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高い天井。
赤い絨毯が敷かれた城の廊下を、ローレンは静かに歩いていた。
『……ここが、私の部屋でしょうか』
「そう。今日からここ使え」
『……ありがとうございます、葛葉様』
ローレンは深く頭を下げる。
彼は“買われた”。
王族吸血鬼である葛葉の所有物として。
「そんな固くなんなくていい」
『いえ、私はあなた様の血の糧……』
「違う」
ローレンは驚いて顔を上げる。
「俺が欲しかったのは、血だけじゃねぇ」
『……では、何を』
「……話し相手」
『……は?』
思わず敬語が崩れかける。
「この城、広いし静かだし」
「誰も本音言わねぇし」
『……それで、私を……?』
「市場で一番、目が死んでなかった」
『……光栄なのか、分かりません』
「褒めてる」
ローレンは戸惑いながら、部屋に案内される。
『……首輪は』
「つけねぇ」
『……なぜ』
「逃げねぇだろ」
『……保証は』
「お前の目」
『……よく分かりません』
夜。
ローレンは呼び出され、葛葉の部屋へ向かう。
『失礼します』
「座れ」
『……はい』
ローレンは跪こうとするが、葛葉が止める。
「椅子」
『……失礼します』
沈黙。
「……怖いか」
『……正直に申し上げますと』
『怖いです』
「だろうな」
『私は……血を吸われるために生きる存在です』
「……違う」
『え』
「俺が吸うのは、必要な時だけ」
『……では、それ以外の私は』
葛葉は少し目を伏せて言った。
「……生きてていい」
ローレンの目が揺れる。
『……それは、命令でしょうか』
「願い」
『……』
「お前、名前は」
『……ローレン・イロアスです』
「長ぇ」
『……すみません』
「ローレンでいい」
『……はい、葛葉様』
「様いらねぇ」
『……では、葛葉』
「それでいい」
ローレンは胸に手を当てた。
『……不思議です』
「何が」
『買われたはずなのに……』
『……守られている気がします』
「俺の城にいる以上、俺のものだ」
『……所有、ですか』
「責任だ」
『……』
ローレンの目に、うっすら涙が浮かぶ。
『……私、商品でした』
「今は違う」
『……なぜ、そこまで』
「……気に入ったから」
『……理由としては、曖昧ですね』
「俺もそう思う」
二人の間に、静かな空気が流れる。
『……葛葉』
「ん」
『もし、私が逃げたら』
「追う」
『捕まえたら』
「……二度と手放さねぇ」
ローレンは小さく微笑んだ。
『……では、逃げません』
「素直だな」
『あなた様が、私を“人”として見てくださったからです』
「……吸血鬼だけどな」
『……それでも』
『私の王です』
葛葉は少しだけ、照れたように視線を逸らした。
「……勝手に決めんな」
『……失礼しました』
でも、ローレンの声はどこか嬉しそうだった。