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100日後、巨大隕石落下

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100日後、巨大隕石落下

45 - 第45話 Day56 止まれない前夜

♥

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2026年01月19日

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《フロリダ・ケープカナベラル宇宙軍基地/アストレアA管制室》
巨大なスクリーンに、

地球とオメガと、

その間を飛ぶ一本の細い軌道が描かれていた。


<ASTRAEA-A T-1 DAY

 LAUNCH WINDOW: 03:42–03:54 (JST)>


英語と数字が飛び交う中、

PDCOの担当官が声を張る。


「では、最終“ドライ・リハーサル”を始める。

 明日の流れを、頭から最後まで一気に確認する。」


各コンソールの上部には、

小さなプレートが光っている。


「FLIGHT」

「GUIDANCE」

「PROP」

「JAXA」

「ESA」

「RANGE」


JAXA席に座るエンジニアが、

少し緊張したように姿勢を正した。


「Tマイナス4時間、

 機体の電源オン。

 姿勢制御用スラスタ圧チェック——」


「推進系、グリーン。」


「誘導系、グリーン。」


「通信系、グリーン。」


淡々としたやり取り。

だが、その一つ一つが

“人類の矢”の生死を決める。


スクリーン右上には、

小さく「OMEGA IMPACT PROBABILITY」と

数字のバーグラフ。


(依然として“高リスクNEO”のまま——

 このバーが、

 明日少しでも低くなってくれればいい。)


マーク・ヘインズは、

JPL/CNEOSからのオンライン回線越しに

そのバーを見つめていた。


「Day56 03:00 UTC時点、

 オメガの軌道解に有意な変動なし。

 アストレア目標衝突点に対する

 “オフセット許容値”は

 既定どおり。」


アンナが、

管制室の一角から確認する。


「明日の“Go/No-Goポーリング”の条件に

 変更は?」


「ありません。」

「なし。」

「ノーチェンジ。」


各国の席から、

次々と同じ答えが返ってくる。


(そうよ。

 もう“条件を変える勇気”なんて、

 誰にも残ってない。)


(変えた瞬間、

 “責任の位置”まで動いてしまうから。)


「いいか。」


PDCO担当官が、

最後に全体を見渡した。


「明日、“GO”と言うのは

 “完璧だ”という意味じゃない。」


「“これ以上悩んでも、

 数字は変わらない”という意味だ。」


「その言葉を口にする覚悟があるかどうか——

 今夜のうちに、

 自分の中で決めておけ。」


誰も冗談を言わなかった。

誰も拍手をしなかった。


ただキーボードの音だけが、

静かに続いていた。



《JAXA/ISAS 相模原キャンパス/プラネタリーディフェンスチーム室》


壁のホワイトボードには、

マーカーで大きく書かれている。


<ASTRAEA-A 打ち上げ前日

 Day56:最終確認・夜勤体制>


その横に、

もう一行。


<美星スペースガードセンター:

 打ち上げ~衝突予想時刻前後の連続追観測・体制確認済>


白鳥レイナは、

モニターに映る美星からの映像を見ながら

受話器を耳に当てていた。


「はい、こちら相模原。

 天候次第ですけど、

 明日も“オメガ追っかけ班”お願いします。」


電話の向こうで、

明るい声が返ってくる。


『了解です。

 こっちも“日本の空から出来ること”は

 全部やります。』


『……正直言うと、

 ちょっと怖いですけど。』


レイナは、

少し笑う。


「こっちも怖いわよ。

 怖くない人、

 ひとりもいないと思う。」


電話を切ると、

机の上の紙に目を落とした。


<アストレアA 打ち上げ成功時:

 IAWN向け速報ドラフト案>


『人類初の“実戦的プラネタリーディフェンス・ミッション”

 アストレアA打ち上げ成功を確認。』


『オメガへの衝突予想時刻まで、

 JAXA/ISASならびに美星スペースガードセンターは

 継続的な光学追観測を実施する。』


隣の若手が、

ペンをくわえながら言う。


「これ、

 “失敗したときの文章”も

 用意してあるんですよね。」


「見たくないですけど。」


「あるわよ、もちろん。」


レイナは苦笑して、

そちらの紙も軽く持ち上げた。


<アストレアA 打ち上げ失敗時:

