テラーノベル
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どうも、れもんです。前編後編にしようとしましたが、やめました。
今回は致していません。彰人と絵名の絡みは少ないです。正直、見なくても後編見れるんじゃないかと思います。
瑞希と絵名が多いです。彰人は少ないです。前回よりも短いです。
念の為のRです。
それではどうぞ。
✦︎︎✦︎︎
鬱陶しいほど眩しい太陽の光がカーテンの隙間から差し込むせいで目が覚めてしまった。
「……あさ、か」
なんでだろう。朝は訪れてほしくなかった。やっぱり、私の心と対照的で憎らしいからだろうか。
「…いいなぁ」
綺麗な朝日に私は見惚れる。ずっと見惚れて弟のことを忘れてしまいたい。
そう思うのは罪でもなんでもないだろう。
絵名は現在時刻を確認するために机の上に置いてあったスマホを手に取った。
「……え゙!?なにこの通知……?」
スマホに表示されるのはたくさんのSNSの通知。大体は『いいね』と『コメント』だった。
「なにこのいいね数とコメント……、まさか昨日の投稿、バズったの?」
絵名は急いでスマホのロックを解除して、SNSのアプリを開き、昨日の投稿を見た。
「い、1万いいね……!?な、なんでこんなバズって……!?」
『えななん好きピいたの⁉️😱ショック😨 でも可愛すぎる😍』
『病みかわでえななん可愛すぎる』
『求めるな』
『病みかわ可愛すぎるー!』
「なるほど……昨日の病みかわがバズったみたいね……これは絵にも使えそうかも、」
絵名はいつのまにか“弟”のことを忘れてしまっていた。
「……俺は絵名にとって、価値はそんなになかったのか」
彰人は絵名の部屋の前でぽつりと呟く。
弟のことよりSNSのバズり、の方が絵名にとって重要なのか。
「……期待してたのは、俺だけかよ」
彰人は『求めるな』とかかれたコメントを静かに見つめては溜息を吐いた。
散々求めていたくせに。まるで子供の玩具の扱いだ。
ガチャッと扉が開く音がした。
「…………っ、彰人?」
絵名は目を見開き、彰人を見つめる。
「……、」
ふいっと彰人は絵名と目を逸らし、その場から立ち去った。
「あっ…………、彰人……」
名前を呼んでも彰人は立ち止まらずに、歩いてゆく。
「っ……」
頬に生温い水が垂れてきた、そんな気がした。
「お風呂行こ…………」
✦︎︎✦︎︎
ジャアアアッとかビタビタッとか、そんな水の流れる音がお風呂場に響く。
「……忘れたいなぁ…、」
いっそのこと“今までのこと”を忘れたら。なんて馬鹿で塵で、ありえない妄想をする。でも、その妄想が現実だったら、どれだけの楽なんだろうか。
「……ぁ、」
いや、忘れることなんて無理だ。無理に決まってる。たとえ記憶から消し去ったとしても、別のものが“今までのこと”を証明してしまう。
例えば、首元にある紅い跡か、噛んだ跡とか指が三本余裕で入りそうな蜜壺とかが今までのことを醜いほど証明してしまう。
「これが……愛の表れだったら……良かったのに……」
これが愛だったら、私は今日だって弟の部屋に行って、抱きにいってもらっていたな。
絵名の涙は流れなかった水と同化して、泣いた痕跡を残さなかった。
「痕跡…消えちゃえばいいのに……」
泣いた痕跡も、全部消えていくのに。
「うっ……っ…」
1番消えて欲しい痕跡は、綺麗に残ってしまった。
「……ただの姉なんかにつけないでよ、」
絵名は胸元にある鬱血痕をそっと撫でた。
✦︎︎✦︎︎
「……」
朝食を静かに口に入れる。味覚はあるが、美味しく感じなかった。
彰人の世界が色褪せたような気がする。水彩絵の具が水にかけられて垂れながら色が落ちてゆくような、そんな感覚。
「…彰人元気ないわね、なにかあったの?」
母親に急に尋ねられ、彰人な思わず肩を震わした。
「いや、別に…」
こういうときに母親は鋭い。普段から見ているからだろう。
「絵名も元気ないのよ…何か知らない?」
「どうして俺に聞くんだよ?」
まさか悟られてる?と思い少し彰人は不安になる。
「あなたが1番、絵名のことを理解してそうだから」
ぴたりと彰人の動きが止まる。
確かに、1番理解しているかもしれない。いや、1番見てきたの間違いだろう。
「そんなことねぇよ、」
俺は絵名のことを理解していない。どういう男が好みで、誰と付き合ってたか。それなのになんで俺を求めていたのか。
