テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
そして、トイレから出ると、匠が
「コーヒー? それともホットココアか?」と、聞いてくれた。
私がいつもホットココアを飲んでいるのを知ってくれているからだ。
「うん、ホットココアお願い」と言うと、
「OK! 先に車に乗ってろ」と車の鍵を渡してくれた。
「ありがとう」
──泣いていたのがバレたのかなあ?
そして、ホットココアとコーヒーを持って歩いて来てくれた。
窓を開けると、
「ん」とホットココアを渡してくれた。
「ありがとう。あったかい」
匠は、お腹が空いたのか、肉まんとポテト、フランクフルトが入った袋を手に持っている。
そして、「どれがいい?」と聞いてくれた。
「あ、私は、いいよ匠が食べて」と言ったが、
「コレ食べれば?」とフランクフルトを勧めてくれる。
お腹は、空いていなかったが、1番好きなフランクフルトをもらった。
「ありがとう」
──どうして、コレが好きなのが分かったのだろう
「ごめんね。やっぱりお昼食べてないからお腹空いたんじゃない?」と言うと、
「ううん、小腹が空いたから、おやつ」と言う。
「そっか……」
匠は、いつも人の気持ちが分かる人だから、優しい。
その上で、智之とは違って匠はちゃんとイヤなことはイヤだと断れる人だ。
比べちゃいけないけど……。
フランクフルトを一口齧ってみた。
「美味しい」
「そっか、良かった」と笑っている。
もう一度齧ると、
「なんか良いよな」と言う匠
「何が?」と聞くと、
「女の子がフランクフルトを食べてるの」と笑っている。
「グフッ、それって〜」と、ジトーッと匠を見ると、笑っている。
「最低!」と思わず笑ってしまった。
「それで分かる綾もスゲーな」と、クスクス笑っているので、
思いっきりガブッと齧り付いて、引きちぎった。
「痛そう〜」と悲壮な顔で言っているので、
「バーカ」と笑うと、匠も笑っている。
普段、匠はそんなことを言わない。
恐らく私を和ませる為に言ったのだと思った。
だから、
「女の子には、そんなこと言わない方が良いよ」と注意した。
「言わね〜よ、綾にしか」と言った。
──やっぱり
「どういう意味よ!」と言うと、
「初体験を聞かれた《《マブダチ》》だからな」と言った。
「ふふ、だよね〜」と2人で笑い合った。
でも、私には、経験の話は聞いて来ない。
デリケートなことだからだろうか……
やっぱり、匠にとっても私は、女ではなく、男友達に近い女友達なのかもしれないと思った。
だから、何でも言い合える。
ならば! と、私はちょっと確かめたくなった。
「ねぇ、匠!」
「ん?」
「傷心の私を1回だけ、ぎゅっとしてくれない?」と言うと、一瞬『え?』と言う顔をしたが、
「分かった!」と言ってコーヒーを置いて、両手を広げて「来い!」と言ってくれた。
そして、運転席と助手席のまま、ぎゅっと抱きしめてくれた。
匠の匂いがした。男性のコロンなのか、その中になんだか懐かしいような落ち着く匂いがする。
「う〜〜ん」
「ん?」
「やっぱそうなのよね〜」と言うと、
「何?」と聞かれた。
「匠は、お兄ちゃんみたいな〜」と言うと、
「ハハッ、そっか、妹よ! ヨシヨシ」と頭をヨシヨシ撫でられて、一瞬ドキッとした。
──え?
今のは何? 気のせいか……
匠は、どこかホッと出来る存在なのだ。
やっぱり智之とは違うんだと比べてしまっていた。
「ありがとう」と言って離れると、
「おお、ぎゅっとして欲しくなったら、いつでも言え!」と、頭をポンポンされると、やっぱりドキッとした。
──え? 何これ?
頭に触れられるとドキッとする。
私は、匠の男の部分を感じているのだろうか……
もう一度匠の手を取って、私の頭を自分でヨシヨシしようと、すると、コレは違う。
──当たり前か
「何? もっとヨシヨシして欲しいの?」と、笑いながら、
また匠にヨシヨシされると、やっぱり、なんだかドキドキする。
──え? どうして? おかしい!