 軌道再解析・リスク評価の方向性>


「でも、

 今夜読むのはやめておく。」


「なんでですか。」


「“明日やれること”を

 全部やったあとで、

 それでも必要なら開けるわ。」


「今開けたら、

 眠れなくなる。」


若手は、

少し安心したように笑った。


「じゃあ、

 “失敗したとき用の文章”は

 明日の自分に押し付けておきます。」


「そういうこと。」


“勇気”と“現実逃避”の

ぎりぎりのラインに立ちながら、

相模原の夜は

ゆっくりと更けていった。



《総理官邸・公邸/サクラの部屋》


デスクライトだけがついた部屋で、

鷹岡サクラはノートPCを開いていた。


画面には、

一通のメール。


<件名:明日、授業でアストレアを見ます

 差出人:紗季>


『今日は、

 大学で“アストレア中継を授業で見るかどうか”

 って話になりました。』


『結局、“見たい人は見ていい”ことになって、

 私は見ることにしました。』


『怖くないって言ったらウソになるけど、

 “お母さんの世代が選んだもの”は

 ちゃんとこの目で見ておきたいです。』


『だから明日、

 私は教室から空を見上げます。』


『お母さんは、

 地下から空を見ててください。』


サクラは、

メールを何度も読み返した。


(……ずるいな、あの子。)


(“泣いて”って言ってるわけじゃないのに、

 こっちを泣かせにきてる。)


卓上のスマホが震える。

画面には

「ルース大統領」の文字。


サクラは、

呼吸を整えて通話ボタンを押した。


「もしもし。」


『サクラ首相。

 遅い時間にすまない。』


ルースの声は、

いつもより少し柔らかかった。


『明日、

 そちらは何時に対策室入りだ?』


「午前2時前には

 地下に入ります。

 日本時間では“ど真夜中”なので。」


『こちらも似たようなものだ。

 “世界同時徹夜祭”だな。』


サクラは思わず笑ってしまう。


「その言い方は、

 ちょっとだけ救われますね。」


少し沈黙があって、

ルースが低く言った。


『……正直に言おう。

 怖い。』


『軍人としても、

 大統領としても、

 父親としても。』


『だが、

 怖いからこそ前に進む、

 という選択肢もある。』


サクラは、

机の上の“失敗時コメント案”の紙に

目を落とした。


「こっちも同じです。」


「怖いから黙っている、

 という選択肢もあった。」


「でも、それを選んだら——

 あとで娘に会えなくなる気がして。」


ルースは、

ほんの少しだけ笑った。


『……私も、

 ずいぶん前に娘を亡くした。』


『だから尚更、

 “何かを守ろうとして動いた人間”でありたい。』


『明日、

 それぞれの“地下室”で

 同じロケットを見よう。』


「ええ。」


「それで、

 終わったあとに

 “生きて”話しましょう。」


それが、

Day56の夜に交わされた

二人のリーダーの約束だった。



《地方都市・高校・チャットグループ》


<明日アストレア見る?>

放課後のグループチャットに、

クラスメイトが投げかけた。


<うちのクラス、

 4限丸ごと中継らしい>


<マジ?

 テスト前なんだけど>


<いいじゃん、歴史の瞬間だよ>


<失敗したらどうすんのさ>


<それも含めて“歴史”でしょ>


画面の向こうで、

一人の女子生徒が

ベッドの上でスマホを見つめている。


(成功したら拍手するのかな。

 失敗したら、

 泣くのかな。)


(どっちにしても、

 明日の自分の顔がちょっと怖い。)


彼女は、

短く打ち込んだ。


<私は見る>


<怖いけど、

 見なかったら

 もっと怖い気がするし>


数秒後、

スタンプがいくつも返ってきた。


(“怖いからこそ見る”人と、

 “怖いから見ない”人と。)


(どっちも、

 別に間違いじゃないんだろうな。)



《黎明教団・全国一斉祈り 前夜チャット》


<明日、ケープ行く人>

<種子島行く人>

<相模原行く人>

<それぞれ集合時間確認しましょう>


チャットのタイムラインが、

一気に流れを早める。


<現地行けない人は、

 明日午前3時に

 窓の外の空に手を合わせてください>


<世界中の“光を守りたい人”が

 同じ時間に立つ>


<ロケットの前でも、

 画面の前でも、

 ベッドの上でもいい>


セラ本人のアカウントが、

一行だけ書き込む。


<“最後の夜”も、

 眠れない人は無理に眠らなくていい>


<ただ、自分の選んだ場所で

 静かに明日を待ってください>


<光は、必ずそこに届きます>


“何の光を指しているのか”

それぞれ違う解釈のまま、

多くの信者がそのメッセージに

スタンプをつけた。



その日も、

オメガの軌道は変わらない。


地上では、

人々の気持ちだけが

少しずつ

“止まれない場所”に

近づいていく。


計算する人。

祈る人。

見ようと決めた人。

見ないと決めた人。


そのすべてを乗せて、

アストレアAのカウントダウンは

残り一日。


アストレアA打ち上げまで、あと1日。



本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。

This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.


100日後、巨大隕石落下

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