都合のいい道具?でもそれだけで血縁のある弟を求めるか?道具を求めるなら風俗とかに行けばいいだけ。
___期待してしまう。
「ご馳走……」
彰人は絵名とすれ違いように自室は戻った。
「ねぇ絵名、彰人の様子がおかしいの、何か知らない?」
薄らと母親の尋ねる声が聞こえた。
✦︎︎✦︎︎
一人の少女とネモフィラが描かれたタブレットの液晶画面を絵名は凝視する。
「違う……この色しっくりこない…、濃い暖色系は逆に目立ちすぎるし…寒色系の色は目立たない…… 」
絵名は無意識にぶつぶつと独り言を零していた。
『絵名大丈夫?最近絵スランプなの?』
いつもの雰囲気が消え去った瑞希のノイズのかかった声がスピーカーから聞こえる。
「…スランプ、そうかも。ねぇ、瑞希、ここ色、何色がいいと思う?」
まさか絵の素人の瑞希に質問してしまうなんて。それくらいスランプなんだろう。
『う〜ん、淡い橙とか?』
「……橙、」
試しに絵名は淡い橙を塗った。
悪くはない。寧ろベストだ。なのにこの色を見ると苦しくなる。
『絵名?合わなかった?それとなんかあった?』
「あっ……ううん、あってるよ、あと……なんでもない」
『なんでもない、なんでもないってさあ…えななん、隠す気、そんな声色であ〜るの?』
絵名は瑞希が画面の向こう側でニヤニヤしているのを確信した。
隠すのも面倒臭い。純真無垢な奏も電話にいない。恋愛に疎そうなまふゆも今、学校。
そういう生々しいことを気楽に話せるのは瑞希だけ。
「…多分、セフレに、終わりにしようって言われた」
『え!?それって……秋月篠夜くんだっけ?』
「そう、篠夜」
嘘。本当はそんな名前じゃない。東雲彰人を少し変えただけ。周りに言う勇気なんてなかったから。
『まぁ、でもただのセフレなんでしょ?そんな気分下がるなんて____まさか本気だったの?』
ただのセフレじゃない。弟で想い人。
「……本気だった。だって………優しかったから」
ただのセフレだったのに壊れ物を扱うように優しかった。触れる手も今まで触られてきた中で1番優しかった。元々十分優しかったけれど。
『もしかして、横暴にされると思ってたの?』
瑞希の言葉は悔しいほど絵名にとって図星だった。
「あ、当たり前じゃない!だって…ぁきt、秋月なんだから!」
しまった、と思い口に手を当てるがもう遅い。
『秋月?名字呼びにするの?ていうか篠夜くんって年下?』
瑞希に聞こえてなくて良かったと絵名は胸を撫で下ろした。
「…年下…」
そう言って絵名は口を噤み、タブレット端末用のペンシルを使って淡い橙を塗る。
暫く沈黙の時間だった。
『そんなに名残惜しいなら最後に抱いてもらったら?絵名の調子が悪いとまふゆとか奏にも心配されて、迷惑かけるかもよ?』
そう言われて絵名の手の動きが止まった。
「……_」
言葉が出ない。奥底で痞える。いいのかな。拒否されてしまったのにお願いするなんて。でも奏とまふゆに心配されたくない。
「分かった、話してみる」
『話すんだ、連絡もしないで〜?』
画面越しの瑞希は再びニヤニヤしていると絵名は思った。
もしかして、バレてる?
『東雲彰人、いや、秋月篠夜…なんて、ほんとーに隠す気あるの?』
「……気づいてたの?」
『弟くんに見せる顔が恋する乙女の顔だったから〜!』
瑞希の観察眼は鋭い。絵名が彰人に向ける眼差しまで見ているとは。
「……彰人、拒まないかな?」
今にも消えてしまいそうなくらい小さな声で絵名は瑞希に尋ねる。
『絵名のこと壊したくなかったんじゃない?』
絵名が求めていた答えとはかけ離れていたのに。瑞希の出した答えは、何故か絵名を安心させた。
「……何を、今更…、っ」
絵名の頬に生温い涙が伝う。
“初めて”の痛みを味わせたのはあいつのくせに。もうとっくに壊れているのに。
「馬鹿…馬鹿……」
泣きじゃくる絵名に瑞希は声をかけなかった。
(本当は、互いのこと大切にしたくて、でもそんな関係になって、今更大切にしたいなんて馬鹿げてるって…2人はそう思ってたのかな)
瑞希は絵名の嗚咽が聞こえるPCのスピーカーに寄り添うように触れた。
『瑞希…っ、ありがとう…、』
二人が歩む道はきっともう一つの荊棘。
今度こそ、後編は続く
コメント
1件
最高でした…れもんさんの作品を読むことが生きがいです🥹後編も楽しみにしてます!