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『血塗られた戦旗』の野営地から一部の部隊が出撃して『ラドン平原』を東へ向かう。監視していた『猟兵』からの緊急連絡を受けたシャーリィ達は、予定通りの展開を見せていることに先ずは安堵した。

「多数の馬車を引き連れています。そしてそれとは別に馬が牽いているのは、車輪の付いた長い筒。事前情報にあった大砲と思われます」

執務室にてリナがシャーリィに報告をあげる。

「リナさん、行き先を監視してください」

「はい、代表。二組を監視に回しています。それと野営地から昇る炊事の煙が増えました。何らかの行動を起こす前触れだと思われます」

「宴会、或いは携帯食料を作っている可能性が高いですね。宴会ならば出撃前の宴ですか」

「その通りです」

「総攻撃は西側から行われるのが望ましい。誘引できますか?もちろん工作部隊も動いていますが」

「やってみます!」

リナは一礼して足早に部屋を出る。それを見届けてシャーリィの傍らに佇むカテリナが口を開く。

「いよいよですか」

「はい、シスター。『暁』始まって以来の強敵になります。数は既に九百を越えたと思われます」

「はぁ……最低でも四倍ですか。既に組織の戦いではなく領主同士の戦いのようですね」

「領主、それも良いですね。カナリア様との提携が成れば、私の名前も広がります。領主として振る舞うのも吝かではありませんよ」

「貴女の素性を明らかにすれば、敵が増えますよ?」

「同時に、これまでほとんど手掛かりを掴めていない黒幕についての動きも期待できます。帝都にいらっしゃるルドルフ叔父様は不快でしょうが」

「叔父が居るのですね?」

カテリナは始めて聞いた話に関心を示す。

「日和見で権威に弱い。昔から大嫌いな人なので、関わるつもりはありません。まして助けを求めるなど論外です」

「レンゲン公爵家は信用に値すると?」

「信頼できる身内です。カナリア女公爵様は従姉妹になりますし、今回の話を粗略には扱わないでしょう。なによりガズウット男爵は派閥の意向を無視して好き勝手にやり過ぎた。それを叩き潰す材料を私達が提供するのですから」

「どう転んでもレンゲン公爵家に損はないと」

「明確な利を示せれば、カナリア様は必ず動いてくれます。もちろん私達姉妹が本物であると証明できれば、ですが。レイミに期待しましょう」

「はぁ……相変わらず綱渡りのような危ない真似を。少しは落ち着きたいものです」

「ご安心を、シスター。この問題が片付いたら内政に注力するつもりです。まだまだ戦力が圧倒的に足りないことを自覚できましたし、『黄昏』を更に拡大したいと思います。先ずは一万人ですね」

既に『黄昏』の人口は六千を越えており、大都市として拡大を続けていた。

「一万人とは大きく出ましたね。上級貴族並みの人口を抱えることになりますよ?」

「お忘れですか?シスター。私、伯爵家の娘なんですよ」

おどけるシャーリィにカテリナも薄く笑みを浮かべる。

「知っています。貴女が貴族社会と関わりを深めるなら、伯爵家再興を掲げるのも悪くありません。シェルドハーフェンの連中は嫌うかもしれませんが」

「そこが問題です、まさか貴族がこんなに恨まれているとは思いませんでした」

善政を敷いて領民に慕われていたアーキハクト伯爵家の令嬢であるシャーリィは知る由もなかったが、基本的に貴族は圧政を行っており領民感情は決して宜しくはない。

「ガズウット男爵の件をどうにかするには、素性を明かさねばなりません。既に策を行使している以上変更はできません。しかし、それによってシェルドハーフェンでの関わりが難しくなるのは避けたい」

悩む愛娘を見てカテリナは少しだけ頬を緩める。

「簡単な話です。貴女が貴族だと毛嫌いする者は居るでしょうが、そんな器の小さな連中は気にしなくて良いのです。シャーリィは明確な利を示せば良い。感情を優先して利を逃すような小物のことを考える必要はありません」

「……なるほど、言われてみればその通りですね。身分を振り回すつもりもありませんし」

「まあ、敵は増えますよ。間違いなく」

「構いません。何れはガウェイン辺境伯にシェルドハーフェン周辺の統治を頂くつもりですので」

シャーリィの密かな野望にカテリナは、少しだけ目を開く。それはつまり暗黒街の制覇を語っているようなものである。

「大望ですね。これまで誰も成し遂げることは出来ていませんよ?」

「それを成し遂げたて、ようやく帝都へ乗り込む下準備が終わります。先は長いので、長生きしてくださいね?シスター」

「年より扱いしないように。まだ三十代ですよ」

親子の語らいで息抜きをしたシャーリィは、リナ達からの続報を待ちつつ西部陣地へ向かった。

シェルドハーフェン西部から『黄昏』へ侵攻するならば、北部か西部が最短ルート。南部へ向かうには川を渡らねばならず、東部については大きく迂回せねばならない。

大軍を率いてはいるが、内側が不安定なリューガは短期決戦を仕掛ける他なく西部陣地へと向かっていた。

北部陣地はパーカーが全滅した場所であり縁起が悪いためであるし、工作員達がそれを最大限煽るように流布して不信感を植え付けた。

そしてその行動こそが『暁』の狙いであった。噂に流されたのか、大砲は大きく迂回して町の東へ向かっており、そちらも想定通りの展開となった。

「奴らの目標は町の占拠です。復興などを考えると市街地への砲撃は避けると思われますが、こればかりは分かりません。射程から考えれば、全域を砲撃可能ですからね」

東部は稜線が多く起伏が激しい。そのため高台に陣取る敵をこちらから砲撃するのは厳しいのが実情であった。

「ハインツの戦車隊の働きに期待する他ありません。敵が総攻撃を開始すると同時に陣地を強襲する計画です」

天幕を張った野戦指揮所でマクベスが地図を片手に説明する。

「砲撃に対する備え、トーチカの設営はどんな調子ですか?」

コンクリート擬きの量産に成功しつつある『暁』は、レイミの提案によりコンクリート陣地。すなわちトーチカ、あるいは|掩蔽壕《えんぺいごう》と呼ばれる陣地の建設に取り組んでいた。

これは分厚いコンクリートの建物で、銃眼を備えた防衛拠点であり、敵の銃砲撃から兵士を守りつつ反撃を行えるような作りとなっている。

「はっ、ドルマン殿達が優先して建設を行っておりますが、数基程度しか完成しておりません。なにより突貫工事ですので、強度試験も最低限。いささか不安はあります」

「それでも砲弾の破片や銃弾から皆を守ってくれる。敵が砲撃を開始したら可能な限りトーチカへ避難し、出来ない場合も塹壕内で姿勢を低くするように。野戦指揮所もトーチカの一つに移動してください。砲撃で吹き飛ばされてしまいますよ?」

「はっ!」

マクベスと打ち合わせをしたシャーリィの下へ急報が飛び込む。

『血塗られた戦旗』の本隊が野営地を引き払って出撃。南下していると。

いよいよ決戦の時が間近に迫ったと確信したシャーリィは、民間人達をシェルターに避難させ自分も幹部達を引き連れて西部陣地へ入った。

暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~

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