続きぃぁ
南雲は資料室で二人の話を盗み聞きしたあと、真っ直ぐ事務所へ向かった。
目的はただひとつ。
作業中であろう自身の舎弟に会いに行って、話の真相を確かめることである。
南雲「あんな話聞いて黙ってられっかよ」
事務所の扉を勢いよく開けると、予想通り中にいた小峠は、音にびっくりしたのか肩をビクリを跳ねさせ、こちらを向いた。
小峠「お疲れ様でございます、南雲の兄貴」
南雲「お疲れ。まだ仕事残ってんのか?」
目的を悟らせないよう、細心の注意を払って小峠に近付く。
小峠「はい。ですがあと少しで終わりますよ」
南雲「そっか」
そう言ってパソコンと向き直る小峠を後目に、南雲は今現在目に入っている情報を脳にインプットする。
南雲「(質問の応答に問題はなし。仕事の進みもいつも通り。机の上には大量の資料とエナドリの空き缶とコーヒーの入ったマグカップ。…ここまではいつも通りだが、新たに机の上に風邪薬の瓶が2つ…か。風邪ひいてんのか?にしちゃあ普通な気が………いや、顔色が悪い?血色が悪い…気がする。貧血とかか?)」
その情報から、南雲は現状の可能性の候補を絞り出していく。
1つ目は風邪気味による体調不良。
2つ目は寝不足(重労働)による睡眠不足。
3つ目はカフェイン中毒による体調不良。
4つ目は貧血。
南雲「(考えられんのはこの4つくらいだな)」
だがその時南雲の脳裏にひとつの疑問が浮かんだ。
南雲「(いや待て、風邪だとしたらなんで2つも瓶がある?ただの風邪なら1瓶でも少し余る程度だぞ?なんで2つもあるんだ?華太は定期的に体調を崩すタイプじゃない。なんなら一年に1、2回程度でしか体調不良を起こさないし…ストックの線は消える。…じゃあ…なんでだ?)」
チラリと机越しに小峠を見ると、いつもと変わらない表情で仕事をしている。
しばらくずっと見続けていると、小峠が左手で鬱陶しくなったのか、前髪をかきあげた。
その瞬間見えたもの。
その小さな機微を南雲は見逃さない。
チラリと一瞬だけ見えた白い包帯。
それが見えた瞬間、南雲の脳はフル回転を始める。
南雲「(包帯…?カチコミで怪我でも……いやココ最近華太はカチコミに行ってない。だからカチコミでの怪我の線は完全に消える。じゃあなんか引っ掛けたとか?…それもねえな。スーツが破れてねえから肌だけ怪我するなんてどう考えても不可能だ。)」
だめだ情報量が多すぎると、頭を整理するために休憩室へ向かった。
南雲「うーん……エナドリ…コーヒー…重労働……どうも結びつかねえな」
うーんと唸りながら自分のコーヒーを淹れる。
南雲「風邪薬…包帯…左手………左手…?華太は右利きで……風邪薬2瓶……貧血………俺たちに隠したいことで………」
淹れ終わったコーヒーを取ろうとする手が途中で止まる。
そしてその手は口元に当てられた。
南雲「……まさか」
南雲の額に一瞬にして汗が浮び上がる。
脳裏に浮かんだのは、5つ目の可能性。
南雲「……自傷行為……………」
南雲の脳の中で、今まで視認してきた情報がパズルのピースのようにどんどんと組み合わさっていく。
南雲「元々机の上にあったカッターでリストカット…それによる貧血…風邪薬はODのため…?」
やっと、真相にたどり着いた。
たどり着いてしまった。
南雲「…とにかく、確認しねえと」
焦ったように南雲は休憩室を飛び出し、再び小峠の元へ向かった。
南雲「華太っ!」
小峠「うぉっ!ど、どうしました?」
俺が作業していたら、さっき出ていった南雲の兄貴がものすごい勢いで戻ってきた。
戻ってきたと思えば俺の顔を両手でわしっと掴んだものだから、少しびっくりした。
南雲「華太お前、風邪ひいてる?」
次はなんなんだ。いきなり風邪をひいてるか聞いてくるなんて。
……ああそういうことか。
俺は自分の机の上に置いてある風邪薬の瓶をちらりと見て察した。
そりゃ中々体調不良にならん俺が2つも瓶を持ってれば異様だよな。
だがここで「いいえ、ひいてません」と答えてしまうと、じゃあなぜそんなもの、という話になってきてしまうため、ここは大人しくはいそうですねと言っておけばいい。
小峠「はい。少し風邪気味でして…」
南雲「でも2瓶もいるか?」
小峠「備えておくに越したことはないでしょう?」
そう俺は笑って言ってやった。
…なるほど。南雲の兄貴は俺がODしていると疑っているのか。
大正解です。
やっぱり兄貴の観察眼はすごいなぁ。
俺が呑気にそんなことを思っていると、南雲の兄貴が突然俺の肩をガシッと掴んだ。すごい力で。
南雲「華太、正直に答えろよ?…その左手どうした?」
……あ、バレた。
これ、多分…っていうか絶対にバレてる。確信持たれてる。
南雲の兄貴か……少しだけめんどくさい。南雲の兄貴は多分兄貴に報告するからな。
ここで適当に嘘でもついとくか?いやでも、嘘をついたところで余計に確証が深まるだけだ。
…まあいいや。俺なら何とかできる。
なんとか……俺なら…………
できる、よな…?
to be continued…
組員の様子
速水、飯豊、宇佐美:確証は持ててないけど、80%の確率で自傷行為をしているんだろうなと思っている。
青山、香月:確証している。青山は実際に傷を見ている。
野田、和中:自傷行為をしているとはまだ気がついていない。なにか隠してんだろうな程度。
南雲:確証した。証拠がなかったら信じない。自傷行為してるなんて信じたくない。
他:?