また今度な! じゃあ、そろそろ行こうか」と言われた。
「やった! また今度があるんだ! うん……そうだね、もう帰らなきゃだよね。この顔で電車乗れるかなあ?」と不安気に言うと、
「あっ俺、車で来た!」と言う匠。
「え? 匠いつ車買ったの?」と聞くと、
「さっき納車」と言う。
「え〜〜! 何? 今日納車だったの?」
「まあな」
「え〜ごめん、新車なのに、いきなり海になんて来させて」と言うと、
「いや、車走らせたかったから丁度良かったよ」と言ってくれる。
「そう? ありがとう〜」
匠の優しさだと思った。
「仕方ないから1番に助手席に乗せてやるよ」と言う。
「やった〜! あ、未来の彼女には内緒ね。きっと悲しむから」と言うと、
「おお、分かった!」
そして、私たちは、駐車場に停めてある匠の車へと向かった。
私は、さっき智之が車を停めていた場所を見たが、既に違う車が停まっていた。
──本当に帰ったんだ
「ん? 智之の車は、どこに停めてた?」と聞かれ、
「そこ」と指差すと、
「マジで帰ったのかよ」と、ムッとしている匠。
──もう、私の手を離したんだもんね。
そういう人だったんだ
と思いながらスマホを見た。
すると、何度か智之から着信があったようだ。
「電話は、かけて来てたか?」と匠
「うん……」
「そりゃあ、それぐらいはするよな」と、言いながら、車の鍵が開く音がした。
「え? コレ? 今どうやって開けたの?」
「近づいたら勝手に開く」と言う匠。
「えっ? 凄っ!」と驚くと、
「ハハハハッ、鍵をポケットに入れてれば開くの」
と言われた。
「そうなんだ! 知らなかった。画期的!」と言うと、
「ハハッ画期的って……」と笑われた。
「うわ〜凄〜い! 黒がピッカピカ! カッコイイね」と言うと、
匠は、満足そうにニコニコしている。
同じ黒で、どこか智之の車にも少し似ている。
──あ、また思い出しちゃった……
危ない危ない! もう泣かないぞ!
「どうぞお嬢様」と助手席のドアを開けてくれる匠。
「ありがとう、お邪魔しま〜す」と、車に乗り込んだ。
新車の良い匂いがした。
「カッコイイね〜」内装もピカピカだ。
ニコニコしている匠。
匠も乗り込んで、
「何かあったかい物でも飲むか?」と、聞いてくれたので、
「あ、ごめん、ちょっとトイレに行きたい」と言うと、
「おお、分かった。コンビニでも寄るか」と……
「うん、ありがとう」
お台場は人が多くて、こんな顔で人混みを歩きたくはなかった。恐らく匠は、それを分かってくれていたようで車を走らせてお台場から離れてくれた。
少し走ってから、コンビニに寄ってもらった。
すぐにトイレに入る。
──やっぱり……
お腹が痛くなった。もしかして、と今朝用意をしていたが、生理が来た。
あの|女《ひと》は、妊娠して私は……
そう思うと悔しくて、悲しくて、又涙が流れた。
しばらくトイレで泣いていた。