ジーッと匠を見つめる。
「ん? どうした?」と、いつもの匠だ。
「ううん」と言いながら、助手席で真っ直ぐ座り直して、前を向いた。
「ごめんね、今日は本当にありがとう」と言うと、
「おお、俺も良いドライブになったよ」と言ってくれた。
そして、私は気づいた。
「あ、新車だからご祈祷に行かなきゃいけなかったんじゃ?」と言うと、
「さすが、お婆ちゃん子! よく知ってるな」と言う。
「うん、我が家はいつも必ず行くからね」と言うと、
「そっか、じゃあ、ちょっと付き合ってくれる?」と言う匠。
「うん、神社に行く?」と聞くと、
「うん」と。
「了解〜!」と笑顔で答えた。
今すぐ家に帰りたくない私にとっては、まだ予定があることが嬉しかった。
それに、匠の前では何も気取らずにいられると思った。
私たちは、匠が住んでいるマンションの近くまで車で戻って、いつも匠がお参りしているという神社へ行った。
到着した時には、もう3時半を過ぎていた。
受付をして、「では、ご一緒に」と神主さんに言われて、私も一緒に部屋に入り、2人で安全運転祈願をしていただいた。
その後、外に出て車の前で待つ。
車にもご祈祷してくださる。
そして、私たちも頭を下げて……と、私まで祈祷してくださった。
神主さんに御礼を言って、匠はお守りや御神酒が入っている袋を受け取っている。
そして、車に乗り込むと、
「ごめんな急に付き合わせて」と匠が言うので、
「ううん、こちらこそだよ。ご祈祷する前に、お台場まで走らせちゃってごめんね」と言うと、
「ううん」と微笑んでいる。
「私まで安全祈願してもらっちゃった。コレで私も守られてるから、次からも大丈夫ね」と言うと、
「ハハッ、そうだな」と笑う匠。
「次からも乗せてくれるんだ!」と私が言うと、
「おお、彼女には内緒な」と、自分の口元に人差し指を立てて言っている。
「ふふっ、彼女居ないんでしょ?」と言うと、
「うん、出来るまでだな」と笑っている。
そう言われると、なんだか妙に寂しくなった。
──彼女が出来るまで……
そりゃあ、そうだよね
彼女が出来れば、もう乗せてもらえない。
なんだか一気に匠が遠く感じてしまった。
──どうして、こんな気持ちになるんだろう
本当にいつも助けてもらってたから、私は、いつしか匠のことをお兄ちゃんのような存在に思っていたのかなあ。
「ん? どした?」と匠に聞かれる。
私が急に黙り込んでしまったから、心配してくれている。
そして、車はゆっくり動き出した。
「もう帰る? それとも、どっか行く?」と聞いてくれている匠。
──この寂しさは、もしやブラコン?
ブラザーコンプレックスみたいな感情なのかなあ
今はまだ、このまま一緒に居たい! もっと匠と話していたいと思っている自分が居る。
私は、話し出した。
「匠は、最初からいつも私の味方になってくれてたよね?」と言うと、
「何だよ、急に……」と笑っている。
「ありがとうね」と言うと、
「お、おお」と戸惑っている。
車は、神社を出て少し走り、公園の横で停まった。
「トモと付き合うようになってから、ずっと匠と美和には、助けられてた」
「いや、助けるってほどでも……」と謙遜する匠。
「ううん、トモが他の女の人にモテてたのも一緒に見てて、私がイヤな気持ちにならないように、いつも助けてくれてたよね」と言うと、
「あ〜俺ならイヤだなと思ったからな」と言う匠。
「ありがとう」お礼を言うと、
「ううん」と、匠はゆっくり首を横に振る。
「私ね、もうトモと、ちゃんと別れる!」と言った。
「……そっか、綾がそう決めたなら、それで良いと思うよ」
「うん。あの|女《ひと》のお腹の子がトモの子でも、そうじゃなくても、もう私には関係ない。
そういう事をしたっていう事実を隠したままプロポーズして、土下座をしているトモを見て冷めちゃった」と言うと、
「そっか……」とだけ言って、聞いてくれている。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!